第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈12〉
みんなで鳩首疑義していると、下の岩場から別のパーティーが顔をだした。先頭を歩く紅い甲冑の戦鬼が右手を上げて云った。
「戦鬼の盟約にかけて誓う。クルル・ギハド・メルハザス」
オリベも右手を上げてこたえた。
「クルル・ギハド・メルハザス」
これは自らのパーティーへかける呪文で、戦鬼同士をあらそえなくするものだ。
『ドラグーン・ゲヘナ』の世界はなんでもありだ。戦鬼が戦鬼を襲うこともできる。中には、ほかの戦鬼を殺してアイテムを奪う盗賊団までいるなんてウワサもある。
そのため、ほかのパーティーと遭遇した時、この呪文を唱えて敵意のないことを示すのが戦鬼同士の礼儀である。運悪く相手が盗賊団だった場合は、呪文の効力が切れるまで5分間逃げまわることとなる。
ふたりの上げた掌に各々の名前とレベルが表示された。
魔装剣鬼イスカリオテ・レベル30。
魔装剣鬼オリベ・レベル32。
友好関係成立をしめす小さなチャイムが鳴った。
「私は『紅蓮の傭兵団』リーダーのイスカリオテと云います。まあまあなレベルのエンドラがでてくる穴場だと聞いてきたのですが、狩りつくしてしまいましたか?」
イスカリオテが質問した。戦鬼同士の情報交換は『ドラグーン・ゲヘナ』の基本だ。
「魔装剣鬼オリベです。狩りつくしたかどうかはわかりませんが、エンドラを3匹、ドクドラを1匹狩ったところです」
「ドクドラもでるんですか?」
「吐毒竜ポイズナドクトス、レベル36」
コマンド画面でモンスター・データを照会したムードラの言葉に、
「おい、ドクドラもでるってよ。甲冑の耐毒性チェックしとけ!」
イスカリオテが背後の仲間へ注意を喚起した。〈メモリング〉をタップしたそれぞれの指が宙でせわしなく動く。
「ドクドラの情報助かりました。エンドラ向けの甲冑って毒攻撃に弱いんですよね」
「ええ。おれたちも苦戦しました。……あと雨の日はまれにレベル52のエレドラがでることもあるみたいです。昨日バトりました」
「レベル52のエレドラ!? すごいレア情報じゃないですか!? ……でも今はあたりたくないなあ」
「おれたちも死ぬかと思いました」
イスカリオテの気もちがよくわかるオリベは苦笑した。
「……こっちから教えられる情報あるかな? あ、城塞都市オルムテサミドの北東にキルドワン湖ってあるじゃないですか?」
「ええ」
オリベが〈メモリング〉でマップ画面を表示して位置を確認する。まだ足を踏み入れたことのない領域だ。
「キルドワン湖北部のウラエイモス樹海にレベル45前後のスイドラの巣があるそうです」
「それは初耳だ。助かります」
教団に所属していない戦鬼や魔導師たちは、それぞれの街にある戦鬼組合や魔導師連合でたびたび仕事の依頼をひきうけなければならない。
仕事は「レベル30~35」などと分類された自分のレベルにあわせた内容から選択する。そうすることで、おのずと自分のレベルにあったフィールドを知ることができる。
未踏のフィールドへ足を踏み入れて、突如あらわれた格上のドラゴンやモンスターに殺されるリスクも減る。
そのかわりレベルアップには時間がかかる。多少のリスクを冒してでもレベルの高いドラゴンを倒し、どんどんレベルアップしたいと思うのは戦鬼の性だ。




