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57 ジェフ戦4

「それじゃあ全員キリカの後ろに集合ー」


 瀕死のジェフがこれが最後と言わんばかりの攻撃を構えたところで、ハルカがそんな号令を出した。


 ジェフは足を止めてゆっくりと力を溜めている。見た感じは攻撃するチャンスのようにも思えたが、とりあえずハルカの指示には従っておいた方が良いだろう。


「これってそのまま押し切ったり出来ないのか?」

「今のジェフは無敵状態なんです。ダメージは通りませんしスタンも無効なので、あの攻撃は受ける他ないんですよ」

「なるほど」


 俺の質問にはマコトが丁寧に説明を返してくれた。


「そういうことだから、ちゃんと私の後ろに隠れていてね。私がみんなを守ってあげるから」

「きゃー、キリカかっこいいー」


 そしてそんなジェフの最強の攻撃からパーティーを守るのがキリカの役割ということで、見せ場が来たとばかりにノリノリだった。そんなキリカをハルカが囃し立てる。本当に仲が良いな。


 キリカは左手に持った盾を正面に構え、重心を少し落としながら右足を引く。正面からの衝撃に耐えるための体勢だった。そのうえでここまでの戦闘で温存してきた【ソーンメイル】や【アドバンスガード】などの防御アビリティを全て一気に使用する。


 ハルカも【ガードコート】の魔法をキリカに使い、ジェフの攻撃に耐える準備をしっかりと整えていた。


「なあ、俺たちは何もしなくていいのか?」

「はい。チトセさんと私は防御面では役に立てないので」


 つまり俺とマコトはただキリカがジェフの攻撃に耐えるところを見ていればいいらしい。


 そうこうしている間にジェフが動き出した。闘気を纏いながら目にも止まらぬ速さで俺たちに向かって突進し、そのまま肩からキリカに衝突する。


「……っ!」


 キリカはそんなジェフの重い突進をしっかりと盾で受けて押しとどめていたが、それでも体力の4割ほどを一気に持っていかれる。


 しかしジェフの攻撃がそれだけで終わるはずもない。ジェフの本命はその体の後ろに両手で構えている、闘気を纏ったハンマーでの一撃なのだから。


「うおおおお! 【タフ・イナフ】!」


 そう叫んだジェフがハンマーを振り抜くその一瞬前に、ハルカがキリカに対してヒールを行う。突進でキリカが受けたダメージを、ハルカは早すぎず遅すぎず、ここしかないという絶妙のタイミングで回復した。


 そうしてダメージがほぼ全回復したキリカはジェフの振り抜いたハンマーを食らうが、ぎりぎり3%程度の体力が残って耐えきっている。ハルカのヒールがなければ確実にキリカは倒されていただろう。


 見たところジェフの【タフ・イナフ】にはスタン効果があったようで、キリカは行動出来ないままその場で立ち尽くしていた。


「マコト! お兄ちゃん! ジェフにトドメを刺して!」

「任せて!」

「分かった!」


 マコトはすでにタイミングを予想して魔法を詠唱していたようで、即座に【ファイアボール】の魔法でジェフを攻撃した。


 俺も即座に前に出て、ハンマーを振り抜いた格好のまま隙だらけのジェフに向かって、今俺が使える最大威力のアビリティである【パワースラスト】を発動する。


 その二つの攻撃を食らったジェフの体力はそれで全部無くなり、俺たちはジェフを倒すことに成功したのだった。


 ジェフを倒すと、またイベントが始まる。


 観客席で見ていたスフェンが歩いて場内に入ってくると同時に、ジェフの大きな声が響き渡った。


「ははは、上出来だ! この先を目指す冒険者に一番必要なのはタフであることだ。俺のあの一撃に耐えられたなら何も問題はない」

「というかジェフさん、最後少し本気になってましたよね?」

「いやぁ、ルーキーとは思えない戦いぶりに、久々に熱くなってしまったな!」

「……全く。それで何人の新人が心を折られたと思ってるんですか」

「あの程度で心を折られるくらいならこの先に行く資格はない。死にに行くようなものだ」

「まあそこは否定出来ませんけどね……。何にせよ皆さん、合格おめでとうございます。こちらが通行許可証です」


 そう言ったスフェンに俺たちはそれぞれ通行許可証を渡される。


「ただし西にあるフェリックより先は未開拓地域が広がっています。多くの先人がその先を目指しましたが、現在でもどのような脅威が待ち受けているのか分かっていませんので、くれぐれもご注意を」


 スフェンのその言葉でイベントが終わった。


 そうして俺たちは冒険者ギルドの入口まで移動した。

 強敵に勝ったという高揚感と余韻が残る中、俺はハルカと戦闘を振り返るように話す。


「なあハルカ、最後のジェフの攻撃って何かかなりあっけなく思えたんだけど、あれってそんなにやばい攻撃だったのか?」

「ああ、あれはジェフが充分なタフさを持っている人間を探すための技なんだよね」

「……? 充分なタフさを持っている人間を探す?」

「だから一人目がタフじゃなくて耐えきれなかったら、二人目、三人目と次々に同じ技を連鎖していくんだよ。でも攻撃力自体が凄く高くて、今のレベルだと防御アビリティ山盛りにしたキリカでも二段食らうとまず倒される。そしてキリカが倒される攻撃を私たちが耐えられるはずもない」

「なるほど。つまりキリカが倒されていたら、俺たちはそのまま全滅していたってことだな」

「そういうこと。サヨナラホームランで大逆転負けだね」


 ハルカはそう言って笑った。

 長い時間戦ってようやく勝ちが見えてきたところに、一発で逆転される危険があったというのなら、それは確かにハルカの言う通りだ。


 俺が最後のジェフの攻撃をあっけなく思えたというのは、そうした危険を未然に防いだからなのだろう。未然に防いだというのは、言い換えれば何も起きなかったということなのだから。


 最後の瞬間のために防御アビリティを温存し、突進とハンマー攻撃の両方をしっかり盾でブロッキングしたキリカ。

 ジェフの突進とハンマー攻撃の間にヒールを行ったハルカ。

 そしてジェフが再度動き出す前にしっかりとトドメを刺した俺とマコト。


 たぶん誰の働きが欠けていても駄目だったのだと思う。それぞれが自分の役割を果たしたからこそ、この結果に繋がったに違いない。


 ――そんな風に考えていくうちに、パーティーで戦うということがどういうことなのか、俺にも少しだけ分かった気がした。


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