第2章 ウラエイモス樹海調査団〈4〉
まだ日は高いはずなのだが、樹海の中はさすがに冥かった。また、先の地震の震源地に近いこともあって、地面がかなり隆起しているところもあれば、地割れしているところもあり、おちこちで木々がひきぬかれたかのように根っこから倒れていた。
「かなり歩きづらいな」
前衛をいく魔装槍鬼が足元に倒れた木々を槍で押しのけながら鬱陶しげにつぶやいた。
「みなさ~ん、ところどころぬかるんでいるので、足元気をつけてくださ~い」
エスメラルダが遠足を引率する先生みたいにうしろへ声をかけると、
「は~い」
と気のぬけた返事がかえってきた。
「痛ましいかわりようですね」
かつてウラエイモス樹海へ何度もきたエスメラルダが愁眉した。
「このあたりにあらわれるモンスターってどんなのですか?」
となりを歩くムードラがたずねた。
「えっと、そうですね。基本はレベル18の飛蛇グイヴェル。食人花リクイソギンやドラゴンモドキ、カクレクマムシ、ゾンデライオン……あとはなんだっけな?」
「4時の方向、ゲオクロイヴです!」
右翼をかためるオフィーリアの言葉にエスメラルダがうなづいた。
「そうそう。厄介なのが2m級の駆咬竜ゲオクロイヴ……って、みんな気をつけて!」
エスメラルダの言葉に全員が緊張した。
「ゲオクロイヴは群れでパーティーを包囲します。姿を見せたのはおとりで本隊は別方向からきます。右翼は戦闘開始してくださいっ!」
「はいっ!」
オフィーリアが返事と同時に魔装美麗剣銃をぶっぱなした。おなじく右翼をかためる黒髪の銃妃も魔装徽剣銃のトリガーをひく。
「ギシャア!」
森の奥からゲオクロイヴの悲鳴が上がると、それまでなんの気配もしなかった周囲が殺気につつまれた。
冥い木々の奥を姿の見えないゲオクロイヴが円を描くようにかけまわる。樹海を西北へ進むパーティーの右ななめ前から3匹のゲオクロイヴがでたらめに隆起する地面をものともせず、大股で飛ぶようにかけてきた。
スラリとした鳥脚類の恐竜を彷彿とさせる俊足のドラゴンである。短い前足の先には熊手のように大きな3本指のかぎ爪が獲物をひき裂かんと待ちかまえている。
「灼熱突刹槍!」
「蓮華散弾!」
前衛右側の槍鬼と銃鬼がゲオクロイヴへ攻撃した。槍鬼は1頭をみごとに刺しつらぬき、銃鬼は散弾で2匹のゲオクロイヴをねらったが、先頭のゲオクロイヴを楯に散弾を避けたゲオクロイヴが長く大きなうしろ足で太い木の根を蹴ると、パーティーの頭上へ舞った。
「うおおおっ!」
迎撃したのはオリベだった。2本の魔装斬双覇剣を交差させるとゲオクロイヴへむかって飛んだ。
「双剣十字斬!」
空中でふり下ろされたゲオクロイヴの鋭い前足を魔装斬双覇剣のひじまでガードする角のような突起でうけると、そのままの勢いで双刀四断した。
「サンキュー、剣鬼!」
ゲオクロイヴを撃ちもらした前衛の銃鬼が短くさけんだ。着地したオリベが双剣をカチリと打ち鳴らしてそれにこたえる。
パーティーの左側からも3匹のゲオクロイヴが樹海の木々を楯にジクザク走行でせまってきた。
「きゃつらは拙者が足どめする! むぅん! 棘鎖網散華!」
ゲオルギウスが神式打突重鉄球を突きだすと、先端の大きな鉄球についた無数の棘角が四方へ発射された。
細い鎖のついた棘角が縦横無尽に飛びまわり、猛獣除けの網を張る。棘鎖網散華にからめとられて勢いの殺がれたゲオクロイヴをふたりの銃鬼が冷静に射殺した。




