63 先行者利益
シャルさんからメッセージが届いたことを話すと、三人娘はそれぞれ顔を見合わせた。
シャルさんとフレンドになった経緯については、ビッグプラント戦後に一応三人にも説明してあるので、そこまで驚いたという感じではない。どちらかといえば不思議そうな表情を浮かべている。
「お兄ちゃん、それでシャルローネはなんて?」
「ああ」
ハルカにそう尋ねられた俺は、そのままメッセージを読み上げる。
――チトセさんがフェリックへの一番乗りを果たされたようで、おめでとうございます。最新の素材もすぐ市場に流されたようなので、さっそく購入させていただきました。そこでチトセさんの実力を見込んでお願いしたいことがあります。不躾で申し訳ありませんが、直接会ってお話したいので一度リムエストの市場までお越しいただけませんか? 都合がよければパーティーメンバーのみなさんもご一緒いただけると助かります。
「要するに、頼みたいことがあるからみんなでちょっと来てくれって感じだな」
「うーん……キリカはどう思う?」
「ハルカの思っている通り、先行者利益に目を付けたのは間違いないわね。でも過去に何度か取引した印象だと、シャルローネの提案に乗って損することはない気もするわ」
「私もキリカちゃんと同意見だね。シャルローネが相手を騙したり損をさせたという話は聞いたことないから」
「ゲームのお金ならいくらでも稼げるけど信頼は買えない、だっけ?」
「何だそれ?」
「シャルローネのポリシーみたいなものだよ。というか、お兄ちゃん的にはシャルローネってどうなの?」
「どうって言われてもな……話した感じでは礼儀正しい大人の人って感じだったけど」
フレンドではあるけど実際のところそんなにたくさん話をしたわけでもないから、そこまで詳しく人となりを把握しているわけではない。
ただ少なくとも俺はシャルさんに対して、悪い印象は全く持っていなかった。
シャルさんが俺たちの先行者利益に目をつけて利用しようとしているのはたぶんそのとおりなのだろうけど、それだって俺たちが損をするわけでないなら別に構わないように思う。
「まあだったらいいかな。どちらにせよ素材を市場に流す時点でシャルローネが利益を得るのは確定的なわけだし」
「それなら先に話を通しておいた方が、お互いにとってより美味しい形になるでしょうね」
「見ず知らずの誰かに利益が流れるよりは、チトセさんのフレンドのシャルローネが得をした方がいいですから」
俺たちがフェリック周辺で手に入れる新しい素材を使った生産品で儲けようとする生産職のプレイヤーが今後はどんどん出てくる。
別にそれ自体は自然なことで、俺たちとしては誰が素材を買ってくれても構わないのだけど、どうせならシャルさんやギョクのような生産職のフレンドが得をしてくれた方がいいだろう。
そんな風にして俺たちの意見がまとまり、とりあえずこのまま一回リムエストに戻ることになった。
「あ、その前にみんなで記念撮影しようよ。一番乗り記念でさ」
「え、撮影とか出来るのか?」
「出来るよ、ゲームにカメラ機能があるから」
ハルカがそう言うと同時に、空中に浮いたカメラが現れた。
それをハルカは操作して少し離れた場所に配置する。
「それじゃあみんな撮影許可よろしくー」
その言葉と同時に通知で撮影を許可するかどうか尋ねられたので、許可を選択した。
これはゲーム内での盗撮やストーカー行為を防止するためのシステムらしい。だから許可がないと他人の姿は撮影出来ず、そのプレイヤーが消えた状態の画像になるという話だった。
「じゃあいくよ、はいチーズ!」
そう言ってハルカはカメラを遠隔操作して四人全員が映った写真を撮影した。
画像はすぐに全員に共有されたのでさっそく俺も見てみると、みんな仲良く楽しそうな笑みを浮かべて写っていた。
「……いい写真だな」
「そうですね」
「私の腕のおかげだね」
「いや誰が撮っても一緒でしょ、ゲームの機能なんだから」
胸を張るハルカにキリカがツッコミを入れて、俺たちはみんなで笑い声をあげる。
何にせよ俺たちはこの四人で一つの大きなことを成し遂げたのだ。これはその記念であり、記録だった。
この先もきっとこうした写真は思い出と共にどんどん増えていくのだろう。そんな風に考えた俺は、それが楽しみで自然と胸が高鳴るのだった。