第2章 ウラエイモス樹海調査団〈2〉
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「私が今回ウラエイモス樹海調査団の指揮を執る『深紫の百足団』リーダーの魔装槍将アフマルド、レベル58だ」
クエストにエントリーした99人の面前で、3本角の兜を小脇にかかえ、神式突刹徽槍をたずさえた堂々たる巨漢が自己紹介した。
金の縁どりがほどこされた緋色の美しいマントに劫焔竜ベヘルフィドルスのウロコでつくられた紅白の無骨な甲冑を着こんでいる。
「すげえ! 本当にレベル50ごえの魔装槍将なんていたんだ」
おなじ槍遣いのシンキが感嘆した。
「なんでムカデなんだろ? カッコ悪くない?」
ムードラの場ちがいな疑問にオフィーリアがこたえた。
「日本の伝説じゃ竜はムカデに弱いのよ」
「似た者同士って云うか、親戚っぽい気がするけど意外だね」
「そうね」
戦鬼たちのレベル上限はドラゴンの100に劣る99と云われているが、武装などの強化でLPやMPの上限値を上げ、かぎりなく100へ近づけることができるらしい。
しかし、いちど死んだらセーブデータの消失する『ドラグーン・ゲヘナ』においてレベルアップは容易ではない。
そのため、レベル50をこえると魔装剣鬼(剣妃)は魔装剣将、魔装槍鬼(槍妃)は魔装槍将、魔導師は法印魔導師の称号があたえられる。
最高位に到達すると、魔装剣皇(剣后)、魔装槍皇(槍后)、大魔導師の称号が付与されるが、人口に膾炙しているのは、教団最強の魔装剣皇シーグルスと大魔導師ヴホシャ・リクミの名前のみである。半ば伝説と思われていた魔装槍将の姿に全員が興奮した。
「みんなマップを開いてほしい。今回の地震と噴火で地形がかわったらしく、データの表示されない箇所がある」
「ホントだ」
各々が指にはめた〈メモリング〉でマップ画面を開くと、マップを区切る小さな六角形のマス目の北方データが黒くなっていた。マス目の中で『NO DETA』の小さな文字が赤く明滅している。
「我々はかの地を踏破し〈マーカー〉を打ちなおすことでマップデータを更新するのが任務だ。ウラエイモス樹海の中は魔装蟲輿ギザグソクムシで移動することができないため、野営をくりかえしながらひたすら歩くしかない」
「え~っ!?」
集まった一同の中から不満の声が上がる。魔装槍将アフマルドが小さく笑った。
「ウラエイモス樹海までは魔装蟲輿ギザグソクムシで移動するから安心してほしい。また100人全員で動くわけではなく、4つのパーティーに分散して踏破するので負担は軽減されるはずだ」
「そりゃそうか」
気のぬけた納得の言に周囲が爆笑した。
「そんなわけで、早速パーティーわけをしたいと思う。まずはみなのパーティー登録を解いて、全員『深紫の百足団』へパーティー登録してほしい」
アフマルドが手にした神式突刹徽槍を小さくかかげるとアフマルドの右手前に大きな画面があらわれて『深紫の百足団』のパーティーIDがうかび上がる。それぞれがコマンド画面から自分たちのパーティー登録を解消して『深紫の百足団』へパーティー登録した。
パーティー登録の利点は、ドラゴンやモンスター退治後のEPが公平に分配されることだ。
また、各人の位置がマップに表示されるなど情報の共有が可能であること、同士討ちができなくなるなどの利点もある。魔導師同士なら念話、すなわち遠距離通話も可能だ。
アフマルドの右手前に表示された画面のパーティー人数が100へ達すると、アフマルドが高揚した面もちで満足げにうなづいた。教団主導の大パーティーでもこれほどの人数が集まることはない。




