表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/155

97 スノードラゴン戦2

「なるほど……これは確かに壊滅するのも分かるな」


 ヒヨリに説明された段階ではそこまで対処が難しくはなさそうだと俺は考えていたけれど、実際に一発目の【氷の槍】がスノードラゴンの左側から発射されたのを見て考えを改めた。


 というのも、まず槍のスピードが今まで見たどんな攻撃よりも速かった。確実にリザードメイジの雷魔法より速い。槍が動いたと思ったら直後に戦場を横断し終えているような感じで、少しでも射線からの離脱が遅れるとそれだけで終わりに違いない。


 ただ槍がスノードラゴンのすぐ近くに現れるのは救いだった。これならまず出現に気付かないということは起きないだろう。


「槍が出たっす!」


 その上でヒヨリがしっかりと声をかけてみんなに【氷の槍】の出現を知らせてくれる。ヒヨリはこのパーティーの後衛で唯一詠唱が必要ない弓使いということもあって、他のみんなよりは戦闘の状況を確認する余裕があるのかも知れない。


 今回狙われたのはどうやらマコトのようで、マコトは即座に魔法の詠唱をキャンセルして横に走って移動した。


 それと同時に【アイスファング】の魔法がハルカを襲う。牙で噛みつくように左右から挟むように複数の氷柱が現れてハルカにダメージと移動速度低下のデバフを与えた。


 レベルも装備も足りていないせいか、他のスノードラゴンの攻撃と比べて威力が低く設定されている【アイスファング】ですらハルカの体力は半分以上削られている。


 それでもハルカは自分の回復を後回しにしてキリカの回復を優先する。スノードラゴンは【氷の槍】や【アイスファング】を発動している間も、休むことなく高威力の通常攻撃でキリカを攻撃し続けているからだ。


 その後マコトが直前までいた場所に向かって、風を切る独特の音と共に巨大な槍が放たれた。


 こんな一瞬の間にも色々なことが起きていて、それぞれにしっかりとした対処が求められる。特にヒーラーの二人は考えることも多くて大変そうだった。


 それでもみんなは何とか上手く対処していた。おそらくそれは俺以外のみんなにスノードラゴンと戦った経験があるからだろう。


「次の槍っす!」


 落ち着く暇もなく、次の【氷の槍】が出現した。ちなみに【氷の槍】と【アイスファング】が誰を狙うかはランダムで決まる。パターンごとの対処を間違えないように集中し続けないと一瞬でパーティーは崩壊してしまうだろう。


 【氷の槍】に狙われたのはヒヨリだったので、特に問題なさそうに移動しながら弓で攻撃を続けている。

 【アイスファング】はマコトに飛んだけど、マコトも特に気にすることなく魔法の詠唱を続けていた。


 たぶんこれが全員にとって一番楽なパターンに違いない。


「パターンに合わせて動くだけ、なんてチトセには簡単に見えるかしら?」

「いや、全然……というかこのボスを考えた人間は性格が悪いんじゃないかとさえ思うよ」


 キリカの問いかけに俺は正直な感想を返す。


 パターン通りに進んでいる間は何とかなるけれど、もし何かイレギュラーが発生してアドリブを求められたら――。


 ここで壊滅させられるパーティーが多いと言われているのは、きっと誰かがミスをすることでそのミスが連鎖していくからだろう。


 そしてミスが起きたら致命的という作りなのに、ここではそういったミスが起きやすくなるようにランダム要素が多く含まれていた。


「確かにそうね。LLOの製作チームには、高難易度のボスを作りたがる有名クリエイターが参加してるって話だから」


 キリカはそんな風にゲーマーの間では有名らしい話をしながら俺の言葉を肯定してくれる。ただ俺が言いたい性格の悪さというのは難易度だけではなかったりするのだけども。


 そうこうしているうちにまた【氷の槍】が出現する。今度の槍はハルカを狙っていた。


「キリカ!」

「分かってる! 【アドバンスガード】!」


 ハルカは移動を開始するタイミングでキリカに一声かける。それだけで意図を理解したキリカは瞬時に防御力を上昇させるアビリティを発動した。


 直後スノードラゴンの通常攻撃がキリカを襲う。ダメージは目に見えて減っていたが、それでも三発食らえば倒されてしまうくらいだった。


 そこにシャルさんのヒールが飛ぶ。シャルさんはレベルも装備も全体的に一回りハルカよりも強いけど、癒しのコサージュ分の差があるのかハルカよりも回復力が低い。


 それでも防御アビリティのおかげでダメージが抑えられた結果、問題なくキリカの体力は回復されていた。


「おお、ナイス!」


 タンク役とヒーラーの二人の見事な連携を見て、俺はそんな風に声を張る。いいプレーが出たら盛り上げるのはもはや完全に染みついた癖だった。


 【アイスファング】の対象もハルカだったが、最初のダメージはすでに回復しているので問題なく受けられる。


 それでも移動速度低下のデバフは受けてしまうが、ハルカは動き出しが早くてすでに【氷の槍】が通る範囲からは離脱出来ているので問題なさそうだった。そのまま槍は虚空を貫いていく。


 そうしている間にも俺たちアタッカーは黙々と攻撃を続けてダメージを出しているので、スノードラゴンの体力も確実に削れていた。といってもまだ全体の二割ほどだけど。


 ギリギリのラインだけど、何とか対処出来ている――そんな風に手ごたえを感じ始めたところで、それは起こった。


「槍っす!」

「キリカ、また私!」

「仕方ない、【ソーンメイル】!」


 キリカの【アドバンスガード】が再使用できるまでまだ時間がかかるタイミングでハルカが再度狙われてしまった。


 【ソーンメイル】は攻撃を受ける度に反撃ダメージを返す効果がついているため、防御力の上昇量は【アドバンスガード】よりも劣る防御アビリティだった。


 確かにスノードラゴンの攻撃によるダメージは減っていたが、それでもあと一発で倒される状況のまま変わりなかった。


 当然シャルさんのヒールは飛ぶが、さっきとは違ってキリカの体力を全部回復させるには足りていない。


 さらに追い打ちをかけるように、【アイスファング】の対象もキリカだった。それでこれまでギリギリのバランスで保たれていた均衡が崩れてしまう。


 その後はハルカとシャルさんが必死のヒールでキリカを守り、何とか【アドバンスガード】が再使用できる時間まで耐えて立て直そうと頑張っていた。


 そうして何とかスノードラゴンの猛攻を耐えきり、キリカの【アドバンスガード】によって状況を立て直せそうだと、誰しもがそう思った瞬間――。


「ハルカ!」

「えっ――」


 短く驚きの声を発した直後に、ハルカは【氷の槍】に貫かれて一撃で倒されてしまう。


 槍の出現を見落としたのか、それとも槍の狙いが自分ではないと思ったのか。


 それはハルカ自身にしか分からないことだけれど、一つだけはっきりしていることは、ハルカのミスによってパーティーが壊滅したということだ。


 ――このボスを考えた人間は、本当に性格が悪い。


 何故なら誰のミスによってパーティーが壊滅したのか。それが誰の目にもはっきりと分かってしまうのだから。


●講談社『Kラノベブックス』様より書籍化する事となりました。2018年3月発売予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ