51 ヒュージスライム戦
キリカがヒュージスライムに攻撃を仕掛けてターゲットを引きつけたことを確認してから、マコトが火の魔法で攻撃を仕掛ける。ダメージはヒュージスライムの体力の2%ほどだった。
装備更新をした今のマコトでこの威力というのは、やはりかなりの耐久力があるようだ。というかマコトの魔法でここまでダメージが通らない敵は初めてかも知れない。今までは魔法が弱点だったり火属性が弱点だったりといった敵が多かったのもあるのだろうけど。
そんなことを考えていると、ふとヒュージスライムから分離した小さな欠片が新たな敵として動き始めたことに気付く。
「なあ、なんか敵が増えたんだけど」
「うん、ヒュージスライムはある程度ダメージを与える度にああやって分裂して雑魚が増えるんだよ。お兄ちゃんは気にしなくていいから、本体にダメージ出してきて」
「ああ、分かった」
ハルカにそう言われたので、増えた雑魚は無視して俺もヒュージスライム本体に攻撃を仕掛けるべく一気に近づいていく。
そうしている間に、キリカはしっかりと新たに増えたスライムのターゲットも引き付けていた。見た感じでは地味だけれど、こうした動きをしっかりとこなし続けることがタンク役には求められるのだろう。
ちなみにヒュージスライムたちはそのゼリー状の体を変形させた触腕で鞭打つような攻撃を仕掛けたり、粘液を飛ばす攻撃を仕掛けていた。キリカは鞭打ちは盾で対処しつつ、粘液だけは被弾しないように細心の注意を払って回避している。おそらくあの粘液に毒のような状態異常効果が付いているのだろう。
とりあえず俺はそのままデモンズスピアの【奇襲】を発動させるために、ヒュージスライムの側面に……これ側面だよな?
ヒュージスライムの見た目ではどちらを向いているかよく分からないが、きっとキリカの方を向いているはずなのでその位置を基準に回り込むことにした。
そしてその位置から俺は現状単発で最大の威力を誇るアビリティ【パワースラスト】での攻撃を狙う。
【奇襲】は同じ対象に一度しか発動しないようなので、一撃の重さが重要だった。
そういえばLv.13で覚えていたアビリティの【アタックチャージ】は10秒間自身の攻撃ダメージを30%強化するバフだったので、これもこのタイミングで使ってしまうのが良いだろう。
ということで【アタックチャージ】を使い、準備が完了した俺はそのまま攻撃を仕掛けた。
「【パワースラスト】!」
全長2m以上ある巨大なゼリー状の体を持つヒュージスライムは動きも遅いので、発生が遅いパワースラストでも問題なくヒットする。
するとヒュージスライムの体力は一気に50%弱ほど削れた。マコトたちの攻撃分を含めたらほぼ50%だ。
俺の攻撃がそれだけのダメージを一気に与えたことでハルカたち、特にデモンズスピアの性能を見たことがないマコトとキリカは目に見えて驚いていた。
ただこの想定外の大ダメージが、直後に予期せぬ事態を引き起こしてしまう。もの凄い数の雑魚スライムが一気に発生してしまったのだ。
しかしそんな事態に直面して、一人冷静に味方に指示を出していたのがハルカだった。
「マコトは詠唱中断して範囲魔法に切り替えて! キリカは【ウォークライ】で雑魚のターゲットを集めて! 回復は何とかするから粘液も被弾覚悟のタゲ固定優先で。お兄ちゃんはそのまま本体を狙って」
「うん、わかった」
「了解」
「おう」
不測の事態で一瞬動きが固まった俺たちだったが、ハルカの的確な指示によってそれぞれの行動方針が定まる。
キリカは即座に【ウォークライ】を発動して大量の雑魚の攻撃を引き受けて、それをマコトが【魔法陣】やバフを乗せた全力の範囲魔法で一気に焼き払った。
「おお」
俺は思わずそう感嘆の声を漏らす。それくらい範囲魔法で一気に敵を殲滅するというのは爽快感のある出来事だった。
言葉にするとキリカもマコトも決して難しいプレイをやったわけではない。ただ状況に応じて適切にアビリティを使い対処しただけだ。
しかしそれが当たり前に出来るということが、すでに凄い事なのかも知れない。そしてその凄い事が出来たのは、間違いなくハルカの指示出しによる面が大きかった。
どうやらこのLLOというゲームでは操作などの技術だけでなく、そうした思考面での上手さも求められるようだ。
マコトたちがそうして雑魚を殲滅している間に、俺は【アタックチャージ】の効果時間が残っている間に通常攻撃から【二段突き】への連携を叩き込む。
ダメージはヒュージスライムの体力の10%ほどだった。堅いボス相手にそのダメージは充分といえるが、やはり【奇襲】と【パワースラスト】の合わせ技ほどのインパクトはない。
「何というか、チトセの攻撃力が想像以上ね」
「ハルカから聞いてはいたけど、チトセさんが一日でここまで強くなっていたのはびっくりです」
「あのデモンズスピアっていう槍の性能がぶっ飛んでて、現時点だと間違いなくチート級だからね」
「つまりチトセじゃなくてチートセってことね」
「あはは、お兄ちゃんにピッタリだねそれ」
「いや、俺は真っ当に生きてるからな?」
難所のしのいだことで余裕が生まれたのか、ボス戦の最中でありながらハルカたちはそんな雑談を始めていた。
まあ実際のところヒュージスライムはそこまで多くのパターンを持っているモンスターではなく、増え続ける雑魚と粘液による状態異常攻撃への対処さえ出来てしまえばあとは淡々と戦い続けるだけで倒せるようだった。
増えた雑魚はその都度キリカがターゲットを取り、ある程度数がまとまったら一気にマコトの範囲魔法で殲滅する。その間、俺はひたすら本体に攻撃し続けるだけだ。今回に関して言えばたぶん一番楽な役割だろう。
ハルカも手が空いたタイミングで魔法攻撃を行っていたことや、キリカも装備更新の結果かアビリティでそこそこのダメージを与えていたこともあり、結果として俺たちは想像以上に早くヒュージスライムを倒すことに成功したのだった。




