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52 最後の連続クエスト

 ヒュージスライムを倒すとすぐにイベントが始まり、ジェフとスフェン側のヒュージスライム戦を見ることになった。


 金髪で小柄な少年のスフェンが様子見がてら弓を構えて矢を放つが、全く手ごたえはなさそうだった。


「ジェフさん、やはりあのスライムは相当防御が堅いようですね」

「ははは! だったらより強く殴れば済むことだ!」

「いえ、まず僕の矢で防御を崩すので、そこを仕留めてください」

「そういうまどろっこしいのは好かん!」

「好かんって……いえ、いいです。では作戦ジェフで。好きに暴れてください、僕は見ていますので」

「よし! うおおおお!」


 ジェフは手に持った巨大なハンマーを構えると、咆哮を上げながらもの凄い速さで疾走する。


 そして――。


「――【グラウンドブレイク】!」


 飛び上がったジェフは最上段からハンマーを振り下ろし、ヒュージスライムの脳天にそれを叩き込む。大地を揺るがすほどの力が込められたその一撃は、ヒュージスライムのゼリー状の体を大きく波打たせ、次の瞬間ヒュージスライムの体は爆音と共に散り散りになって消滅する。


「……相変わらず無茶苦茶ですね、ジェフさんは」

「うむ、鍛えているからな」

「何でもいいですけど、絶対に教官とかにはならないでくださいね。確実に向いていないので」


 そんな風に呆れた態度を隠そうともしないスフェンの言葉でイベントが終了する。


 冒険者ギルドの幹部であるジェフとその補佐のスフェンの間には明確に上下関係があるはずだが、スフェンのそうした失礼とも取れる態度にもジェフは目くじらを立てることなく豪快に笑って済ませていた。


 ……なるほどなぁ。

 俺は上下関係が厳しい野球部に所属していたけど、仮にジェフのような先輩がいたら後輩には愛されていたような気がした。豪快で器が大きく、確かな実力も兼ね備えている。そして何より熱かった。


 ハルカによるとこのゲームの人気NPCキャラクターらしいが、それも無理がない話だろう。


 その後はジェフたちとの会話になり、今回の馬車が到着しないという一件については俺たちのおかげで原因究明が出来たと労われ、今後の安全対策を考え直さなければならないという方向に話が進んだ。


 ……いや、俺たちは何もしてないけどな?


 状況だけ見れば、ジェフたちが現場にやってきてスライムに襲われていたところに、偶然居合わせただけだ。俺たちが最初に手に入れた馬車の車輪の情報は何の役にも立ってないし、もっと言えばジェフの無茶苦茶な実力だったらヒュージスライムが二体いたところで問題なく倒せていたとしか思えない。


「これ私たちの手柄にしておかないと、ジェフの独断専行がバレてギルド内で問題になるからって理由なんだよ。もちろんジェフの判断じゃなくてスフェンの入れ知恵だけどね」

「ああ、なるほどな」


 俺の怪訝そうな表情を見てか、ハルカが情報を補足してくれた。


 そうしてジェフは今回の俺たちのヒュージスライムとの戦いを評価して、西の街のフェリックへの通行許可証を発行するテストを行うから、都合が良いタイミングで冒険者ギルドを訪ねるように言ってこの場を立ち去っていった。


 これで連続クエストの二つ目のクエストが完了して、またわずかなお金と名声値が貰える。


「さて、これで連続クエスト最後の一つまで来たね」

「つまりジェフの言ってたテストが最後のクエストか。でもテストって何をするんだ?」

「チトセ、脳筋のジェフが細かいテストなんて考えられるわけないでしょ?」

「……つまり、バトルか」

「ふふっ、チトセさんもだんだんこのゲームが分かってきましたね」


 マコトが言うようにゲームが分かってきたかはまだ自信はないが、さすがにジェフの単純な思考くらいは読める。とはいえゲームのキャラクターの考えが読めるというのは、それだけゲーム的なお約束が分かってきたということなのかも知れない。


「しかし今の戦いを見る限りだとジェフに勝てる気は全くしないけど」

「ジェフは手加減してくれますから、ちゃんと戦えば勝てるのでそこは心配いらないですよ」

「ただお兄ちゃんにとっては初めての人間キャラクターとの戦いだからね。モンスター戦とは少し戦い方が変わることを意識してもらわないと、もしかしたら事故が起きるかも」

「戦い方?」

「人間は大多数のモンスターと違って数段賢いのよ。それはたとえ脳筋といわれるジェフであってもね」

「戦いの中で脅威と思う対象の選び方がロジカルというか、とにかく堅いタンク役を無視して柔らかいヒーラーを狙って向かって来たり、それをタンク役が邪魔しようとすればノックバック攻撃で弾き飛ばしたり、色々やってくるんだよね」


 そもそもジェフは戦闘に関しては天才という設定で、本能的に最善手を選べるのだとか。その分戦闘以外の面では脳筋っぷりが炸裂し、色々と物事を引っ掻き回したあげく、しかし何故か最後には全てが丸く収まるらしい。


 ――何というか、色々な意味で美味しいキャラクターだなと思う。


 とりあえず次の戦いについてはある程度理解出来たので、さっそく俺たちはジェフのテストに挑むべく、リムエストの街に向かって平坦な街道を引き返していくのだった。

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