第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈20〉
柴田彰子はアスタトロス教団司祭アムネリア。レベル34。上杉小町は魔導師ウルコマチ。レベル18。
「司祭とはめずらしい選択ですな」
微妙に神装槍鬼ゲオルギウスの口調をひきずった柳生が柴田彰子へたずねた。
司祭は柳生ことゲオルギウスや信輝ことシンキ同様、教団所属のいわば魔導師である。パーティー全体の防御と治癒魔法に特化していて攻撃力は皆無と云ってよい。魔導師でレベルを上げてから司祭へ転じるのが一般的である。
柴田彰子が黒ブチメガネのブリッジを指で押し上げながらこたえた。
「うん。私、攻撃ってあんまむいてないし、司祭だとディフェンス魔法のMP上限値がすごく上がるのさ」
「アムネリアはレベル34だけど、MP上限値だけで云えばレベル50の法印魔導師クラスだもんね」
市姫がお手製の弁当に舌鼓を打ちながら補足した。彼女の朱雀寮は完全個室の1Kなので自炊可能だ。
「法印魔導師クラス!? すげえじゃん!」
信輝がすなおに感嘆した。
「うちのパーティーの平均レベルって25前後だから、てっとりばやく全体のレベルをひき上げようと思ったら、司祭のディフェンス力は魅力なのさ」
「沖田くんも司祭へ鞍替えしたら……って、品性下劣でアウトか」
市姫の皮肉を意に介さず沖田がこたえた。
「司祭っていろいろと制約が多いんだよ。旧宗教である廃墟の恩恵がうけられないとか、酒場への出入りができないから独自の情報収集がむずかしくなるとか、月の女神アスタミロスの恩恵がうけられない朔の日はLPやMPが半減するとか。パーティー依存の能力者だよね」
「パーティーの庇護者と云ってほしいのさ」
「存外、不便なのら」
「そこで私のサブと魔法攻撃担当に白羽の矢を立てたのが魔導師の小町ちゃんなのさ」
柴田彰子のとなりで楚とした雰囲気の女生徒が小さく頭を下げた。
「どうも。上杉小町です。まだレベル18なんですけど」
彰子がたずねた。
「沖田くんも魔導師だよね? レベルは?」
「29」
「ふわ~、すごいですねえ」
「小町さんならすぐに追いつきますよ」
素直に感嘆する小町に沖田が根拠もなくはげました。
「沖田くん。小町ちゃんのレベルアップに協力してくれない? ザンボワカン神殿のクエスト攻略のサポートしてあげてほしいのさ」
「オンドロイボナの森の南の?」
「そうさ。本当は私がついていってあげたいんだけど、今は司祭だからムリなのさ」
レベル20以下の魔導師必須のクエストである。ここで魔導師たちは自分だけの特別な杖を手に入れることになる。
「お安い御用だよ。神殿の地下迷宮やトラップはすべて頭に入っているから、ぼくが小町さんの胸もみ腰もみ攻略のお手伝いをしてあげましょう」
「それを云うなら手とり足とりでしょ!? 平成のギャグか!?」
「あはは。お願いします~」
沖田の下ネタへ過敏に反応する市姫とはうらはらに小町が笑ってうけながす。
「小町ちゃんの方がオフィーさまより大人なのら」
芳乃の言葉に周りがうんうんとうなづいた。
「ちょ……なによそれ!?」
「いちいち相手にしすぎだって」
織部が冷静に諌めるも、元凶の下ネタ王子が平然と火に油を注ぐ。
「まあまあ、市姫さん。ようするにヨッシーは、人の寛大さは胸の大きさに比例すると云いたいんだよ」
「そうは云ってないら」
「……云いえて妙かも」
4名の女子生徒のとある高低差を視認した信輝がよけいなことをつぶやいた。
「ばっ、幡随院くん!?」
市姫が4人の中で最も起伏にとぼしい胸を手でかくすと怒りの矛先を拡散した。彰子が市姫の稚気にあきれた。
「市姫がムキになるからからかわれるのさ。貧乳なんか気にするな」
「だっ、だれが貧乳よっ!?」




