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95 雪山での戦闘

「ヒヨリ、ブリザードベアを頼む! 俺はこのままスネグーラチカに行く」

「了解っす!」


 雪山での戦闘で一番警戒すべき敵は攻撃力が極めて高いブリザードベアだった。特にブリザードベアが口から氷の吐息で攻撃してくるアビリティは、食らうとキリカでさえ瀕死になる威力なので、確実にスタン技で止める必要がある。


 俺はその役割をヒヨリに任せて、敵の後衛である雪の妖精スネグーラチカを目指して走った。スネグーラチカの魔法も威力が高い上に状態異常やデバフが合わさっているので厄介なことこの上ない。


「マコト、キリカがホワイトベアを集めてるからまとめて焼いて!」

「うん、すでに詠唱中……【ファイアバースト】!」


 ホワイトベアはブリザードベアとよく似ているが、こちらはタンク役で耐久力が高い。今回は三体のホワイトベアが壁になってブリザードベアを守っている形だった。


「ブリザードベアがアビリティの構え……ヒヨリさんナイススタンです。スネグーラチカの魔法の対象はキリカさんなので、それは私がヒールします」

「じゃあ私はお兄ちゃんのフォローするね――」


 こうした雪山での戦闘は足場の悪さによる素早さへのマイナス補正もあるが、何より吹雪による視界の悪さが厄介だった。


 味方の動きを肉眼で確認することが難しいので、今のようにしっかり声を出して連携することが重要になる。


 またゲームの仕様的に視界が悪いと遠距離攻撃職は命中率が落ちるようで、敵の魔法使い役であるスネグーラチカへの対処にも悩まされる。一応何度か戦った結果、足が遅くなっていても俺が近づいて確実に倒すのが安定するという話に今回は落ち着いた。


 そうこうしてしっかりと連携しながら六人がそれぞれの役割を果たしたことで、今回の戦闘も何とか被害なく敵を倒すことに成功した。


「ふぅ、だいぶ安定するようになってきたねー」

「やっぱりヒヨリさんがブリザードベアのアビリティの発動をちゃんとスタンで止めてくれるのが大きいよね」

「いやぁ、あれを食らうとさすがにキリカさんといえどピンチっすからね。そこだけは失敗しないように集中してるっす」


 ヒヨリのハンターという職業もレベルが15になると【スタンアロー】というアビリティを覚えるらしい。近接職のスタン技とは違ってスタン時間はほんのわずかだが、敵のアビリティの発動を止めるだけなら遠距離から狙えることもあって非常に使い勝手が良いようだ。


「お兄ちゃんもシャルも慣れない六人パーティーで問題なく言葉で連携取れてるし、言うことなしだね」


 ハルカはそんな風に今回は地味な役割を担うことが多い俺やシャルさんのこともしっかりと褒めてくれる。細かいことだけれど、みんなが高いモチベーションを維持するためにはこうした声かけが重要なのはゲームでも野球でも同じだった。


「ハルカってゲームだとムードメーカーだよな。みんなが楽しめるように色々気を遣ってるし」

「んー、そうかな? 私は自分が楽しくゲームをするために必要なことをやってるだけのつもりだけど」


 俺がそう言って褒めるとハルカは謙遜したように言葉を返した。別に謙遜しなくてもいいのにと俺は思うが、まあハルカからしたら兄である俺にゲームのことで褒められるのは恥ずかしいのかも知れない。


「さてと、まっすぐ突っ切ったから、そろそろ目的地ね」


 先導するキリカがそんな風にみんなに声をかける。確かに少し開けた場所に出たようで、周囲にはモンスターも湧いていない。


「お兄ちゃん、空を見て」

「空?」


 ハルカにそう言われて、俺は上に目線を向ける。するとそこには俺たちの頭上を旋回するように飛び回る巨大なモンスターの姿があった。

 それは伝承上に存在する生物の中でも、おそらくもっとも有名な生物の一つだろう。


 ――ドラゴン。


 このゲームでは巨大な翼を持つ、蛇とトカゲを足したような姿のモンスターとして描かれていた。とりあえず見た感じ全長は10m以上ありそうだ。


「え、もしかしてあれがエリアボスなのか?」

「そうだよ」

「めちゃくちゃ強そうなんだけど」

「だから最初にそう言ったよね」

「まあ勝つのが目的ではないので大丈夫っすよ。ほら、通知が」


 ヒヨリがそう言うと同時に俺にもクエストボードの通知が出た。


・未開拓エリアの情報収集 1/3


「ああ、そういえば情報収集はエリアボスを見るだけでいいんだったな」

「でもこのままモンスターと戦いながら下山するよりは、デスペナ貰ってでもフェリックに死に戻った方が早いのよね」

「ということでチトセさん、潔く死にましょう!」

「このゲームはステータスが全てという鉄の掟をお兄ちゃんも体感する時が来たね」


 何故か分からないけど、三人娘はとにかく俺を殺したくて仕方がないらしい。


 ちなみにステータス差の暴力という鉄の掟はすでにヒヨリと二人で体験済みなんだけど、そういえば確かにまだハルカたちの前で死んだことはなかったかも知れない。


「とりあえず死ぬのは分かった。ただ俺は戦うからには勝つつもりで全力で戦いたいんだけど、みんなもそれでいいか?」


 俺がそうみんなに確認すると、全員が首を縦に振った。


 今回の戦いは足場も悪いし、装備もレベルも人数も知識も、とにかく何もかもが足りていない。

 それでも今持てる全力を尽くして、何か一つだけでも掴んでから負けてやる。


 それこそが戦いにおける、俺なりの流儀なのだから。


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