第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈14〉
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しかし、そうではなかった。
オリベたちが城塞都市オルムテサミドへもどると、街は先刻の地震の後始末でおおわらわだった。
竜玉の埋めこまれた城壁はビクともしていないが、街では赤茶色の屋根瓦がおちてわれていたり、建物の一部が傾いだりひびわれていたりした。
倒れた家具やわれた食器、おちた商品をかたづける人々の喧噪が日の暮れかけた空へこだまする。
戦鬼たちのつどう居酒屋『猫と竹輪亭』で話を聞くと、地震は商隊の警護やドラゴン狩りなどイベントの種類に関係なく、広範囲で同時に起こったらしい。
これが単なる一過性のイベントだったのか、なにかの伏線なのかは、いずれあきらかになるだろう。オリベたちのパーティーは今日の猟果を分配すると、そこで解散した。
シンキとゲオルギウスは教会でセーブすると云って去り、オリベは昨日同様、宿屋『一本足蛙亭』でセーブすることにした。
オフィーリアはセーブ前に不動産屋をのぞいてみると云い、ヨッシーもそれにつきあうと云いだした。
「ねえねえ、オフィーリア。どうせならルームシェアするのら。ひとりよりふたりの方が楽しいのら」
「部屋は別々の方がいいな。レイアウトを自分好みにカスタマイズしたいし、ひとりじゃないと眠れないのよ」
「ぼくはふたりの胸にはさまれて川の字で眠りたいなあ」
「あんたはひとりでとこしえに眠れっ!」
オフィーリアとヨッシーの会話にさわやかな笑顔でわりこんだムードラが、オフィーリアの固いブーツで股間を蹴り上げられて悶絶した。
「……た、他愛のない冗談なのに……」
股間を押さえてうづくまるムードラに居酒屋中の男性戦鬼が同情した。
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織原織部が寮の大きな共同浴場から上がると、食堂から夕食をおえた魔導師ムードラこと沖田宗巌が顔をだした。
「織部くんは風呂に入ってたのか」
「さっきは災難だったね」
オフィーリアの股間蹴りのことだ。
「たいしたこと云ってないのに過敏に反応しすぎだよ。市姫さんあれは処女だね。かわいいなあ」
「そう云うこと云ってたのバレたら、あっちの世界で殺されるよ」
懲りない沖田に織部が苦笑した。同情はするものの、草壁市姫ことオフィーリアが下ネタへ過敏に反応する下地づくりをした沖田の自業自得ではないか? とも思う。ふたりは肩をならべて2階の自室へむかって歩きだした。
「あのあとすこしのこって情報収集してたんだけど、信憑性のない流言蜚語が飛びかってて収拾つかない感じだった。世界崩壊のカウントダウンなんじゃないか? それまでにラスボスを倒さなきゃならないんじゃないか? とか」
沖田の言葉に織部が頭をふった。
「ゲーム・クリアの制限期間がもうけられているとは思えないけど、ラスボス出現の伏線とかはありうるよな。まだだれもラスボスについては知らないんだろう?」
「ネットの情報交換サイトものぞいてみたけど「空から恐怖の大王アンゴルモアが降ってくる」とかわけわかんないことばっかだったし。ただ、ネットでも地震の情報はアップされてた。震源地はキルドワン湖北部、マグニチュード推定7.1だって。だれが調べたんだか?」
宗巌が楽しげに云った。
「そうそう。あとヨッシーの記事もでてたよ」
「ヨッシー? ……ああ。あのニャンコ装備は目をひくかも」
「『ドラグーン・ゲヘナ』にアイドル誕生かもね。城塞都市オルムテサミドご当地アイドル・ヨッシー。あっちの世界でそう云うのプロデュースしてみようかな? 織部くんもどう?」
「はは。おれはパス」
沖田なら本気でやりそうだと思った織部があきれた。




