82 コバルト
二層はコボルトの住処ということもあって、フロアボスもコボルトジェネラルというモンスターだった。他のコボルトよりも二回りほど大きく、体長は2メートルくらいある。
ジェネラルは青い金属鎧を着ていて、手には剣と盾という基本的な装備を持っていた。
「ちなみにここのフロアボスはあの装備のどれかが高い確率でドロップするんだよ」
「へぇ、でもその装備って強いのか?」
「今私が装備してるものより1ランク上ね。ただそこまで目に見えてステータスが上がるわけじゃないから、可能なら今やってるみたいに地道に素材を集めて2ランク上の装備を直接作った方が効率的かな。まあその装備が全身一式揃うまでの繋ぎとして、少しの間使うこともあるけどね」
「確かに少し不遇な装備ですよね。ここに来れるレベルならすでに1ランク上の素材を集められる状態になっているので、ドロップで一式揃えても活用できる期間は短いですし」
「なるほど。つまり有ったら嬉しいけど、別に特別必要な装備でもないって感じか」
「うん、そんな感じだね。素材集めるためにこの二層は三回くらい周回したいから、ちゃちゃっとやっつけちゃおう。あ、そういえばシャルに確認してなかったけど、装備品がドロップしたらキリカに渡しちゃっても大丈夫?」
「ええ、構いませんよ。私には使い道がありませんから。その代わりといっては何ですが、キリカさんが必要な素材以外は全部私が買い取ってもいいですか?」
「私の分はそれでいいよ。むしろ売る手間が省けて好都合だし。お兄ちゃんはどうする?」
「ん、そうだな。俺もシャルさんに買い取ってもらうことにするよ」
ということで今回のダンジョン攻略でドロップしたもののうち、ジェネラルから落ちるタンク用の装備とキリカが次の装備を作るのに必要な金属素材はキリカに配分し、その他のドロップ品に関しては三人で分ける予定だったかそっちはシャルさんが買い取るということで決まる。
まあ俺もハルカもここで落ちる素材は次の装備を作るのに必要ないものばかりなので、どうせ市場に流す以外には選択肢がなかった。だったらシャルさんに直接買ってもらっても同じことだろう。
そうしてさっそくコボルトジェネラルとの戦闘を開始するが、このフロアボスもあまり難易度は高くないボスのようで、しっかりとセオリー通りに動いていれば特に苦戦するようなことはない相手だった。
ただ戦闘中に色々な種類のコボルトがエリア内に湧いてくるので、ジェネラルを攻撃する係と雑魚を倒す係を分担する必要がある。ちなみに雑魚を放っておくとどんどんと増えていってしまうので、素早く倒していかないとそのうち手に負えなくなってしまうという話だ。
ということでデモンズスピアのおかげで一番早く雑魚を倒せる俺が雑魚を倒す係を担当することになる。というか今は他にアタッカー役がいないのでそれ以外は考えられない。
雑魚はエリア内のランダムな場所に湧くのであちこち走り回ることにはなったが、幸い湧いてから数秒は動かないようで、運悪くハルカの真横にクラッシャーが湧いたときも何とか動き出す前に倒すことが出来た。
シャルさんとハルカの魔法攻撃やキリカの剣によるダメージが確実にジェネラルの体力を削っていく。俺もジェネラルの近くを通るときは片手間に一発だけ攻撃を入れたりしていると、特に危なげもなく数分でジェネラルを倒すことに成功した。
「はい、みんなおつかれー。キリカ、ドロップは何?」
「残念ながら盾ね」
「何だ、一番外れだね」
キリカはジェネラルが落とした宝箱をすぐに開けて中身を確認していた。
俺も一応アイテムの詳細情報画面を確認してみる。
「コボルトシールド?」
「お兄ちゃん違うよ、コバルトシールド」
そうハルカに言われて眼前に浮かんでいる画面を見直すと確かに一文字違っていた。微妙に紛らわしい。
ちなみにシャルさんによると現実のコバルトは発見された当時扱いにくい金属であり、それはコボルトが人間を困らせるために魔法をかけたのだと考えられたことが語源らしい。さすがは物知りなシャルさんだった。
一応コバルトシールドは今キリカが使っている盾よりも強いようなので、キリカはさっそく装備を変更する。
「じゃあ二周目いくよー」
ハルカの号令で、俺たちは休む間もなく二層の二周目に突入した。まあ特に消耗しているわけでもないので問題はない。
二周目となればどこにどのモンスターがいるかも分かる。シーフが出てくる場所では先にシーフに石を投げて【身かわし】の効果を石に使わせるなど、一周目よりもかなり効率よく進んで行けた。
そうして二回目のジェネラル戦もすんなりと終える。
「キリカ、ドロップは?」
「盾ね」
「よしじゃあ三周目!」
三周目も同様にダンジョンをさっさと攻略して、ジェネラルも素早く倒した。
「さてキリカ、最後のドロップは?」
「盾だわ」
「……いやぁ、本当にドロップ運ないねキリカって」
「たぶん普段からハルカに運を吸われているせいよ」
ハルカの冗談に、キリカも軽い感じで応える。
キリカの装備的にはあまりおいしいドロップではなかったけど、メインの目的だった2ランク上の装備の素材はちゃんと集まったのでキリカ的には悲観するようなことでもないのだろう。
そうしてとりあえずは当初の目的を果たしたので、俺たちは一旦街に戻ることにした。




