73 三人娘会談その4
「今日は何というか、充実した一日だったわ」
「充実というか、色々ありすぎた感じだけどねー」
「私たちとしては、今日は最悪フェリックまで行ければいいくらいのつもりだったからクラン設立とかは想定外だったよね」
「そうね……でもハルカ、本当に良かったの?」
「ん、何が?」
「何って、チトセにクランマスター押し付けちゃったことだけど」
「ああ、それなら大丈夫だよ。というか私たちの中だったら一番適任だと思うし」
「確かにチトセさんなら私も安心かな。優しくて面倒見がいいって昔から評判な人だから」
「別に私も、チトセの人間性の面では何も心配してないけど」
「まあガチの攻略クランとして決まり事作って活動するわけでもないし、ゆるく適当にやっていくだけならお兄ちゃんもそんなに負担にはならないよ……たぶん」
「そうだといいけどね」
「……あ、そういえばハルカ、掲示板見た?」
「うん、見たよ。私たちの一番乗りが少しだけ話題になってたね」
「私も見たわ。ただ少し気になったのは、チトセのことがGramさん側にも知られてたことかな」
「それはたぶんヒヨリさんからじゃないかな。クランは抜けたけど関係は継続してるみたいだし、私たちも向こうの情報もらったから」
「いや、そこは別にいいんだけどね。でもああいう風に自分のことが話題になるのって、チトセ的にはどうなのかなって」
「チトセさんならたぶん気にしないんじゃない? むしろ喜びそうな気さえするけど」
「そうだね。昔から地元じゃ有名人だったし、本人も目立ちたがり屋だから」
「でも今みたいな書かれ方ならともかく、今後は叩きとか晒しとかも当然出てくるでしょ? ……まあそんなのこっちでコントロールできることじゃないから、気にするだけ無駄なんだけど」
「それこそお兄ちゃんは慣れっこだと思うけどね。アマチュア野球とかドラフト候補とかの掲示板でずっと好き放題言われてたし。あ、キリカも見てみる?」
「うん? 『怪我は自業自得』『自己管理できない無能』『どうせプロでは通用しなかった』……これは酷いわね」
「まあお兄ちゃんはこんなところ見てないと思うし、仮に見ても何も思わないと思うけどね」
「というか昔からチトセさんが悪く言われるとハルカが先に怒って、それをチトセさんがなだめてたよね」
「ああ、その光景は簡単に想像できるわ」
「というかキリカはさっきから少しお兄ちゃんのことを心配しすぎだよね。何、惚れた?」
「違うわよ。ただチトセは一緒にゲームをしていて久々に楽しいと思えた仲間だから、人間関係とか晒しとか、ゲームの楽しさの本質とは関係ないところで嫌になって辞めてほしくないなって話」
「そうだね。私もキリカちゃんと同じで、チトセさんにはこのまま長くゲームを続けて欲しいと思うし」
「まあそれは大丈夫じゃないかなぁ。最近のお兄ちゃん、少しずつ昔みたいな目をするようになってきたし……しばらくはこのまま、だらっとした日常が続いていくと思うよ」