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68 面倒な役割

「なんだか、昔を思い出すわね」

「あ、キリカも思った?」


 シャルさんの本心からの言葉を聞いて、キリカとハルカがそんな会話をした。


「ん、昔って?」

「最初に会ったばかりの頃のマコトが、ちょうど今のシャルみたいだったなぁ、って思ったのよ」

「あの頃のマコトは本当にゲームが苦手だったからねぇ」

「マコトが?」


 俺はそう言ってマコトの方を見る。マコトは少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「何年も前の話ですけどね。私はハルカみたいに最初から何でも器用に出来るタイプではないので、最初は色々と苦労したんです」

「なるほど」


 確かに昔からハルカは何でも要領よくこなす一方で、マコトはコツを掴むまで少し時間がかかるタイプだった。それでもやると決めたことを途中で投げ出すところは見たことがないので、芯がしっかりとしていて強かな性格をしていると俺はマコトをそう評価していた。


 何にせよ誰にだって苦手なことはあるし、そうしたことが最初から上手く出来ないのは当然だろう。ハルカみたいな人間がずるいのだ。


「いやお兄ちゃんにだけは言われたくないよ?」


 ハルカから抗議の声が上がったが無視する。


 とりあえずシャルさんが俺たちと一緒にクランとして活動していくことにはハルカたちも賛成のようだった。まあゲーム初心者の俺のことも温かく迎えてくれたのだから当然かも知れない。


「んじゃまずクランを作るにあたってクランマスターを決めないとね。シャルはやりたい?」

「いえ、私はそういうのが苦手で……出来れば遠慮したいです」

「じゃあいつもみたいにハルカがやったらいいんじゃないか?」

「え、やだよ面倒くさい」

「面倒くさいって……普段はパーティーリーダーしてるし、戦闘中の指示出しとかも慣れてるから適任だろ?」

「パーティーリーダーは別に誰がやるか決めてるわけじゃなくてその場その場で適当だし、指示出しはいつも一番後ろでみんなの状況を見てるヒーラーがやった方が好都合だからやってるだけだよ。クランマスターみたいに人間関係で相談に乗ったり気を使ったり調整したり、とにかく人の上に立って何かやるのは私の柄じゃないの」

「そうか? 言いたいことをはっきり言えるハルカには向いてそうだけどな」

「いやもう全然だから。たぶん私のことなんてお兄ちゃんみたいな体育会系のウェイには理解できないんだよ」


 俺は軽い気持ちでクランマスターにハルカを推してみたけど、思いのほか本気で嫌がっていた。たぶんこれは過去に何かあって、実際にそういう面倒なことを経験してきたんだろう。それにしても体育会系のウェイって何だ?


 しかし、そうなると残るはキリカ、マコト、俺の三人か。


 マコトは……無理そうだな。今ちょっと目線をやったら全力で首を横に振っていた。うーん、性格的には意外と向いてそうな気もするんだけど。


 とはいえ今後もメンバーが増えていくかも知れないし、親しい知り合い以外が相手のときに若干人見知りなマコトが上手くコミュニケーションを取れるかが問題か。みんながみんなギョクみたいに親しみやすい人間ばかりではない。


 おそらく本人もそこが分かっているから拒否しているのだろう。


「となるとキリカかな、年長者で頼りになるし」

「嫌よ」


 一言で断られてしまった。これは取り付く島もなさそうだ。雰囲気的にキリカもハルカみたいに、過去に色々あったのかも知れない。


 しかしそうなると……。


「だからお兄ちゃんがやればいいんだよ。シャルだって実質お兄ちゃんにクラン作ってって頼んだようなものだし」

「いやでも俺は初心者だぞ? ただでさえ分からないことだらけなのにクランマスターなんて出来ないだろ」

「でもその言い方だと、私たちみたいにやること自体が嫌ってわけじゃないのね?」

「だったらチトセさんの知識面は私たちがフォローすれば問題ないですよね!」

「キリカとマコトもこう言ってるし、多数決でもうお兄ちゃんに決定で。シャルもそれでいい?」

「ええ、問題ありません。チトセさんならきっと居心地のいいクランを作ってくれると思いますから」

「……まあみんながそれでいいなら俺も構わないけどさ」


 そんな感じで俺はクランマスターという役割を押し付けられる形になってしまった。


 ゲーム経験豊富な四人全員が嫌がるあたりそんなに面倒なのかと少し不安にはなったが、普段から色々と親切にしてもらっているのだから、こういうときに面倒事を引き受けて恩返しをするのも悪くはないだろう。


「お兄ちゃんなら大丈夫だよ、小中学校のときも野球チームのキャプテンだったんだし」


 ハルカは軽い感じでそんなことを言った。確かにそういう経験はあるし、特別苦手意識があったりもしない。


 ただやっぱりゲームのことはまだ分からないことだらけなので、クランマスターという役割を上手くこなせる自信はまだなかった。というか現時点では何をする役割なのかも全く分かっていない。


 それでもみんながフォローはしてくれると言っているし、こうなったらやるだけやってみるしかないだろう。


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