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54 ジェフ戦1

「おう。よく来たな、ルーキー」


 冒険者ギルドで待っていたジェフに話しかけるとイベントが始まる。連続クエストの最後を締めくくるのは、冒険者ギルドの幹部を務めるジェフとの戦いだ。


 その実力は折り紙付きで、直前のイベントでも圧倒的なパワーを俺たちに見せつけていた。


「テストは奥の訓練場で行います」


 ジェフの補佐役である少年スフェンは落ち着いた様子で言う。そうして案内されるまま俺たちは冒険者ギルドの建物の奥にある訓練場にやってきた。


 闘技場は半径20mくらいの円形で、外側は観客席に囲われている。


「ジェフさん、ちゃんと手加減してくださいよ。相手は新人なんですから」

「おう、任せておけって」

「本当に大丈夫かなぁ……」


 熱くなりやすい性格のジェフをよく理解しているらしいスフェンは、観客席から俺たちを不安にさせるようなことを言った。たぶん伏線なんだろうな、これ。


「よし、いつでもかかってこい!」


 そうしてジェフがそう言ったことで戦闘が開始される。といっても俺たちから攻撃を仕掛けない限りは動かないようだ。


「さてお兄ちゃん、戦い方なんだけど……お兄ちゃんはいつもどおりダメージを出してくれたらいいかな。ただジェフは攻撃を仕掛けたらそれを武器で弾いてカウンターしてきたり、回避行動を取ってから反撃してきたり、色々な受けのパターンを持ってるからそこには注意が必要だね」

「具体的にはジェフがハンマーを振った後とか、そういう隙をつく形で攻撃を仕掛ければ比較的安全ね」

「なるほど、気を付けてみるよ」


 考えなしに攻撃を仕掛けるとこちらの攻撃後の隙に反撃を貰ってしまうので、そうした無駄なダメージを食らわないようにすることが大事だという。


 ジェフはヒーラーのハルカを狙うなどして、こちらの回復を妨害するような動きもするらしいので、そうしたダメージがかさむと回復が追いつかなくなって戦線が崩壊しかねないという話らしい。


 何にせよ相手の攻撃を食らわないようにしつつ相手にダメージを与えるというのは、今までもずっとやってきたことなので、やること自体はそこまで大きく変わらないはずだ。


「それじゃあ準備はいい?」


 キリカが全員に確認する。振り返ってみるとマコトは【魔法陣】を展開しており、ハルカも【ガードコート】の魔法をすでに全員にかけていて準備万端という感じだった。


 そうして全員が準備出来たことを確認したキリカは、そのまま先陣を切ってジェフへと向かって行く。


「はっ!」


 そうしてキリカが最初の攻撃をジェフに当てると、すぐにジェフが大きな声で言う。


「うむ、思い切りが良いな! なかなか良い攻撃だ!」


 そこにマコトの【ファイアボール】の魔法が追撃として入る。するとまたジェフは大きな声で言った。


「熱い! 燃え滾るような強い意志を感じるぞ!」


 ……何だろう、この感じ。


 一言で言えば、暑苦しい。


 ジェフはNPCなので、こちらの行動に対してそうした反応があらかじめ用意されているだけなのだろうけど、俺たちのことをとにかく褒めようとして、明らかに無理をしているような雰囲気だった。


 その後ジェフがキリカに攻撃を仕掛けようとハンマーを構えたので、俺もすかさずジェフの死角に回り込み、【奇襲】を発動させた【パワースラスト】を叩き込む。


「うむ、構えが良いな!」

「褒め方下手くそか!」


 俺は思わずNPCのジェフにツッコミを入れてしまう。というか俺のときだけ褒め方が雑になってないか?


 とりあえず気を取り直してジェフの体力を確認してみると、まだ合計で10%も削れていない。どうやらジェフはかなりの耐久力を誇っているらしく、間違いなく長丁場の戦いになりそうだった。


 ちなみにキリカはしっかりとジェフの攻撃を盾で受けている。見た感じジェフの攻撃はかなり振りが早く、完全に回避しきるのは難しいようだ。


 そうして何回かキリカが盾でジェフの攻撃を防ぎ、そのダメージをハルカがヒールしていると――。


「なるほど、守りもしっかりしている……となると、戦況を打開するには工夫が必要になるな」


 誰に言うでもなくそう呟いたジェフは、直後に目の前のキリカを無視してターゲットをハルカに切り替えた。


「さっそく来たね。それじゃあ私は全力で逃げるから、みんなはジェフに攻撃して邪魔をよろしくー」


 ハルカはそう言うと魔法の詠唱を中断して、向かってくるジェフと常に距離を取り続けるように動き始めた。キリカはハルカに向かって行こうとするジェフの進路に体で割り込み、攻撃を仕掛けた。


 しかし――。


「邪魔だ!」


 横振りに振りぬかれたハンマーを盾で受けたキリカは、その体勢のまま3mほど横に弾き飛ばされる。そうしてハルカとジェフを阻むものは無くなった。


 それを見た俺は慌ててジェフの前に跳び出し、正面から槍の長さを生かして攻撃を仕掛ける。


「甘い!」


 ジェフはそう言って俺の攻撃をハンマーで横に逸らし、そのまま一歩踏み込んでハンマーを斜め下から振り上げる形で反撃を仕掛けてきた。


 たまらず俺は後ろに下がって回避する。タイミング的にはギリギリだった。というか槍の距離じゃなかったら当たっていたかも知れない。


 しかし何というか、ジェフはとんでもない動きをしてくる。特にそのハンマーの扱い方は明らかに人間離れしていた。


 まるで重さを感じさせないように上下左右、自由自在に振り回してくる。しかしヒットしたらとてつもなく重い一撃であることは、先ほどのキリカを見て入れば分かる。


 それでもこのジェフという化け物じみた人間に狙われたハルカを、俺たちは守り抜かなければならない。


 ――ジェフは今まで戦ってきたどんなモンスターよりも間違いなく強い。


 俺はそう確信すると同時に、何とも言えない高揚感を覚えたりもするのだった。

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