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廃ゲーマーな妹と始めるVRMMO生活  作者: 鈴森一
第一章

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59 分かるもの

 橋を越えた先の森で俺たちはモンスターの集団と遭遇して、そのまま不意を打たれる形で戦闘になった。キリカは前に出て、逆にハルカとマコトは後ろに下がって散開する。俺は中間の位置で前後どちらのフォローにも対応できる位置取りだ。


「くっ……!」


 キリカがモンスターの突進を受けた衝撃に顔をしかめる。減った体力はすぐにハルカがヒールを行って回復するが、直後にまた別の個体が同様に突進を仕掛けてきた。


 モンスターはスパイクビーストという名前で、両肩にある複数の硬い棘が特徴的なゴリラだった。攻撃も肩の棘を生かして体当たりを仕掛けてきたり、腕を乱暴に振り回したりといった力任せな動きがほとんどだった。


 それだけならジェフに比べれば別に大した脅威ではない。ただ問題なのはスパイクビーストが6体リンクで、その全員が一気に俺たちのパーティーに向かって押し寄せて来ていることだった。


 さすがにキリカでも6体の突進全てをカバーすることは出来ない。せいぜい2体が限度だろう。


 となると残りの4体は俺たちの隊列の奥深くにまで浸透してくる。ジェフのように明確にハルカを狙うといった動きではないが、残りの獲物を逃がさないようにスパイクビースト同士で連携してそれぞれが役割分担をしているようだった。


 キリカの方の戦闘状況を見た感じだと、スパイクビーストは攻撃力も耐久力も高いトロールと似たタイプのモンスターらしい。


「まずは確実に数を減らさないと危険だね」

「となると俺の【奇襲】が役に立ちそうだけど」

「でもチトセさんが回り込む余裕はないですね」


 4体のスパイクビーストは正面を向いて俺たちの方にやってきている。俺がそれに回りこんで攻撃すれば確実に1体は倒せるだろうけど、そうすると残りの3体を後ろに通すことになる。


 マコトとハルカは職業的に防御力も素早さも高くないので、さすがにこのレベルの敵に狙われたらひとたまりもないだろう。


 しかしこの状況を打開する方法は、意外と簡単だったりする。


「【ウォークライ】!」


 キリカが【ウォークライ】を発動した。キリカが使う場合はスタン効果はないが、それでも本来の効果である周囲にいる敵の注目を集めることは当然出来る。最初から使っていたらさすがに6体全ての攻撃には耐えられないから、キリカはタイミングを窺っていたようだ。


 【ウォークライ】を発動したことで、一度キリカを無視して俺たちの方に向かってきていたスパイクビースト4体も一斉にキリカの方へと向き直る。


 つまり、俺に対して無防備に背面を晒した形だ。


「【ペネトレイト】!」


 すかさず俺は4体全てを巻き込む形で範囲攻撃のアビリティを使用する。全員に対して【奇襲】の効果が乗ったそれは、スパイクビーストの体力を一気に瀕死状態にまで追いやった。


「さすがに堅いな」


 ペネトレイトは一応通常攻撃よりも威力が高い攻撃だった。それで倒せないということは、通常攻撃でも一撃でスパイクビーストは倒せないということになる。まあ通常攻撃から【二段突き】へと連携すればまだ倒せる範囲には違いないので大きな問題でもないけれど。


 それでもやはり、橋を渡ったこちら側のモンスターは一回りレベルが違う強さであることを実感する。


「【ファイアバースト】!」


 俺が範囲攻撃を行ったのに合わせてマコトも範囲攻撃魔法で攻撃する。それによって瀕死状態のスパイクビースト4体を一気にまとめて倒すことに成功した。


 俺はそのままキリカが戦っている残りの2体に向かって駆ける。キリカがターゲットされていることもあり、死角には簡単に入ることが出来たので、そのまま通常攻撃から【二段突き】の連携で1体を仕留める。


 直後、もう1体にマコトのファイアボールが刺さる。そうして体力が減った状態のスパイクビーストなら【奇襲】が乗った通常攻撃で充分だろう。

 俺はそのまま槍を構え直して、最後の1体であるスパイクビーストに槍を突き出してそれを倒した。


「ふぅ……突然の遭遇戦で驚いたけど、何とかなったわね」

「もし仮にキリカが私たちを守ろうとあわてて【ウォークライ】を発動していたら、ヒールが追いつかずにキリカが倒されて全滅してたかもだけど、まああり得ないよね。キリカだし」

「それにしてもアタッカー二人の手際はよかったわ。特に二人ともが範囲攻撃するって判断をとっさにしたのはファインプレーね」


 キリカはそう言って俺とマコトを褒めてくれる。とはいえ俺はたまたま敵が並んだ状態でキリカの方を向いたから、まとめて【奇襲】を乗せた攻撃で倒せないかなと思っただけで、実際のところ一撃では倒せなかったので狙い通りにはいかなかったのだけど。


 それよりも不思議だったのは、マコトも範囲魔法をあらかじめ詠唱していたことだ。


 マコトの攻撃力も装備が更新されたので上がってはいるが、さすがにデモンズスピアを持つ俺ほど高くはないので、範囲魔法で一掃を狙える威力には程遠いはずだった。


 それなのにマコトが範囲魔法を詠唱していたのは、俺が倒し損ねた場合に備えてのバックアップだろう。


「なあマコト、どうして俺が【ペネトレイト】を使うって分かったんだ?」


 ただそれをマコトが行うためには、あらかじめ俺が【ペネトレイト】を使うことを予想していないと不可能だった。


 俺の【ペネトレイト】はすぐに発動するが、マコトの【ファイアバースト】は数秒の詠唱が必要だから、【ペネトレイト】の発動を見てからではあのタイミングには間に合わない。


 あの時の俺はとっさの判断だったので、そのアビリティを使うと先に言葉で伝えることも出来なかったし。


「何となく、です。チトセさんのことはずっと後ろから見てきたので、少しだけ分かる気がして……」


 マコトはそんな風に、理由になるようなならないような、何とも言えないことを言った。


 俺はこのゲームを始めてまだ4日目だし、そのうちの1日はマコトと別行動をしていた。


 それでもマコトは俺のことを分かるのだと言う。もしかして何か分かりやすい癖のようなものが俺にはすでにあったりするのだろうか。それこそ苦手な変化球を投げるときみたいに。


「分かるものなのか?」

「分かるものなんです」


 さっきは少し曖昧に言っていたはずのマコトが今度はそう言い切ったので、そういうものなのかと俺は少し納得しそうになったが、そこにハルカのツッコミが入る。


「いやお兄ちゃん、分かるわけないからね? 単純に敵が3体以上巻き込めるときは範囲魔法の方がダメージ効率が良いってだけだから、騙されたらダメだよ?」


 ……ああ、そういうことね。


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