49 NPC探し
受付の人とジェフについて話したことで、一つ目のクエストが終わった。報酬はお金が少しと名声値。これは正直言ってかなりしょぼい方だが、稼ぐのが目的のクエストではないので仕方がないようだ。効率を重視している人間はおそらく、現時点ではこのクエストを後回しにしているだろう。
すぐさま受付の人から二つ目のクエストが発せられたので、俺たちはそれを受ける。
内容は言うまでもなくジェフを探すことだった。そのためにまずジェフがどこに行ったのか情報を集めるように言われる。
「で、これは街中を駆け回って情報を集める必要があるわけか」
「そうだね。さっきの車輪みたいに足元が光ってるNPCが街中に4人いるから、全員と話したらイベントが進む感じ」
「ベータテストの時は最後の一人が見つからなくて困ったよね」
「ええ、あれは隠れてるとしか思えないからね」
「お兄ちゃんどうする? 自力で探してみる?」
「あー、どうしようか」
ハルカの質問に、俺はどうこたえるか少し考える。ハルカたちはこのクエストを過去に経験しているので答えを知っているので、クエストをクリアするだけなら簡単だった。
それでもハルカたちは俺にゲームの楽しさを教えるべく、こうして色々と気を遣ってくれていたりする。きっと苦労したという体験を共有するというのも、こうしたVRMMOゲームの醍醐味なのだろう。
ただ難解な場所に隠れているNPCを探すのに時間をかけてしまうと、ハルカたちの目指す西の街フェリックへの一番乗りが失敗してしまう可能性もある。
それは俺としても避けたいというか、それ以前に俺としても一番乗りをやってみたい気持ちが強まってきていた。
今はゲームが始まってまだ数日ということもあって、全てのプレイヤーがこのリムエストという街に集中しているのだけど、そのせいでとにかく人混みが凄いことになっていた。
だからか分からないけれど、誰もいない街という光景を一回見てみたいと、そんな風に思うことがあった。
これだけのプレイヤーがいるゲームだから、普通に考えればどう頑張ってもそんな光景は実現出来ないけれど、新しい街に一番乗りをすれば一度だけ、俺たち以外誰もいない街が実現出来る。
少し悩んで、結局俺は10分という時間制限有りで自力でNPCを探すことに決めた。
「10分じゃ、さすがにお兄ちゃんでも見つからないと思うけどねー」
「いえ、きっとチトセさんなら見つけられますよ」
「チトセには見つけて欲しいような見つけて欲しくないような、複雑な気持ちだわ」
三人娘はそれぞれ思い思いのことを口に出していた。
ハルカは無理だと思っているようで、マコトは逆に俺なら見つけられると思っているらしい。キリカに関しては応援したい気持ちはあるが、自分が苦労したことを容易くこなされることには若干の抵抗があるようで、板挟みになっているようだった。
何にせよ探すと決めたからには全力で探してみることにしよう。
まず冒険者ギルド内の目立つ場所に一人目のNPCがいた。そのNPCによると、ジェフは待っているのは性に合わないと言って俺たちに依頼を出したすぐ後に飛び出していったらしい。
というか自分で動けるんだったら、そもそも依頼を出す必要はなかったんじゃないかと思いながら、俺は次のNPCを探しに行く。
とりあえずどこに行くにしても絶対に通るであろう噴水前の広場で二人目のNPCを見つける。ジェフは西に向かって行ったという。
そうして西に向かっていくと、西門のところで門番をしているNPCが三人目だった。ジェフは門から出ていったという話だ。
「……もうジェフは街の外に出ていったと判明したわけだけど、NPCは全員街の中にいるんだよな?」
「そうだよ」
ハルカからはそれ以上のヒントは無し。まあ自分で探すと決めたのだから当然だけど。
ここまでの話の流れとしては、冒険者ギルドにいた人が出ていったジェフを目撃し、噴水前の広場にいた人が西に向かったことを目撃、そして西門の門番が街から出たのを目撃したことになる。すでに情報は出そろっている気がした。
そこにもう一人の目撃者がいるとして、その人は一体どんな情報を提供してくれるのだろうか……いや、見つけにくいからってもう一人が特別な情報提供者とは限らないのか。
というかこのクエストの流れを見ると、対象のNPCたちはジェフの居場所というより、次のNPCの居場所をほのめかしているに過ぎない気がした。そうして四人を順番に探して話を聞くように指示されているのだ。
だとすれば冒険者ギルドにいた人は一人目だろう。そう考えるなら西門にいた人は四人目と考える方が自然だ。だとすると噴水前にいた人は二人目か三人目か。
話の繋がりとしては、三人目と考えた方が正しい気がする。広場から西に向かったなら、行きつく先は確実に西門だろう。
そう考えると一人目の「ギルドから出ていった」という情報だけでは、厳密に言えば噴水前の広場にはたどり着けない。この間にもう一人NPCがいる方が自然ではないだろうか?
俺はそう考えて一旦広場まで引き返し、そこから冒険者ギルドの間を重点的に探すことにした。
しかし――。
「――いないな」
「お兄ちゃん、あと3分だよ」
ハルカが楽しそうに時間を告げてくる。くそ、絶対見つけてやるからな。
とはいえ俺の考え方自体は間違えていないと思う。冒険者ギルドを飛び出したからって、絶対に噴水前の広場を通るとは限らない。反対方向から裏路地を通ってどこかに行く可能性がある以上、それを否定して噴水前のNPCの場所にプレイヤーを誘導する二人目がいるはずなのだ。
ただそうだとするなら、理屈の上では冒険者ギルドの扉が見える場所にそのNPCはいなければならない。しかし冒険者ギルドの前の道には対象となるNPCは見当たらなかった。
ここで手詰まりかと、そう思って俺は空を仰ぎ見ると、ふと目に入ったものがあった。
「冒険者ギルドの、バルコニー……?」
あそこからなら間違いなく冒険者ギルドの前の道は一望出来る。だとすればギルドを飛び出したジェフがどっちに向かったのかも、きっと分かるだろう。
俺はすぐさま冒険者ギルドの中に駆け込み、階段を上がって二階のバルコニーに出る。
――そこに、足元が光っているNPCがいた。
話しかけてみると、やはり想像したとおり、ジェフは噴水前の広場の方に向かって行ったという話だった。
「……お兄ちゃんはどうしてこれに気付けるんだろうね」
「ハルカと違って几帳面な人だからじゃないかな」
「それを言っちゃうと私たち全員、チトセより大雑把ってことになるけどね」
「むー、お兄ちゃんのせいで私の女の子としての自信が失われてしまったよ」
「え、ハルカって自信あったのか?」
「酷い!」
おどけた調子でハルカが言ったので、俺もからかうように返したら、ハルカは大げさにショックを受けた振りをする。そんな俺たちの普段通りのやり取りを見てマコトとキリカは笑っていた。
とりあえず四人のNPCと会話したことでクエスト内容が更新され、次は街の外に出ていったジェフを探すことになるようだ。
「ちなみにこのあとは戦闘があるから、お兄ちゃんももしアイテムとか切らしてたら今のうちに補給しておいてね」
「おーけー、でもアイテムは大丈夫そうだ」
俺は手持ちのアイテムを確認しながら、ハルカに返事をする。
それを聞いたハルカは「それじゃあすぐ出発しようか」と言って、俺たちを先導するように歩き出すのだった。