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78 投擲武器

 ロックイーターが落とした宝箱には大したドロップアイテムは無かったが、市場ではかなり需要の高い鉱石系の素材がたくさん手に入った。

 特に消耗のない俺たちは、そのまま次の階層へ繋がるワープを利用して二層に進む。二層も風景は特に変わり映えしない狭い洞窟だった。


「そういえばチトセさん、先ほどの戦闘で石を投げていましたが、あれは?」

「ああ、俺は【投擲】のスキルを取ってるからそのレベル上げのためによくやってるんだ。今だともう威力がしょぼいから特に戦術的な意味はないけどな」

「【投擲】ですか、それなら私も取っていますから仲間ですね」

「え、マジで?」

「はい。私は普段のソロ戦闘で強敵と戦う場合は、様々な薬品を敵に投げるのがメインの攻撃手段なので【投擲】は必須なんです」

「へぇ、シャルってそういう戦い方なんだ」


 シャルさんの言葉に、ハルカが興味深そうな反応を示した。


「何というか、凄くお金がかかりそうなスタイルね」

「そうですね。とはいえ、私はそのために普段金策を頑張っていますから問題はありません」


 シャルさんは自身の戦闘を苦手としている点を補うために、普段から惜しみなく資金を投資していた。そのため実は装備も俺たちの中ではダントツに良いものを揃えていたりする。

 まあさすがにレアドロップであるデモンズスピア並みの装備はシャルさんもまだ持っていなかったけど、それでも防具に関しては俺より2ランク上の物をすでに装備していた。


「でもチトセさん、それなら投擲武器を使用したりはしないんですか?」

「投擲武器?」

「あれ、このゲームそんなのあったっけ?」

「一応ベータテストの終盤で追加されたのですが、特に有効活用されることなくテストが終了してしまったので、もしかしたら存在自体知らない人の方が多いのかも知れませんね」


 シャルさんによると、投擲武器というのは文字通り投げて攻撃するための消耗品らしい。

 一度投げたら無くなる代わりに、近接職でも遠距離攻撃が可能になり戦闘の幅が広がる……という名目で実装されたらしいが、別にそれが必要になるような戦闘は今のところ確認されていないという話だった。


「ほうほう……自分には縁のないアイテムだから全く知らなかったよ」

「私も全然知らなかったわ」


 シャルさんの話を聞いたハルカとキリカはそんな風に言った。というかハルカたちでも知らないことってあるんだな……いやこのゲームの規模を考えたら当然なのか。

 たぶんアイテムに関しては全てを把握しているとかいうシャルさんが凄すぎるだけだろう。


 ちなみに投擲武器には色々な種類があり、剣の投げナイフ、斧のトマホーク、槍のジャベリン、鈍器のブーメランなどが比較的序盤から手に入れやすいらしい。

 あと俺の場合だと【槍マスタリー】のパッシブスキルが乗るので、扱うならジャベリンがおすすめになるようだ。


「石にはベースとなる攻撃力が設定されていないので、チトセさんが【投擲】をサブの攻撃手段として考えていくのであればジャベリンを用意した方が効果的だと思いますよ」

「なるほどなぁ……ちなみにそのジャベリンって値段はいくらくらいするんだ?」

「今の相場だと10本セットで4kくらいですね。供給が安定すればもう少し下がるとは思いますが」


 今の俺の全財産が50kに少し足りないくらいなことを考えると、結構な値段だった。1セットくらい保険でアイテムボックスに入れておくくらいはありかも知れないけど、常用するにはもういくらか資金的な余裕が必要そうだ。


「そういえば投げるってだけならこのデモンズスピアを投げたらダメなのか?」

「別にダメじゃないけど、その場合は仕様的にただの通常攻撃扱いになるのと、武器は自力で回収しないといけないから外したら悲惨なんだよね。というか武器を手放してる間はステータス下がるし」

「このゲームに装備品のロストはないから戦闘状態が解除されれば手元には返ってくるのだけど、戦闘中に回収が難しい状態になったら一気にピンチになるから通常攻撃一発分にしてはリスクが高いわね」

「……つまり横着せずに自分の足で近づいて攻撃しろってことだな」


 とりあえず装備品を投げて攻撃するのはやめた方がいいということはよく分かった。

 みんなの説明のおかげで、【投擲】に関することは大体理解できたような気がするけど、もう少しだけ気になるところを質問してみよう。


「でもそうなると【投擲】スキルを持ってるシャルさんって、ヒーラーだけど投擲武器で敵を倒したりも出来るってことだよな?」

「いえ。私は物理攻撃力が全くないので、投擲武器ではほぼダメージが出せません」

「ああ、やっぱりステータスってダメージに影響するんだ」

「そうですね、詳しい式はまだ判明していませんが魔法職と物理職で威力に大きな差があるのは確実です」


 だからシャルさんは誰が投げても効果が同じである薬品を投げるようにしているらしい。


「あと当然チトセさんも知っていると思いますが、ゲームの補正があっても【投擲】は当てるのがかなり難しくて、魔法や射撃みたいに20m以上離れた位置からではまず当たりません。最低でも10mくらいまでは近づく必要があるので、そういった点でも近接職が【投擲】を扱う方がリスクは少ないですね。一応私の場合は睡眠薬や氷結薬を最初に投げるようにしていますけど」

「……ん?」


 【投擲】は当てるのがかなり難しい?


「……? チトセさん、どうかしましたか?」

「え? ああ、いや何でもない」


 シャルさんにそう尋ねられて、俺はとっさに誤魔化すようにそう言った。


「……お兄ちゃん、あれ絶対ゲームの補正で誰でも簡単に当てられるって思ってたよね」

「ええ、間違いないわね」


 ひそひそとハルカとキリカが何やら話している。ハルカがジトっとした目でこっちを見ているのでたぶん俺の悪口だろう。


 でも、そうか。

 たとえゲーム上で同じ【投擲】のスキルを持っていても、それをどれくらい生かせるかについては明確に個人差が出てくるものだというのなら。


 少なくともその点に関しては、俺は誰にも負ける気がしないのだった。


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