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廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第一章

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62 マーケットボード

 俺が取り出した魔法石を見て、ハルカたちはびっくりしたような表情をしていた。


「えっと、お兄ちゃん。とりあえず訊きたいことと言いたいことがあるんだけど、いい?」

「おう」

「まずこれはどうやって手に入れたの?」

「昨日トロールを狩った帰りにはぐれゴーレムに腕試しで挑んでみたらなんとか一人で倒せたから、そのドロップだな」

「やっぱりそうだよね……じゃあ昨日会ったときにはすでに持ってたわけかぁ……」

「チトセならありえないとは思うけど、もし昨日のうちにそれを市場に流していたら一番乗りは間違いなく失敗していたわね」


 魔法石は序盤の攻略において重要な立ち位置を占める素材であり、低レベルの段階で魔法石を手に入れられたことが俺たちの今の攻略速度の優位に繋がっていた。


 はぐれゴーレムを狩るときにマコトが身内でドロップを独占したいと言っていたのもそれが理由だ。


 だから俺がもし昨日の夜の時点で魔法石を市場に流していたら、それを購入した攻略組が今日の午前中にでもジェフを倒してフェリックへの一番乗りを果たしていたのは間違いない。


 昨日の時点でフェリックに一番乗りをすることは俺の頭にはなかったけれど、それでもマコトの言った独占という言葉が頭に残っていたので、この魔法石をどう扱うかについては一旦保留していたのだった。


「でも確かに考えてみると、その魔法石を売るなら今のタイミングが一番いいかも知れませんね。もうはぐれゴーレムを狩れるパーティーは複数出てきている頃でしょうし、採掘師でも魔法石を掘れるレベルの人もそろそろ現れるはずなので」

「マコト的には一番高値で売れるのは今のタイミング、ってことね。でも私は売るのは反対かな。この先の装備品のレシピにも魔法石は必要になってくるし、そのまま持っていた方が有用だと思うわ。特にチトセは今すぐお金が必要ってわけじゃないんだし」

「キリカの言う通り、お兄ちゃんの場合はお金を稼ぐためのお金が必要ってだけだからね。確かに一番乗りしたことを利用した転売は今しか出来ないけど、たぶんかかる手間の割にはあまり儲からないだろうし」

「売る相手はまだレベルが低くて資金的にそこまで余裕がない相手というのもあって、どれくらい利益を上乗せするかも判断が難しいですし、売れ残り次第では損をする可能性もありますからね」


 たとえばNPCから買った価格に10%の利益を上乗せして10個売っても、1つ売れ残ったら儲けは0になる。一応売れ残りをNPCに買い取ってもらえば多少プラスになるだろうけど、それは手間を考えると実質マイナスにも思えた。


 とはいえあまり利益を上乗せしすぎたら今度は売れなくなるだろうし、売れ残りを抱えるリスクが上がってしまう。


 マコトはそういった話を分かりやすく丁寧に説明してくれた。


「……なるほど。転売自体は成立するけど、買い手の状況をしっかりと正確に把握しないと儲けるのは難しいのか」

「そういうことだね」


 フェリックに一番乗り出来たこともあって、とりあえず思いついたから言ってみたNPCから買える物の転売だったが、どうやらそんなに美味しい話でもないようだ。


 というかゲーム初心者の俺が思いつくようなことは当然ハルカたちなら先に思いついているはずだった。そのハルカたちがやろうとしないのだから、つまりそういうことなのだろう。


 一応魔法石に関しては今高値で売っておいて必要になった頃に必要数買い戻すというのも有りだとは言われた。


 ただそれもこれからしばらくは相場がどう変動するか分からないので、上手くやらないと高値で売ったつもりが実は安値で売ってしまったということにもなりかねないという話だった。


 今後市場に出回るお金が急激に増えていくことによるインフレが――とかキリカに言われた辺りで俺は考えるのをやめた。


 市場というのは脳筋のゲーム初心者が安易に手を出していい世界ではなかったのだ、うん。


 そんな感じでハルカの訊きたいことから始まった、魔法石を売ることや店売り装備の転売に関する話はそこで一段落した。


 そして次にハルカは言いたいことについての話を始めた。


「でもそんな金の亡者に成り下がったお兄ちゃんに、朗報があるんだよね」

「いや金の亡者って……」


 一番乗りした利点を生かして楽にお金儲けをしようと考えたのは事実なので、確かに強く否定は出来ないのだけども。


「一番乗りしたことを生かして金策したいなら、さっき道中で倒したスパイクビーストがたくさんドロップした硬い棘って素材を市場に流すといいよ。というか私たちも今からやるつもりだったけど」


 ハルカはそう言いながら、近くにあった市場を指す。そうして俺たちは先導するハルカについていって市場のエリアに入った。


 市場のエリア内であればどこでもマーケットボードというものを見られるようになる。このマーケットボードで各プレイヤーが出品している商品全てを一覧することが出来るのだ。


「そういえばお兄ちゃん、市場で出品するのは初めてだっけ。やり方を説明するね……といっても簡単なんだけど」


 そう言ったハルカに市場での出品の仕方を教わる。確かにハルカの言う通りで、マーケットボードの出品を選択してアイテムボックスから売りたいアイテムを選び、値段を設定するだけと凄く簡単だった。


 値段はハルカの言う通りに設定する。同様にハルカたちも同じ値段で出品していた。


 この値段は過去のベータテスト時代の相場で考えると結構強気な値段設定らしく、全部売れれば結構な額になる。


 それでも他に出品できるプレイヤーがいないことからも、すぐに売り切れるだろうとハルカたちは言っていた。


 ちなみに市場は全ての街で共通らしく、リムエストで出品されたものをフェリックで買うことも出来るし、俺たちがフェリックで出品したものもリムエストのプレイヤーたちが買うことも出来るという話だ。


 一体どういう原理なのだろうと少し疑問に思わなくもなかったが、そこを厳密に分けてしまうときっとゲーム的に不便すぎるのは間違いなかった。


 そうして出品してから数分もしないうちに、市場に動きがあった。


「あ、売れたな」

「私たちの方も同時に売れたみたいだね」


 市場に出品した商品が売れると通知が出る。売れ方的には誰かがまとめ買いで一気に全部購入したようだった。


「ちなみに売った側は誰が買ったかをマーケットボードで見ることが出来るんだよ」


 ハルカに購入者の見方を教わって、実際に見てみる。


「あ、シャルさんだ」

「やっぱりそうだよね。さすがシャルローネというか」

「どうやら全員分買い占めていったみたいね」

「生産しながら常時市場に張り付いているって噂は本当みたいですね」


 ハルカたちはシャルさんが購入するだろうことをあらかじめ予測していた雰囲気だった。


「……ん?」


 しかしその直後、俺の元にメッセージが届く。このタイミングでメッセージを送ってくるフレンドなんて一人しかいないだろう。


 ――差出人の名前はシャルローネ。


 今ちょうど俺たちが話題にしていたその人だった。


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