第2章 ウラエイモス樹海調査団〈8〉
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「はじめまして、魔装剣妃ヨッシーこと篁芳乃なのら!」
「昨夜は失礼しました。魔装銃妃オフィーリアこと草壁市姫です」
成城寺学園1年C組教室前の廊下で顔をあわせた『紅蓮の傭兵団』リーダーの魔装剣鬼イスカリオテこと佐竹秀吉と魔装剣鬼マルコロメオこと松前元就が、女性陣のかわいらしさに相好をくずした。沖田の意味ありげな目くばせに松前が小さくうなづく。
もちろん、神装槍鬼シンキこと幡随院信輝、神装槍鬼ゲオルギウスこと柳生重隆に織部と沖田も一緒だ。
教室に入らず廊下で立ち話しているのは、他学年の生徒が教室へ入ることに違和感をおぼえるためだ。同学年ならさほど気にならないのに、他学年となると異質感が際立つ。居心地が悪い。
「おなじ学園の先輩と『ドラグーン・ゲヘナ』で会うとは思いませんでした」
「しかも最初の出会いが、ジギゾコネラ火山での地震なんて、すごい偶然だよね」
「なんかあそこから物語が動きだしてる気がするのら」
「やっぱりなんか大きなシナリオ展開があるのかな?」
「あれ? 柳生くん、やっぱゲオルギウスの時としゃべり方ちがうね」
「面目次第もござらん」
「いやいや、むりにキャラつくらなくていいって」
「そう云えば、城塞都市アギハベラミド組はどんな状況なんだろ? あとで彰子に聞かなくちゃ」
法印魔導師エスメラルダ・パーティー成城寺学園組が盛り上がっていると、登校してきた御厨紫峰が通りすぎた。たまたま会話の外にいた織部と御厨の目があうと、御厨が織部へ会釈した。
「おはよう。織部くん」
「……ああ、おはよう」
これまで口を聞いたこともない学園一の美少女からふつうに挨拶をされて、織部は思わずうろたえた。そのようすを目ざとく見ていた沖田が、織部の元へ近づいてささやいた
。
「ちょ、ちょっと、織部くんどう云うこと? ぼく、御厨さんから男子に挨拶するところはじめて見たよ」
「……云われてみれば。なんだろ?」
織部が呆然と頭をふった。
「今日はどの程度進めますかね?」
「昨日は樹海までの移動で時間をロスしたから、今日は5つくらいマーカーを打てるんじゃないかな?」
信輝の質問に佐竹がこたえた。
「ウラエイモス樹海のクエストがおわったら、どれだけレベルアップできているか楽しみですな」
嬉々と語る柳生の背を長宗我部があらあらしく肩で突き飛ばした。
「おっと、悪りいな、デブ」
「くっ……長宗我部」
強気に云いかえすこともできず柳生が唇を噛んだ。柳生に長宗我部とケンカするだけの度胸はない。あくびをしながらけだるく笑う長宗我部の瞳の奥が妖しく光っていた。
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『……野営中に襲われた!? アフマルドのパーティーが!?』
ウラエイモス樹海調査団・2日目は凶報で幕を上げた。
『ドラグーン・ゲヘナ』にログインした法印魔導師エスメラルダのパーティーが出立の準備を整えていたら、エスメラルダのもとへ魔装槍将アフマルドのパーティーの魔導師マルキリップから連絡が入った。
おなじパーティーの魔導師はテレパシーによる遠距離通話ができる。エスメラルダはその会話をパーティーの全員へ中継した。
魔導師マルキリップによると、野営地の外側にいた3人がログオフ中に殺されて装備やEPをうばわれたと云う。
ふつうのゲーム設定ならログオフ中に殺されるなんてありえないが、戸外で野営すると次回ログイン時にドラゴンやモンスターにかこまれていることがあると云うことは、ログオフ中もその場にいると云うことを意味する。
ゲル所有者の許可なしに戦鬼が他人のゲルへ出入りすることはできない。すなわちゲルの結界プログラムを黒魔法で解除して凶行におよんだこととなる。




