第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈21〉
市姫の抗議を聞きながし、彰子が小町と沖田へ云った。
「それじゃ小町は今夜さっそくザンボワカン神殿のクエストこなしてきて。沖田くん、いいでしょ?」
「うん。いいよ。小町さん、何時がいい?」
「午后9時くらいでどうですか?」
「了解。オルムテサミド南門に9時ね」
「よろしくおねがいします」
今夜の予定をさくさく決めるふたりを横目に柳生がつぶやいた。
「それじゃ今日はパーティー行動ができんな」
「今日はそれぞれ自分のクエストをこなす日ってことでいいじゃん」
「クエスト期間が空きすぎると、MPの上限値が下がるもんな」
「そうだね。私もキャラバン警護とかで遠出して、地震の情報でもあつめてこよっと」
「ああ。あれは気になるのさ」
「そう云えば知ってる? なんにもない平野のまん中へ荷物を下ろしてくるキャラバン警護があるって」
「なにさ?」
「深夜、平野のまん中にセーブポイントが立ってて、そこへ荷物を下ろすの。帰りぎわにうしろをふりかえると山のようにつんだ荷物がなくなってるんだって」
「怪談みたいなウワサ話まであるのか。つくづく『ドラグーン・ゲヘナ』の世界はふかいさ」
「おれもそのウワサ話は聞いたことがござる。今宵はその検証へ参ろうか?」
「オリたんはヨッシーとさっきのつづきをするのら」
「さっきのつづき?」
芳乃の冗談に織部は気づかず、真にうけた信輝が動揺した。
「お、おれは見てないぞ。織部とヨッシーがキスしてるとこなんか!」
「ちょ……なにそれ!?」
「なになに? ふたりはつきあってんのさ?」
「ふわ~、すごいですねえ」
突如として咲いた恋バナにわく女性陣に織部があわてて首をふった。
「誤解だ! あれはヨッシーがおれの熱を計ってただけだって」
「そうそう。コツンとしただけなのら」
「おでことおでこ? ヨッシー、それは男をかんちがいさせる魅惑の行動さ。好きでもない男にすると、めんどうくさいことになるさ」
「はにゃ? そうなのら? オリたん、かんちがいしたのら?」
「し、してないっ!」
「あれあれ、顔が赤いさ。もうすでに恋のクエストははじまっているようだね」
「はじまってない!」
「えっ、ウソ!?」
彰子のいぢわるな指摘になぜか市姫が動揺する。
「オルムテサミドで結婚式ら!」
「ふわ~、すごいですねえ」
「『ドラグーン・ゲヘナ』での結婚って、魔導師のぼくに仕切れるかな?」
「案ずるな。司祭である私が万事うまく執り仕切ってやるさ」
「オリたん。ヨッシー、子どもはふたりほしいのら」
「……『ドラグーン・ゲヘナ』の世界で子どもなんてどうやってつくるんだよ?」
「むこうじゃどうか知らないけど、こちらの世界では……」
「ゲオルギウス、下ネタ王子にその先を云わせないで!」
「承知つかまつった」
ゲオルギウスとよばれてその気になった柳生がうしろから沖田の口を腕で押さえこむ。
「むぐぐ……やめてくれ重隆くん、云わない云わない冗談だって……!」
こうしてかれらの昼休みはほのぼのとすぎていった。




