第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈13〉
今、かれらのいるジギゾコネラ火山も、かれらのレベルからすれば微妙に難易度の高いフィールドであり、レベル30前後の戦鬼組合・魔導師連合の依頼にはないフィールドだった。
オフィーリアがほかの戦鬼からえた情報があったからこそ、ギリギリ攻略可能と見さだめてきたのだ。
このように、ゲームからあたえられる情報はレベルに準じたものばかりだが、戦鬼同士の情報交換はレベルや場所をこえるので有益だ。
インターネット上には有志の立ち上げた情報交換サイトもあるが、ネタの信憑性にとぼしく、ガセネタのトラップにかかってゲームオーバーになることすらあるらしい。
その点、ゲーム内での戦鬼同士の情報交換は、文字情報に終始するネットとは異なり、相手の姿や装備や口調などで総合的に判断できる。
オリベたちもイスカリオテからえた情報を元に、スイドラ用の装備を整えながらレベルアップを計ることもできると云うわけだ。
「私たちのパーティーはまだレベル不足でいったことないんですけど」
「うちももうすこし先かな? でも有益な情報ありがとうござ……」
オリベが礼を述べようとした瞬間、大地がグラリとゆれた。ゴゴゴゴ……と地ひびきが鳴って、はげしいたてゆれが襲ってきた。
「地震!? なんだよ、このイベント!?」
「うぬう、災害系のトラップか!?」
狼狽するシンキやゲオルギウスにオフィーリアがさけんだ。
「落石に注意して!」
山肌を転がりおちてきた巨大な火砕岩を、オフィーリアが魔装美麗剣銃で粉々に撃ち砕いた。
「お見事なのら、オフィーリア!」
「みなさんもはやくこっちへ上がって!」
岩場のせまい道でかたまるイスカリオテのパーティーへオリベが手招きした。ぐるりに屹立する火砕岩に押しつぶされてLPをうしなう可能性もある。
オリベたちの立つ場所は吐毒竜ポイズナドクトスとの戦いで周囲の火砕岩が破壊され、適度に拓けていたため、押しつぶされる心配はない。
「じ、地震を鎮める魔法なんてないよね?」
いつもは冷静な魔導師ムードラも、身をかがめながら〈メモリング〉のコマンド画面をスクロールしてつかえそうな魔法をさがすが、そんなものは見当たらない。
頭をかばいながらイスカリオテのパーティー全員がせまい道をぬけると、つかの間の大地震は収束した。
「いや~、びっくりしたなあ。……『ドラグーン・ゲヘナ』で地震なんてはじめてだ」
イスカリオテが半ば放心状態でつぶやいた。
「なんなんだろ、今のイベントは?」
オリベの疑問にオフィーリアも首をかしげた。
「さあ? 私たちにここから去れって警告かしら?」
「にゃはは! こわかったけど、おもしろかったのら!」
「まさかとは思うが、火山が噴火するなどと云うことはありえんだろうな?」
「2段がまえの災害系トラップ? ……ひねくれた『ドラグーン・ゲヘナ』ならありそうな気がする。今日は一定の猟果もあったし、はやく山を下りようぜ」
ゲオルギウスとシンキの不安にオリベたちもうなづいた。
「おれたちのパーティーは山を下ります。みなさんはどうしますか?」
かれらはかれらで相談していたイスカリオテのパーティーも決断した。
「……私たちも一旦下山してようすを見たいと思います」
「では、そなたたちから先へ参れ。しんがりは拙者たちがつとめようぞ」
神装槍鬼ゲオルギウスが神式打突重鉄球を頭上でふりまわすと、イスカリオテのパーティーへ告げた。
「いい格好しちゃって」
おそらく、いちどは云ってみたかったであろうセリフに酔いしれるゲオルギウスにオフィーリアが小声であきれた。
「わかりました。みんな、とっとと下山しよう」
「おうっ!」
イスカリオテの言葉に彼のパーティーが威勢よくこたえた。中学生の遠足みたいに嬉々としたいきおいで山を下りはじめる。
「これってここだけのイベントなのかな?」
不安げなようすで火口をあおぎ見るオフィーリアにオリベが小首をかしげた。
「たぶん」




