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77 ナリア廃坑

 ダンジョンの入口にたどり着くと、パーティーとしての戦い方をハルカが確認するようにみんなに言った。


「お兄ちゃんとキリカはいつも通り前に出てくれたら大丈夫。ただ今回は私とシャルの両方がヒーラーだから、パーティー全体の火力は下がってることだけ頭に入れといてね。その分安定感は高いから防御面は安心していいよ」


 そういえばシャルさんの錬金術師という職業が戦闘の場合はどういった役割になるのか知らなかったが、ハルカによるとヒーラーになるらしい。

 マコトほどのダメージは期待できないかわりに、回復魔法を使える仲間が増えるので確かに簡単にはやられたりしないだろう。


「それじゃあヒールの担当分けようか。シャルはどっちか希望ある?」

「いえ、私はどちらでも……」

「じゃあ私がキリカを見ようかな。シャルは自分とお兄ちゃん担当でよろしく」

「分かりました。……それではチトセさん、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 ヒーラー同士の話し合いの結果、俺のことはシャルさんが担当することになった。

 キリカは多くの敵と対峙する役割で常にダメージを受け続けるので、慣れているハルカが担当した方がシャルさんの負担は少ないという考えかもしれない。


 そういうことなら俺も回避を頑張って極力シャルさんに負担をかけないようにしよう。


「それじゃあいくよー! 【ガードコート】」


 ダンジョンに入るとまずハルカが防御力アップの【ガードコート】をみんなに使用した。

 ダンジョンはフィールドと違って道が狭く、敵との距離も近くなるので後衛も攻撃を受けやすいらしい。


 といってもこの『ナリア廃坑』の一層の適正レベルは8程度なので、ハルカ的には別にあってもなくてもよさそうとのことだった。


 そうこうしているうちに最初の敵と出会う。ケイブバットという今まで見てきたコウモリ系の敵の上位種らしい。


 敵は三体いたが、俺とキリカが分担して速攻で倒しきる。かなり格下のモンスターなので、手ごたえは全く感じなかった。


 その後もケイブパイソンという蛇やテイルスコーピオンというサソリのモンスターが現れるが、どれも一撃で倒せるレベルの敵だ。


「一層は敵も弱いし大して良い素材も落ちないから、この調子でさっさと駆け抜けちゃおう」


 ハルカの言葉に従うように俺たちは進行速度を上げていくと、ものの数分でフロアボスに到達することが出来た。


 『打ち捨てられた墓所』の一層もそうだったけど、あまり長い道のりのダンジョンではなかったようだ。


「ここのボスはロックイーターっていうサイみたいなモンスターで、結構耐久力はあるから普通なら長期戦になるボスなんだけど、今の私たちだとそんなに時間はかからないはずだね」

「特に遠距離攻撃とかはしてこないけど一つだけ特殊な行動があって、分かりやすい前兆の後に突進攻撃をしてくるの。これは何をしても壁にぶつかるまで止まらないから、必ず横に避けるようにね。格下でも一応ボスだから、当たると痛いわよ」

「痛いって言うか、私とシャルはたぶん即死だね。まあその分距離が遠いから避ける余裕は充分あるけど」


 とはいえ今の俺たちからすればそんなに強いボスでもないようで、説明もそのくらいだった。


 そうして早速キリカが攻撃を仕掛けるために近づいていく。俺は久々に足元に落ちていた石を投げてみることにした。

 的が大きいので石は難なく当たり、ロックイーターの体力を0.5%ほど削る。


「ん、結構ダメージ通るな」


 【投擲Lv.2】の補正があっても以前はそこまで投石に威力はなかったはずだ。確かデモンズスピアでの通常攻撃の二十分の一以下だったと思う。

 まさかロックイーターがそこまで柔らかいというわけでもないだろう。


 どこでダメージが決定しているのかは現状分からないけど、もしかしたら俺のステータスやキャラクターレベルもダメージに関係しているのかも知れない。

 まあ今はこれ以上考えても仕方ないので、頭を切り替えて戦闘に集中することにしよう。


 キリカの後に続いて俺も槍で通常攻撃を仕掛けると、一発でロックイーターの体力の3%ほどのダメージを与える。うん、やっぱり投石の威力が高くなっているのは間違いない。


「【アシッド】! 【ベノム】!」


 そうして俺が攻撃した直後にシャルさんが攻撃魔法を放つ。


 ちなみに錬金術師の攻撃魔法は少し特殊らしく、全てが30秒かけて継続ダメージを与えるものだという。そのため短時間でまとまったダメージを出す必要がある雑魚モンスターを狩るといった戦闘はあまり得意ではないそうだ。


 ただ一方で詠唱が短く、また30秒フルにダメージを与えた場合の威力はハルカの使う【シャイン】などと比べても高く設定されているらしい。


 その上で【アシッド】には敵の防御力を下げる効果が、【ベノム】には被回復量を低下する効果がそれぞれあり、継続ダメージとデバフを撒けるヒーラーという独自の立ち位置の職業になっていた。


 本業は生産職なので広くどんな戦いでも活躍できるタイプではないが、長期戦になるボス戦などでは充分に活躍できる職業だという話だ。


 【アシッド】がかかった状態のロックイーターに再度攻撃を仕掛けてみると、ダメージがわずかに増えていた。たぶん割合にして3%くらいであまり実感できる感じではないけど、全員の攻撃が全て強化されると考えると、あるとないとでは最終的に大きな違いになりそうだ。


 そうこうしているうちに、体力の削れたロックイーターが分かりやすい前兆で地面を強く踏みしめる。


 この時点ですでに狙う方向は決定されているようで、俺たちはさっさとロックイーターの正面から離れるように散開した。


 するとロックイーターは直後に誰もいない方向に向かって突進していき、そのまま壁に激突するとその衝撃でどうやらスタンしてしまったようだ。


「よしみんなチャンスだよ!」


 ハルカがそう言って全員に全力で攻撃するように指示を出した。

 俺もそのまままっすぐに近づいて、ロックイーターの尻に目掛けて【奇襲】の乗った【パワースラスト】を叩き込む。


 他のみんなも全力で攻撃を仕掛けた結果、ロックイーターが壁にめり込んでスタンした状態のまま倒しきることに成功した。


「なんというかこのボス、自滅したようにしか見えないんだけど」

「まあそういう設計のボスだからね。ちゃんと動きを見て対処することの大切さをプレイヤーに教えてくれる初心者向けのボスだし」


 レベル的には同じくらいのビッグプラントやデーモンエグゼクターと比べると、ロックイーターは動きが単純で緊張感もなかったが、どうやら同じレベル帯でもボスごとに大きく難易度が違うらしい。


 だから倒せないボスは無理に倒そうとせずに、地道に倒せる敵を倒しながら少しずつ強くなっていけるように自由度が高く設計されているのがLLOというゲームなのだとか。


「そういえばシャルさん、戦闘は苦手って言ってたけど、見た感じ特に問題なさそうじゃないか?」

「それは、キリカさんのターゲット取りが上手いのと、チトセさんが全く被弾しなかったからです」

「さすがに今の戦闘じゃヒーラーは暇すぎて実力は分からないわよね。でも【アシッド】を先に使って【ベノム】のダメージを上げたり、継続ダメージの更新タイミングなんかも見てて普通に上手かったから、個人的にはちょっと安心したかな」


 そんな風にキリカが具体的な例を挙げながらシャルさんを褒める。というかキリカ、よくそんなところまで注意して見られるな。


「まあ二層からは敵も強くなるから、そこからがヒーラー的には本番だね」

「……頑張ります」


 ハルカの言葉に、あくまでもクールに返すシャルさん。しかし俺から見た彼女の目には、確かな自信と闘志が宿っているような気がした。


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