55 ジェフ戦2
「良いねぇ、良いじゃねぇか! ルーキーでここまで出来るのは久々だ!」
ジェフの体力を30%ほど削ったところで、大きく飛び跳ねて一旦距離を離したジェフがそんなことを言った。
ここまではハルカが逃げ回り、それを追うジェフに対してキリカと俺が攻撃を仕掛けて足止めし、そして完全にフリーなマコトは魔法攻撃に専念して気持ちよさそうにダメージを出していた。
そういえばマコトが最近覚えたらしい魔法の【アイスファング】は当たった敵の移動速度を一定時間低下させるデバフ効果がある。威力こそ【ファイアボール】に劣るようだが、マコトはその辺りを上手く使い分けて補助とダメージを両立させていた。
「ここからまたジェフの動きが変わるから要注意だよ」
「注意って、具体的には?」
「ジェフが私たちみたいに攻撃にアビリティを使用するようになるから、前兆の大きな構えが見えたらすぐに攻撃をやめて距離を取って回避に専念する感じね。だから使用後の隙の大きいアビリティは極力使わない方が賢明よ」
俺の質問には同じ近接職としてジェフの近くで戦っているキリカが答えてくれた。
もしかしたらハルカはヒーラー専門ということで、近接職が具体的にどんなことに注意して動いているかまではそれほど詳しくないのかも知れない。それこそ俺が野球では投手と外野手しか出来なかったのと同じ感じで。
とりあえずキリカのアドバイス通りアビリティはあまり使わないようにしつつ、安全そうなら隙の少ない【二段突き】だけ使うようにしていこう。
そうして戦い方の方針を定めた俺はキリカに追従するように動いて、キリカがジェフと交戦状態になったところで横から文字通り横槍を入れる形で攻撃する。
「ふんっ!」
そうして俺の攻撃が入った瞬間、ジェフがその場で回転するようにして大きなハンマーを振り回し、俺とキリカの両方を巻き込むように攻撃してきた。
前兆もなくあまりにも速い振りの攻撃だったので、俺たちはそれを二人とも食らってしまった。
俺の体力は一気に4割ほど削られた。
ちなみにキリカの体力は2割弱ほど削られている。さすがタンク役だけあって、キリカは俺の倍以上の耐久力があるようだ。
二人の体力状況を確認したハルカは体力の少ない俺からヒールをしてくれた。
「今のは通常攻撃だから被害は少ないけど、アビリティを二人まとめて被弾されると回復が追いつかなくなるから気をつけてね。ちなみにものによってはお兄ちゃんは即死の危険もあるから」
「ああ、了解」
今のは前兆があるというアビリティにばかり気を取られていて、ジェフの通常攻撃のことが頭から抜け落ちていた俺のミスだった。
というか通常攻撃が範囲攻撃のパターンもあるんだな。
それにしてもジェフの通常攻撃は振りも速いし、分かりやすい前兆もない。攻撃しながら攻撃モーションを見てから回避というのは俺の反応速度でも難しい感じだった。
「チトセ、ジェフの通常攻撃は私が一人で受けるから、それを見てからジェフの攻撃後の隙に攻撃してみて」
「分かった」
そういえば元々そういう風に動く予定だった。その動きでは隙を窺うために手数は減ってしまうが、それでも着実にジェフへのダメージは蓄積していく。
一方で俺たちは被弾を最小限にしてけば、ハルカのヒールが追いつくので少なくとも負けることはない
耐久力が高いジェフとの戦いは確実に長丁場となる。となれば瞬間的なダメージのためにリスクを冒すより、負けない戦いをいかに集中して継続していくかが重要に違いない。
実戦という経験の中で、俺にもようやくジェフとの戦いの本質が見えてきた気がする。
そうして次から俺はキリカに攻撃を叩き込むジェフの動きを注視していく。キリカの片手剣での攻撃をジェフがハンマーで弾き、そこに鋭い反撃。キリカは何とかそれを回避した。
ジェフの反撃は最小限の動きで行われていて、明確な隙は生まれていないように見える。
しかし次にジェフ側から攻撃を仕掛ける際、ハンマーが若干大振りになったところで俺は一気にジェフの死角から近づいて槍で攻撃する。
槍にはしっかりとしたクリーンヒットの手ごたえがあった。ジェフもこちらには反応出来ていない。俺はチャンスだと思い、そのままアビリティを連携で発動させる。
「【二段突き】!」
二段突きもしっかりとクリーンヒットの手ごたえがある。デモンズスピアの性能もあって、その一連の攻撃だけで一気にジェフの体力を削ることに成功した。
俺は欲張らずそのまますぐにジェフから距離を離し、またキリカにジェフの攻撃を引き受けてもらう。
キリカも欲張らず、無理に全ての攻撃を回避しようとはせず、確実に盾での防御を活用していく。減った体力もすぐハルカが回復していた。
そうして、次の瞬間――。
「うおおおお!」
巨大なハンマーを構えながら、ジェフが咆哮を上げた。
「キリカ、お兄ちゃん! ジェフからとにかく離れて!」
もちろんハルカの指示を聞くまでもなく、俺とキリカは全力でジェフから離れる方向に走り出している。
「――【グラウンドブレイク】!」
しかしそんな俺たちの動きはお構いなしに、ジェフはその場で高く飛び上がると、ハンマーを地面に叩きつけるようにしてそのアビリティを発動させていた。