8 三人娘会談その1
「今日は二人ともありがとう。というかうちのリアルの事情を持ち込んじゃって、本当にごめんね」
「いまさら何を言っているのよ。その話は事前に何度もして私もマコトも了承しているでしょ」
「そうだよ。ハルカらしくもない」
「まあそうなんだけどね……ただお兄ちゃんを見てると心の底からは熱中してないというか、やっぱりまだ無理させちゃってるなって思うんだよね。だからお兄ちゃんのそういう面が二人に伝わってたら悪いなって」
「無理? 私から見るとかなり楽しくゲームをプレイしていたように見えたけど」
「あー、そこは間違いないと思う。けど根本的なところでお兄ちゃんはあくまでも私に付き合ってあげようって意識があるんだよ」
「ん? ハルカ、それってどういう意味?」
「んー、他人に説明するのはちょっと難しいんだけど、私とお兄ちゃんって今までお互いの好きなこととか趣味を共有したことがないんだよね。ただお互いに干渉しないからいい関係を築けてたんだ。それで今回お兄ちゃんが野球出来なくなって落ち込んでるって聞かされたとき、私は何とかしてお兄ちゃんを励まそうと思ったんだけど、でもいい方法が思いつかなくてさ……」
「それでハルカはチトセにゲーム一式をプレゼントして、LLOを一緒にやろうと誘ったのね」
「そう。初めて私の趣味をお兄ちゃんに押し付けた。でも普通だったら私がそんなことしないってのは、お兄ちゃんも分かってるんだよね。私が気を遣ってるって、お兄ちゃんにはバレてる。妹の私に心配かけてる、気を遣われてる。そんなんじゃダメだよなってお兄ちゃんは思って、だから今回私のゲームに少し無理して付き合ってくれてるんだ」
「なるほどね。私はハルカもチトセもリアルのことは知らないからあれだけど、それでもチトセと一緒にゲームをすることは楽しかったから、やっぱりそれはハルカが私たちに謝る必要はないと思うわ。むしろ頼りになる仲間を勧誘してくれてお礼を言いたいくらい」
「キリカがそう言ってくれると助かるよ」
「わ、私もチトセさんと一緒にゲーム出来るなんて思ってなかったから、凄く楽しいよ」
「うん、ありがとうマコト」
「チトセがまだ少し無理をしているという話はチトセ自身の問題だから、私たちにはどうすることも出来ないけど……それならなおのこと私たちは全力でゲームの楽しさをチトセに伝えて、少しでもチトセの心の傷を癒す手伝いをするべきじゃないかな」
「うん、キリカちゃんの言う通りだよ。私たちと一緒に楽しくゲームをプレイしていれば、きっとチトセさんもそのうち無理せず純粋にゲームを楽しめるようになるはずだから」
「……二人とも、ありがとう。あ、ここで話したことはお兄ちゃんには」
「もちろん内緒」
「だよね」
「あのお兄ちゃん相手でも、これはさすがに知られると恥ずかしいからね」
「というかずっと気になっていたんだけど、マコトはどうしてチトセの前だと猫を被っているの?」
「べ、別に猫被ってなんかないよ!?」
「あー、マコトはお兄ちゃんのこと好きだからねー」
「え、そうなの?」
「違うってば! 好きなんじゃなくて、憧れの人!」
「同じでしょ」
「同じよね」
「ハルカにもキリカちゃんにも分かんないよ、繊細な乙女心は!」
「なんだと」
「言うわねマコト……というかそういう面をチトセには見せたくないというのが、すでに好きってことだと思うのだけど。それにちゃっかりと名前を呼び捨てで呼んでもらうように言ったんでしょ?」
「名前のことは逆なの。マコっちゃんって呼ばれると、リアルのお兄さんのことが頭に浮かんでドキドキして落ち着かなくて。マコトって呼ばれる分には、現実感がなくて大丈夫だから」
「それで好きじゃないって言うのは、さすがに無理があると妹は思うわけですが」
「同感」
「というかそう言うハルカは私がお兄さんを好きでもいいの? 私とお兄さんが結婚したら私、ハルカのお義姉さんになっちゃうんだよ!?」
「結婚って……またずいぶん飛躍したわね」
「んー別にいいよ。というか同い年だけどマコトは普段から私の面倒見てくれるお姉ちゃんみたいなものだし、それに私はマコトのこと好きだし」
「え、す、す、好きって!?」
「好き好き大好き超愛してるー」
「も、もうハルカ、からかわないで!」
「……まあ私にもチトセとマコトの関係は何となく理解できたから、温かく見守ることにするわ」