60 一番乗り
ちなみにさっきの件についてマコトは『キリカちゃんが羨ましかった』『ああ言った方がロマンチックだと思った』などと供述をしていた。ハルカたちも笑っていたし、たぶんマコトなりのジョークだったのだろう。
「まあでもああいうとっさの判断とか連携は前衛職の醍醐味かもね」
「そうね。ハルカとマコトは何をするにも詠唱が必要だから、とっさに動くのは難しいから」
「しっかり戦況を見て先を予測しながら戦うのは、それはそれで面白いんですけどね」
その話題から派生して、そんな風に職業ごとの面白さの違いについて三人は話していた。
確かに戦闘での役割も戦い方もそれぞれ個性があって大きく異なるので、楽しいと思える部分だって当然違ってくるだろう。
そう考えてみると、やっぱり俺には自由に動きやすい近接アタッカーが性格的にも向いている気がした。職業に関しては最初に適当に選んだけど、そこは運が良かったのかも知れない。
その後、森を進んでいくと何度かモンスターと戦闘になったが、しっかりと警戒していたため不意を打たれることもなく対処出来た。
・レベルアップ Lv.13 → Lv.14
ついでにレベルも上がって俺はLv.14に、ハルカたち3人はLv.13になった。敵が強いだけあって、経験値の効率はかなり良い。それにドロップする素材なども向こう側では見たことないものもいくつか手に入っていた。
橋を渡れるようになったことで活動範囲が広がったので、他にも色々と手に入れられるものは増えるだろう。また今度一回生産レシピなんかの情報をwikiで集めてみるのもいいかも知れない。
そうこうしているうちに森を抜けると、ついに目的地であるフェリックの街が見えてきた。
フェリックは高い石壁に周囲を囲われており、見た感じは街というよりも砦に近い印象を受ける。
「フェリックは元々この大陸にあった遺跡の上に、昔の調査隊が拠点として作った街なんだよ」
ハルカがそんな風にフェリックについての設定を教えてくれる。
調査をするための拠点ということで、周囲のモンスターから身を守る必要性に迫られてこうした形になったらしい。
街の中も増築を繰り返したことでいびつな構造になっていて、慣れないうちは街中で迷うことも少なくないとのことだった。
「さて、それじゃあフェリックに一番乗りしちゃおうか」
「そうだね」
ハルカの言葉にマコトが同意する。もちろん俺とキリカも同じ思いだった。
そうして街の門まで歩いていく。門の両隣には橋のところにいたのと同じような、重武装をした兵士のような見張りが立っていたが、特に止められるようなことはない。
俺たちはそのままゆっくりと門をくぐってフェリックへと入っていく。
フェリックの街は立体的な構造になっていて、地下道の入口のようなものもあちこちにある。確かにこれは迷いそうな街だ。しかしそんなことよりも、今のこの街にはもっと特徴的なことがある。
「……すげぇ、本当に誰もいないな」
「一番乗りだから当たり前だけどねー」
「でも今までベータテスト時代からこのゲームをやってきて、こんな光景は見たことないわ」
「たぶん今回以外だと見ることは出来ないよね」
ハルカの言う通り俺たちが一番乗りだから当然なのだけれど、フェリックの街には他のプレイヤーの姿はない。
もちろんフェリックの街にもNPCはその辺に何人もいるけれど、彼らは自発的に喋ったりすることはほぼ無いようなので、とにかく静かだった。
一方でリムエストの街の場合だと見渡す限りに人がいて、常に喧噪が渦巻いていた。このゲームで静かな場所というのは記憶にある範囲だとダンジョンや他の誰も狩りをしないような奥地くらいで、少なくとも街の中には存在しなかった。
俺たちはそのまま誰もいないこの街を、あちらこちらへと歩いて散策してみることにする。
それは確実に今しか出来ない、特別な体験に違いなかった。