第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈2〉
「ひっど~! ねえオフィーリア。今日の放課後、もう一度そのジギゾコネラ火山いくのら! ヨッシー、レベル40のエンドラ狩りたいのら! レベルアップしたいのら!」
「アバター名でよばないでよ。恥ずかしいでしょ?」
「ヨッシーはオフィーリアがウンと云ってくれるまで、リアルでもオフィーリアってよびつづけるのら。おねがいなのら、オフィーさま!」
「だったら、おれもまぜてくれよ、オフィーさま」
芳乃の言葉に重隆も乗った。
「柳生くんまでお姫さまみたいなよび方しないでくれる? ……私はいいけど、織部くんと幡随院くんはどうする?」
「おれもレベル40のエンドラ見てみたいからいいよ。信輝は?」
「教団からの急な依頼がなければ、ぜんぜん大丈夫」
教団とは『ドラグーン・ゲヘナ』の世界におけるアスタトロス教団のことだ。
信輝は教団所属の魔装槍鬼であり、教団から仕事の依頼が入ると、そちらを優先しなければMPの上限が減る。教団の庇護の下だと通常よりもMPの上限は上がるが、教団にそむくことはできなくなる。
「それじゃ何時にしよっか? みんな〈リンクス〉は寮においてあるから帰ってからだよね。4時半?」
「5時」
市姫の言葉を織部が修正し、みんなが小さくうなづいた。
「集合場所は? 私たちは昨日、オルムテサミドの宿屋でセーブしたんだけど、柳生くんとヨッシーはどこでセーブした?」
「おれはオルムテサミドの教会」
「ヨッシーどこだったかな? え~っとね、あ、オンドロイボナの森ら!」
「野営!? だれと?」
信輝が目をまるくして芳乃へたずねた。
「ひとりに決まってるのら。……どうせあっちでもこっちでもカレシなしなのら!」
妙な拗ね方をした芳乃へ沖田が説明した。
「ヨッシー、レベル26だよね? ヘンなところで野営すると、つぎのログイン時にモンスターやドラゴンにかこまれてることがあるらしいからあぶないんだって」
「にゃにゅにょ!? そうなの?」
「ルール・ブックに書かれてたでしょ?」
ゲーム開始時に全員がもっているアイテム『竜退治の書』である。
「おれも1度だけ教団の仕事で集められた10人くらいのパーティーで野営したことあるけど、つぎにログインしたらレベル18のサーバルドラゴンの群れにかこまれててさ。人数多かったからすぐに全滅させたけど、ヨッシー、ヤバいんじゃね?」
「ヨッシー、ヤバいのかな? ヤバいのかな?」
動揺する芳乃へ織部が云った。
「おれたちがひと足はやくログインしてヨッシーのところへむかえばいい。オンドロイボナの森なら方角的にはジギゾコネラ火山側だから、たいしたより道にはならない」
「じゃあ、おれたちは5時にログインして、オルムテサミドの教会に集合。ヨッシーは5時10分にログインすればいいんじゃないか?」
信輝が織部と沖田と市姫の顔を見ながらたずねた。オルムテサミドに宿屋はいくつもあるが教会はひとつしかない。昨日のパーティーが全員うなづいた。自分のいる教会へきてくれると云うのだから柳生にも異論はない。
「それじゃ決まりだね。それでヨッシーは森のどのあたりで野営したの?」
「ぬふ~、どこらったかなあ?」
芳乃がボンボンみたいな短いツインテールをかしげて、小さな身体と反比例するたわわな胸の前で腕組みして考えこんだ。