第2章 ウラエイモス樹海調査団〈7〉
「昨日は自己紹介できませんでしたが、ぼくは魔導師ムードラです。沖田宗巌と云います」
「そうだと思った。アバターもリアルもあんまりイメージかわらないね」
「それって褒められてるんでしょうか?」
「そのつもりだけど」
「先輩、よくおれのことわかりましたね?」
部活動に入っていない織部と沖田は先輩の知りあいが極端にすくない。おなじ寮の同級生を通して上級生の知遇をえることはあるが、松前元就とは接点がなかった。
「寮玄関の名札でふたりの名前にはなんとなく見おぼえがあったし、さっき沖田くんがきみのことオリベくんってよんでたのが聞こえたんで」
タネをあかせば偶然だ。沖田が松前にたずねた。
「先輩、運動部の人ですか?」
「いいや。でも風呂や食堂であまり一緒にならないのは、生徒会の仕事をしているから。登下校時がさだまらないんだ」
生活サイクルによっておなじ寮生でもよく会う人、会わない人がいる。ふたりとも松前の顔は知っていたが、よく会わない人の部類に入るため看過していた。
「イスカリオテさんは?」
「佐竹は白虎寮。あとで紹介するよ。……あ、オフィーリアさんはオフ会的なノリとかイヤな人なんだっけ?」
「いいえ。オフィーリア草壁市姫は『ドラグーン・ゲヘナ』の世界にリアルをもちこまれるのがイヤなだけです。リアルの世界では『ドラグーン・ゲヘナ』の話しかしません」
「オタクみたいな云い方するとヘソ曲げるよ」
織部の説明に沖田がくすくす笑った。
「そうだ。あとでショックをうけたくないんで先に聞いておくけど、リアルのオフィーリアとヨッシーってアバターどおり?」
「……先輩も好きですね。リアルもおなじくらいかわいいです。期待していいですよ」
沖田がさらっと云った。
『ドラグーン・ゲヘナ』アバターの顔貌は額のすこし盛り上がった角や瞳が異なるので、本人が自分そっくりのアバターに設定しているつもりでも、そのままリアルの顔を想像することはむずかしい。
しかし、シンキやゲオルギウスのように、よほど本人とかけはなれた設定にしていないかぎり、雰囲気や印象はつたわる。オフィーリアやヨッシーのアバターはリアルのふたりを見て納得できるくらい近い。
「そっか。よかった。リアルがとんでもないブーちゃんだったりしたら、動揺が顔にでる気がして」
「……むしろパーティーの女のコたちがシンキやゲオルギウスのリアルを期待したらガッカリするかもしれませんけど」
沖田がよけいなことを云い足して笑った。槍鬼のアバターは隆々たる筋肉の威風堂々とした巨漢タイプが多い。むしろ現実ばなれしている分、アバターにリアルを重ねて見ようとする人のほうがすくないはずだ。
「おれのアバターも、おれほど背が低くありませんしね」
オリベがツッコまれる前に自嘲した。『ドラグーン・ゲヘナ』に背の低いアバターはない。
「巨大なドラゴンを前に戦鬼の背の高さは関係ないよ」
松前がこともなげに云った。
「異性のアバターにふくらむ期待感と同性のアバターを見る目はちがうよ。つまんないこと気にしなくていいって。……ごちそうさま!」
沖田が朝食をたいらげた。織部もつづいて完食する。
「それじゃ先輩、またあとで。2年B組でしたっけ?」
「いや。ぼくらの方からきみたちの教室へ顔をだすよ。1年C組だよね?」
「ええ、そうです」
「それじゃ、またあとで」
空になった朝食のトレイをもって立つ織部と沖田に松前が小さく手をふった。




