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第1章 ドラグーン・ゲヘナ〈10〉

挿絵(By みてみん)


「なあに、朝飯前にござるよ!」


「……え、朝ごはん? どこどこっ?」


 ゲオルギウスの言葉にピンク色のかわいいゲルから愛らしい姿のアバターが飛びだした。


 ネコ耳のもこもこ頭巾、首には鳴らない鈴のついたチョーカー、リアル同様たわわな胸部をおおうもこもこの胸当て。


 ひじまであるもこもこのネコ手袋、もこもこの太いベルトにひらひらのミニスカート。そして、とどめのもこもこブーツ。


 腰につり下げられた護身用の短剣とトロンボーンのような魔装音波砲(ヴェイシュタット・ホルン)がなければ、ただのニャンニャンコスプレである。


 (たかむら)芳乃(よしの)こと魔装剣妃(けんひ)ヨッシー。レベル26。


「あ、みんな時間ピッタシ。やっほ!」


「……どこでそろえたの、そんな装備?」


 挨拶も忘れて唖然(あぜん)とする一同を代表してオフィーリアがたずねると、ほめられたものとかんちがいしたヨッシーが自慢の胸をぷるんと張って堂々とこたえた。


「なんとこれ、ヨッシーの手づくりなのらっ! ミシン買って甲冑(かっちゅう)をデコってみたのら」


 今度は完成度の高さに一同が瞠目(どうもく)した。しかも『ドラグーン・ゲヘナ』の世界にミシンなんてアイテムがあることすら知らなかった。


「……いや、それはマジすごい」


「似あっていると思う」


「うむ。副業で商いもできそうである」


「それでモモイロコヨーテの皮を集めてたってわけね」


「正解ビンゴっ!」


「……しかし、その装備には致命的な弱点があります」


 あごに手を当てて無言でヨッシーの装備を吟味(ぎんみ)していたムードラがつぶやいた。


「弱点ってなんら?」


「尻尾がない。きちんと尻尾が腰からのびていなければ、ニャンニャンコスプレ不成立です」


「尻尾はこのベルトで表現しているのら。尻尾をつけると色々不具合が生じるのら。イスとか座りにくいし、パンツ見えちゃうのら」


「だから、ぼくはヨッシーのパンチラが見たいと言外に云っているんです」


「どこが言外よ、ハッキリ云ってるじゃない! いっぺん死ねい、下ネタ王子!」


 オフィーリアがムードラの背後から雷撃の(かかと)おとしを脳天に決めると、


「ぐはあっ!」


 ムードラが気絶してバタリと倒れた。


「はわわわ! ゲームの世界で貞操の危機を感じたのら」


 ヨッシーが両腕で自分の肩をだいてガクガクと身震いした。


「魔導師としての腕は悪くないけど、人としては性格に難ありよね。ねえオリベ。ムードラはここへうっちゃって、新しい魔導師さがさない?」


「まあまあ、クラスメイトなんだし」


「口ほどエロい奴じゃないし」


 半ば本気のオフィーリアをオリベとシンキがなだめる。気絶したムードラをかつぎ上げたゲオルギウスが云った。


「おのおの方。本日のわれらの目的をお忘れか? いざ行かん、ジギゾコネラ火山へ!」


「そうだよそうだよソースだよ。みんなで一緒にレベル40のエンドラ狩るのら!」


〈メモリング〉でコマンド画面を操作してピンク色のゲルを瞬時にかたづけたヨッシーが云った。


「そっか。ヨッシー救出が目的じゃなかったのよね」


「救出って云うほど、せっぱつまった状況でもなかったし」


 こうして5人の戦鬼(プレイヤー)と絶賛気絶中の魔導師はジギゾコネラ火山へ向かった。

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