48 脳筋のジェフ
俺たちは4人でパーティーを組み、冒険者ギルドで連続クエストの始まりである一つ目のクエストを受注する。
このクエストは冒険者ギルドの幹部からの依頼で、この街(リムエストという名前だと今知った)と西にあるフェリックという街の間で荷物などを運んでいた馬車が、予定日になっても到着しなかったことについて調査してほしいという内容だ。
「何でもいい。手がかりになりそうなものを持って帰ってきてくれ」
依頼者のジェフがそう言ったところで話は終わってクエストが開始された。ちなみにジェフは筋骨隆々な角刈りの大男で、冒険者ギルドの幹部を務めるだけあって、その実力は折り紙付きだと別のNPCが語っていた。
「とりあえず依頼内容が大雑把すぎるな」
「ジェフは脳筋キャラだからねー。でもああ見えてジェフはプレイヤーからの人気は高いんだよ」
「無能ではないんだけど、かなりパワープレーが目立つキャラクターよね。そこが面白くて人気なのだけど」
「ジェフのやることは何故か最後には上手くいくんですよ。まあそれは大抵プレイヤーのおかげなんですけどね」
「なるほど……何となくジェフの立ち位置は分かった気がする」
つまりジェフはプレイヤーに活躍の場を与えてくれるタイプのキャラクターなようだ。
まだこの大陸に来たばかりのプレイヤーに、最近活躍しているらしいからとこうした依頼を回すあたりも、良く言えば前向きなチャレンジ精神に溢れていた。
若干暴走気味な面はあるが、とりあえず悪いキャラクターではなさそうだ。
「じゃあさっそくだけど、西に手がかりを探しに行こうか」
「いいけど、でもこれだけの情報でそんな簡単に見つかるのか?」
「クエストを受けてる場合は目的の場所とかは分かりやすく光ってるから、近くに行けば分かるよ」
どうやらそのあたりはゲームとして親切に作られているらしい。というかそうじゃないとさすがにあのジェフの大雑把な依頼だけではどうしようもないか。
俺たちはリムエストの街の西門から出て、真っすぐに街道を進んでいく。ちなみに俺は西門から出るのは初めてだ。
街周辺のモンスターは他の門から出た場合と大差なかったが、ある程度行くとコカトリスという蛇のしっぽを持つ雄鶏のモンスターや、人型の犬のようなコボルトというモンスターなどと遭遇した。
ちなみにコボルトはゴブリンやリザード同様、いくつかの種類がいてそれぞれが別の武器を持っている。
ただ今の俺たちからしたらかなり格下のモンスターで、相手にしても特に得るものがないので、どうしても避けられないとき以外は戦わないように極力無視をしながら、西にまっすぐ進んでいく。
とはいえ戦闘になっても一瞬で終わるので、それほどタイムロスがあるわけではなかったけど。
「お、何か地面が光ってるな」
「あそこにクエスト進行に必要な何かがあるってことだよ」
ハルカがそう言ったのを聞きながら俺はそこに近づいていく。
すると、そこにはボロボロになった車輪が一つだけ落ちていた。
「車輪……馬車のか? だとしたら馬車本体や乗っていた人の持ち物が近くにないのはおかしいけど」
「うん、そうだよね。こんな何もない場所に車輪が一つだけ落ちているのは明らかにおかしい」
「何かが起きたのは間違いなさそうだけど、それ以上のことは現状分かりそうにないから、とりあえず今はその情報をジェフに届けにいくのが先決ね」
ハルカとキリカがそんな風に言う。
ハルカたちは全員ベータテスト時代にこのクエストのシナリオを経験しているので、この一連のクエストのシナリオを俺にネタバレしないように配慮しながら話を進めてくれているようだ。
一応クエストボードも見てみると、今回の行動によってクエストの内容がちゃんと更新されていて、次の目的がジェフへの報告になっている。
一つだけ残されたボロボロな車輪に、消えた馬車。乗組員も荷物も、ここには何も残ってはいなかった。
そんな風にどこか不穏な空気を漂わせながら、この連続クエストのシナリオは少しずつシリアスな方向に向かっていくようだった。
俺たちは街に戻ると、そのまままっすぐに冒険者ギルドを目指す。そして受付の人にジェフの所在を訊いてみるが、何故かジェフは不在だった。
何でもジェフは自分でも今回の件について独自に調査を始めたらしい。
「……なあ、これってもしかして」
「あ、さすがお兄ちゃん、気付いた?」
「ああ。ジェフにいつまで経っても会えなくて振り回されるパターンだろ?」
「正解」
一見するとシリアスそうなクエストのシナリオだったが、そこに脳筋で考え無しに動き回るジェフが絡んできたことで、一体どんな話になるのか想像が出来なくなった。
まあ何にせよ、こうなった以上俺たちはジェフを追いかけるしかないのだけれど。