76 考え方
まず四人で狩り場をどこにするかという話をする。
「シャルのレベルが19ってなると、経験値的に美味しい狩り場が限られてくるよね」
「あ、私は別に経験値はそこまで重視してないので気にしなくて大丈夫です。レベルは生産で上げますから。それより個人的には、素材などが美味しい格下モンスターを狩りたいです」
「そうね。私たちももう1ランク上の装備を整えないと、フェリック側で効率よく狩るのは難しいから素材を集めるのは賛成だわ」
「となると南の森を抜けた先の洞窟か、北西の神秘の森の奥地が候補かな? でもどっちで狩っても今すぐに装備更新するのは難しい感じだよね」
三人は狩り場ごとに得られる素材と次の更新先の装備のレシピが頭に入っているようで、どこで狩るのがいいかを活発に議論していた。
もちろん俺はそんな知識が頭に入っているはずもないので、静かに議論の成り行きを見守っている。
「そういえばこのメンバーだと範囲火力が不足するから、ボス狩りとかの方が効率いいかもね。あとレアドロップ狙いとか」
「となるとダンジョンも候補でしょうか?」
「リムエスト周辺のダンジョンだと『打ち捨てられた墓所』と『ナリア廃坑』?」
「そういえば『打ち捨てられた墓所』ってお兄ちゃん行ったことあるんだよね?」
「ああ、そうだな。スケルトンとかグールみたいなアンデッド系のモンスターが多くて、素材も骨とかそういうのがいっぱい手に入る感じだ」
「素材的に錬金術師なら美味しい感じですが、みなさんの装備更新となるとあまり必要なさそうですね」
どうやらアンデッド系のモンスターが落とす素材は錬金術師の生産レシピで使用するものが多いらしい。確かにシャルさんは以前もコウモリの羽なんかを集めていたし、怪しい素材から薬品を作るというイメージには合っていた。
「ボスのレアドロップもチトセがすでに持ってる槍ならわざわざ狙う価値はないわね」
「ちなみにお兄ちゃん、二層ってどんな感じか分かる?」
「一応ちょっと覗いてきたけど、入ってすぐのところで即死させられたな。たぶん今の俺たちじゃボスまでたどり着けるかも怪しいと思う」
「となると行くなら『ナリア廃坑』ね」
「あそこの一層は敵も弱いからさっさとクリアしちゃう感じで、二層を周回すればいいかな。シャルもそれでいい?」
「はい、構いません」
そんな感じで俺たちの行き先は『ナリア廃坑』に決定した。
『ナリア廃坑』はリムエストの街の北にあるダンジョンだ。手に入る素材としては金属系の鉱石が中心で、運が良ければ宝石などのドロップも期待できるらしい。
キリカの防具用の素材を集めながら他のみんなのアクセサリー用の素材を得るチャンスもあるので、狩り場としては妥当な場所なようだった。
ということで目的地が決まったので、俺たちは北門から街を出て移動を開始する。
するとほどなくして、シャルさんが俺に小さな声で話かけてきた。
「私、本当に戦闘は自信がないのですけど……みなさんの足を引っ張らないでしょうか?」
「んー、俺もシャルさんがちゃんと戦ってるところって見たことないから、適当なことは言えないんだけど……それならいっそのこと開き直ったらどうだろう?」
「開き直る、ですか?」
「そう。頑張って全力でプレイして、それでも足を引っ張ってしまったらごめんなさいする感じでさ」
ゲームにしろ野球にしろ、いきなり上手くなんてなれないのだから、今自分に出来ないことはどうしようもない。だから起きてしまう悪い結果は変えられない。
それでも全力でやった結果であるなら、それは受け入れるしかないだろう。
「というかシャルさんはみんなで冒険して強敵と戦ったりしたいんだよな?」
「はい、そうです」
「だったらまずはみんなの足を引っ張って迷惑をかけることに慣れないとな」
「慣れる……? 慣れちゃっていいんですか?」
「もちろん悪いって気持ちは持っておいてちゃんと反省はしなきゃいけないけどな。でもミスをしちゃいけないとか迷惑をかけないようにとか、そういう自分への無駄なプレッシャーを無くすためにも失敗に慣れることは必要なんだよ。だってミスは絶対になくならないんだから」
野球だと10割打てるバッターなんていないし、点を取られないピッチャーもいない。
みんな絶対にいつかどこかでミスをする。それもきっと、大事な場面で。それはもう仕方のないことだった。
だから大事なのはミスから学ぶことだ。昨日より一つでも成長すること。
それをずっと続けることが出来るのなら、いつかきっと自分の欲しいものは手に入れられるはずなのだから。
「なるほど、そういう考え方ですか……チトセさん、ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」
「そうか。まあハルカもああ見えて結構優しいから、謝れば許してくれると思うし」
「ああ見えてって、お兄ちゃんには一体私がどう見えてるって言うのさ?」
「ハルカ、聞こえてたのか」
「まあね。……それで、何か言うことは?」
「……ごめんなさい」
「よし。私はこう見えて優しいから許してあげよう」
俺とハルカはそんな風に予定調和ともいえるいつもの軽口を言い合う。
「……ふふっ。お二人は、本当に仲が良いんですね」
それを見ていたシャルさんは小さく笑って、そんなことを言うのだった。