6 クエスト報酬
ゴブリンの集落に入ると、ゴブリンはたくさんいた。
ハルカの指示でリンクしていない個体に攻撃を仕掛けて、全員の集中攻撃で倒す。
全員がLv.2になったことで、キリカも【ファストスラッシュ】という攻撃アビリティが使えるようになったし、ハルカは状態異常を回復させる【キュア】という魔法が使えるようになったので仮にゴブリンハンターが麻痺攻撃をしてきても対処できるようになっている。
マコトは新しい魔法こそ覚えなかったものの、常時発動型のパッシブアビリティ【集中】を得たことで魔法の詠唱速度や詠唱妨害耐性が向上したと喜んでいた。
そんな状況もあってか、実にあっさりとゴブリンを倒せる。
・ゴブリン族の討伐数 7/10
「一体ずつ狩るのは安全だけど歯ごたえがないねー。まだ攻撃魔法ないからヒーラーは暇だよ」
「ゴブリンランスの性能もあってか、チトセの通常攻撃から二段突きに繋ぐだけでゴブリンファイターが即死してるのが特にね」
「チトセさんもアビリティの使い方に慣れてきたみたいですし、そういうことなら最後は三体リンクに挑んでみますか」
「ああ、そうだな」
「というか本音を言えばいちいち孤立してるゴブリン探すのがめんどい」
それは実にハルカらしい本音だった。
ということで近くにいたファイター、ランサー、ハンターの三体リンクしたゴブリンと戦うことに決める。
俺は足元に落ちていた石を拾って、一番手前にいるゴブリンファイターにそれを投げつけた。
距離は四十メートルくらいで、しっかりと頭部に命中したが、ファイターは倒れずにそのまま俺に向かって走り出す。
どうやら投石の威力に関しては、打たれ弱いメイジは倒せるが、比較的防御力の高い前衛であるファイターには耐えられてしまう程度のようだ。
これは【投擲】のレベルが上がればまた変わるのだろうか。ハルカに訊いてみたが、しかしハルカもよく分からないとのこと。そもそも石を投げて攻撃するプレイヤーがいないから情報がないらしい。
そういうことならこれに関しては自分で調べた方が手っ取り早いかも知れないと思った。
そうこうしているうちにゴブリンたちが近寄ってきたので、俺たちは戦闘に移る。投石を耐えられたとはいえ手負いのファイターをキリカに任せ、俺はランサーと対峙する。
まっすぐ突っ込んでくるランサーに対して、俺は先に槍で攻撃を仕掛ける。相手の防御をかいくぐった槍に良い手ごたえを感じたので、そのままアビリティの【二段突き】を発動して追撃する。
・ゴブリン族の討伐数 8/10
俺が装備しているゴブリンランスの性能もあって、本当にそれだけでゴブリンランサーは倒せてしまう。
見た感じキリカの方は問題なさそうだったので、俺は今フリーになっているハンターに向かって駆けた。ハンターの方もランサーを倒した俺を一番の脅威だと思っているらしく、俺に向かって矢を放つ。
「これは槍で弾けないな」
胸元に向かって飛んでくる矢の軌道を予測して、俺は瞬時に体を横に転がす。そうして矢を避けてしまえば、もう勝負はついていた。
二の矢を放つ前に、ハンターは俺の槍に貫かれて倒れる。
・ゴブリン族の討伐数 9/10
・ゴブリン族の討伐数 10/10
同時に二つの通知が出る。振り返ってみるとキリカとマコトが協力して攻撃し、ファイターを同じタイミングで倒していた。
「よし、これで終わりだな」
「そだね。みんなおつかれー」
「はい、お疲れ様」
「お疲れ様です!」
これで受注していた最初のクエスト「ゴブリン族を十体討伐」は完了した。
みんなで労いの言葉をかけあった後、俺たちは一旦街への帰路につく。
そうして街の冒険者ギルドでクエストの完了報告をしたところで、ハルカが驚きの声を上げた。
「え、ちょっと報酬多すぎない!?」
「確かに多い……というかハルカ、このクエストの推奨Lvが4ってなってるんだけど」
「うそ、あっマジだ……どうりで集落の入口に四体リンクがいたり、ゴブリンハンターが状態異常攻撃してきたりで難易度上がってるわけだ」
「もうハルカ、ちゃんと最初に確認してよ……」
「ごめんごめん。次から気をつけるから」
「よく分からないけど、何にせよクリア出来て良かったな」
「まあ確かにこれだけお金がもらえれば装備一式更新できるし、今後の攻略が一気にはかどるのは間違いないわね」
「それじゃあ一旦パーティー解散するね。それぞれ装備更新したり情報収集したりソロで出来そうなクエストやったりする時間ということで。必要になったら遠慮なくメッセージ飛ばしてパーティー組むいつもの感じでよろしくー」
ハルカはそう言うとこのパーティーを解散した。
「それじゃあハルカ、マコト、チトセ、今日はありがとう」
「チトセさん、今日はとても楽しかったです。また一緒にパーティー組んで冒険しましょうね!」
「ああ、こちらこそありがとう。三人のおかげで初めてのゲームなのに凄く楽しかったよ」
そんな風に挨拶を交わすと、二人とも冒険者ギルドを出て街の中へと消えていった。
「さてと。それじゃあお兄ちゃんは居残りね」
「え、俺何かまずいことやったか?」
「いや全然。むしろ想像以上の大活躍で百点満点」
「じゃあ何で居残り?」
「これからお兄ちゃんには買い物の仕方とか、装備更新するときの優先順位とか注意事項なんかを覚えてもらおうかな、と思ってね」
「ああ、なるほど」
「慣れないゲームで疲れたかも知れないけど、可愛い妹とのショッピングだと思ってもう少しだけ付き合ってね」
そんな風に冗談めかして笑うハルカ。
それにしても、妹とのショッピング、ねぇ。
現実ではそんなこと、一度もしたことないよなぁ。
そう考えると、初めてのショッピングがゲームの中というのは、実にハルカらしいというか。
「お兄ちゃん、ぼーっとしてないで、ほら」
そう言ってハルカは俺に向かって手を差し出す。
それは握れという意味なんだろうか。まあたぶん、そうなのだろう。
俺は一瞬だけ考えて、結局その手を握ることにした。
手に伝わる柔らかい感触は、現実のそれときっと同じだ。
ハルカは俺の手を引いて、ゲームの世界のどこかに向かって歩き出す。
そうして俺はふと思う。
もしかしたらハルカは現実の世界でも、こんな風に俺の手を引いてどこかに一緒に行きたかったのだろうか?
……分からない。
けれどもし仮にそうだったとしたら、ハルカは俺をどこに連れていくつもりだったのだろうか?
もちろんそんなことは考えても仕方のない事に違いないのだけど。
しかしその答えは今後ゲームの世界で、ハルカが俺の手を引いて連れて行ってくれる先に、あるいは存在するのかも知れない。
――なんてことを、俺は何となく思ってみたりしたのだった。