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80 アドバイス

 俺はキリカが抑えている二体のコボルドクラッシャーをスルーして、奥にいるハンターとマジシャンを狙うことにする。

 俺たちのパーティーでは、柔らかく倒しやすい後衛を素早く処理するのがいつものセオリーだった。


「【アシッド】! 【ベノム】!」


 俺が敵の後衛にたどり着く前に、シャルさんは素早くマジシャンに対して継続ダメージ魔法を詠唱する。

 マコトだったら俺が敵に攻撃を仕掛けるタイミングに合わせて魔法で攻撃していたが、シャルさんの魔法はマコトの魔法と違ってダメージを与えるのに時間がかかるので、早めに詠唱したのかも知れない。


 しかしそのせいなのか、マジシャンとハンターが狙うターゲットはキリカからシャルさんに切り替わってしまった。

 どうやら自分たち後衛に対してダメージを与えてくるシャルさんを、現状一番の脅威だと考えたようだ。


「あ、やばっ」


 ハルカがそんな言葉を漏らした後、少しの間があってからシャルさんに対してハンターの矢とマジシャンの火魔法が放たれる。


「シャルのことは私がヒールするから、シャルは防御に専念して」

「はい、わかりました」


 すでにヒールを詠唱しながら、ハルカはそんな風に指示を出す。シャルさんは素直に指示に従ってガードを固めたようだ。


 シャルさんは装備も強いし今回のコボルトはそこまで強敵でもないので、いくら柔らかい後衛職とはいえその攻撃で即死ということはないだろう。


 それならきっとハルカがパーティーを支えてくれるはずだから、別に放っておいても問題ないのだけど……せっかくの絶好球だし打ち落としとくか。


 俺はハンターが放った矢を槍で片手間に叩き落しつつ、そのままマジシャンに向かって一気に距離を詰める。


 マジシャンは近寄ってきた俺に対して次の魔法を詠唱してはいるものの、どうせすぐに発動できるものではないので、俺は真正面から堂々とマジシャンを攻撃した。


「はっ! 【二段突き】!」


 通常攻撃からいつもの連携でマジシャンを瞬時に倒す。

 【奇襲】が乗っていなくてもデモンズスピア自体の攻撃力はかなり高いので、柔らかい後衛相手ならこれで充分な威力だった。


「お兄ちゃんナイス!」

「おう!」


 ハルカの声に応えつつ、俺はそのまま近くにいるハンターへと距離を詰める。


 ハンターには近距離から一発矢を撃たれて被弾するが、ガードが間に合ったこともあって大きなダメージにはならない。そのダメージもシャルさんからのヒールが飛んできてすぐに回復した。

 そうして俺はハンターもしっかりと槍で倒すことに成功する。


 あとはキリカが引き付けてくれているクラッシャー二体を倒すだけだ。俺は引き返してキリカと挟み撃ちの形でクラッシャーの背後から【奇襲】の乗った攻撃を行う。


「お、意外と堅い」


 【奇襲】が乗った通常攻撃で充分だろうと思ったけど、どうやら想像以上にコボルトクラッシャーは耐久力が高いようで半分くらいしかダメージを与えられなかった。


 直後そのクラッシャーは振り返り、ターゲットを俺に変えて攻撃を仕掛けてくる。


 クラッシャーが上段からハンマーを振り下ろしてきたので、それを横に避ける。威力は高そうだったが、さすがに大振りだったので回避には充分な余裕があった。


「……せっかくだし、あれを試してみるか」


 俺はLv.15で覚えた新しいアビリティを使って、少しやってみたいことがあった。

 まだ体力が半分ほど残っているクラッシャー相手ならたぶんちょうどいいだろう。


「せいっ! 【石突き】!」


 俺は通常攻撃からの連携で【石突き】というアビリティを発動させた。


 俺がLv.15で覚えた【石突き】は、槍の持ち手側の先端で相手を殴るアビリティで、相手を3秒ほどスタンさせる効果が付与されている。

 威力は通常攻撃よりも低いが、【ウォークライ】と比べると再使用までの時間がそれほど長くないので、使い勝手の良いスタン技として普段から使っていける性能をしていた。


 俺はクラッシャーがスタンしたことを確認して、そのまま今度は別のアビリティを放つ。


「【パワースラスト】!」


 スタン効果を食らって身動きが取れないクラッシャーに、発生が遅いかわりに威力が高い【パワースラスト】がクリーンヒットした。

 やはり思っていたとおり、今まで動きの中では使いづらかった【パワースラスト】も相手をスタンさせれば問題なく扱うことが出来るようだ。


 そうして一体を倒した俺は、最後の一体にも攻撃を仕掛ける。


 こっちのクラッシャーは先にシャルさんやハルカの魔法攻撃が入っていたようで、すでに体力は半分以下まで削れていたから、背後からの通常攻撃だけで問題なく倒すことが出来た。


 そんな風に戦闘が終わり、みんなで一旦集合したところでまずハルカが口を開く。


「シャルは判断も早いしヒールのタイミングもちゃんとしてるから、戦闘自体が苦手って感じではないよね」


 俺もハルカの言う通りのことを感じていた。きっとシャルさんはソロでの戦闘経験はかなりあるに違いない。だから戦闘における技術的な部分はしっかりと出来ているように思える。


 しかし、それでもシャルさんに何も問題がないわけではないのだろう。

 それはハルカの淡々とした声色からも何となく感じ取れる。ハルカのそれはあくまで事実を述べているだけで、特別褒めているわけではないという雰囲気だった。


 俺もいつもハルカたちとパーティーで戦闘しているときやヒヨリとパーティーを組んだときとは違う、微妙なやりづらさを感じたのは事実だ。


 とはいえまだあまりゲームについては詳しくないので、その正体が何なのかは上手く言葉には出来ないのだけど。


「えっと、シャルのスタンスとしてはもっと上手くなりたいってことでいいんだっけ?」

「はい、そうです。なのでアドバイスがあれば、ぜひお願いします!」


 ハルカの問いかけに、シャルさんは肯定の言葉を返す。


 ちなみにハルカがそんなことを尋ねた理由は、上手くなることだけがゲームの楽しみ方ではないと知っているからだろう。上手くなることを重視せず、今出来ることの範囲でゲームを楽しむ方法はいくらでもある。

 親子のキャッチボールに剛速球が必要ないのと同じだ。


 それでも自らアドバイスを求めるというのは、シャルさん自身がもっと上手くなりたいと思っているからだろう。


 上手くなりたいと思っていない相手へのアドバイスは余計なお世話でしかない。

 しかし本人が真剣に上手くなりたいと思っているのであれば、その気持ちには真摯に答えてあげるべきだろう。


 ――それが仮に、少々厳しい言葉になってしまうのだとしても。


「それじゃあ一つ言うと……シャルはもっと仲間のことを信頼した方がいいんじゃないかな?」


 ハルカが俺と同じようなことを考えていたかは分からないけれど、やはりハルカは変に誤魔化したりせず、まっすぐな言葉でシャルさんにそう言うのだった。


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