第2章 ウラエイモス樹海調査団〈9〉
ただし、おなじ魔装槍将アフマルドパーティー内にいる戦鬼の犯行ではない。100人でパーティー登録したのは同士討ちや裏切りを防止するためでもある。
パーティーメンバーのログイン、ログオフの時刻はすべて記録されているし、魔装槍将アフマルドのパーティーに野営後の不審なログインもない。
『……と云うことは盗賊団?』
『おそらく』
ウラエイモス樹海調査団のクエストはだれでも知っている。樹海を野営しながら踏破することも。盗賊団はそれをねらったのだ。
しかし、広大なウラエイモス樹海で4つのパーティーにわかれたかれらがどこで野営したかを推察するのはむずかしい。
プレイ時間の上限が決められている以上、ウラエイモス樹海調査団を尾行し、全員のログオフを確認した上で凶行におよぶだけの時間的猶予はない。
『攻撃力で云えば、私たちのパーティーがもっとも脆弱なはず。それでもアフマルドのパーティーを襲ったと云うことは、私の結界を警戒してのことかしら? 今後の予定と対策は?』
『当初の予定どおりで、とのことです。これだけ姑息なマネをする盗賊団ですから、白昼堂々襲ってくることはないと思います。ただし、それぞれのパーティーが監視されている可能性があるので、警戒を怠らないよう注意してください』
『わかりました。なにかわかったらお知らせください』
『はい。失礼します』
念話をおえたエスメラルダがパーティーの面々へ告げた。
「なんともイヤな話ではありますが、このパーティーには私の結界があるのでご懸念にはおよびません。……パトリシア」
「は、はいっ!」
パトリシアとよばれた黒髪の銃妃が突然の指名に硬直した。オフィーリアやシンキとともに右翼をかためている銃妃だ。
「あなたは昨夜、日本標準時午前3時5分から10数分ログインしていますね? これは?」
「あ……それは、夜中に目がさめたんで、ちょっとアイテムの整理をしておこうと思ってログインしたんです。……あの、私、盗賊団とかじゃありません!」
「わかっています。ログイン時になにか妙な気配とかは感じませんでしたか?」
「いいえ。私ゲルから一歩も外にでていないので、そう云うのは感じませんでした」
「そうですか。ありがとう」
エスメラルダがパトリシアに会釈した。
「このように、私たちパーティーの行動はしっかり記録されていますので、だれかが怪しい動きをすればすぐにわかります。すくなくともパーティー内に裏切り者はいないので、安心してクエストをこなしましょう。それでは出発します!」
クロイヴェルド・ロッドを高々とかかげると、パーティー全員が右手を上げてこたえた。
「オーッ!」
一行は隊列を組むと西へ向かって歩きだした。
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「……しかし、さすがだな」
「なにが?」
後衛に陣どるふたりの戦鬼が小声で会話していた。『紅蓮の傭兵団』のイスカリオテとマルコロメオだ。
「エスメラルダさんだよ。パトリシアって銃妃をダシに、みんなの不安を一瞬で払拭させるなんて」
「たしかに。でもまだ不安が払拭されたとは云えないけど」
「どうして?」
「わからないのか、イスカリオテらしくもない。一応、盗賊団のしわざってことになってるけど、本当にそんなものがいるかどうかもわからなければ、その規模もつかめていないんだぜ。たとえば、ぼくたちの担当地区はギザグソクムシで移動中にはじめて知らされた」
「うん」
「てことは、盗賊団がぼくたちをねらわずにアフマルドのパーティーをねらったのは偶然かもしれなかったってこと。ぼくもいたずらに不安をあおる気はないけれど、つぎにぼくらのパーティーがねらわれないって保証はどこにもない」
「云われてみればそうだな」
イスカリオテがうなづいた。マルコロメオがつづける。




