47 名声値
「ところでお兄ちゃんの名声値って今いくつ?」
「名声値……って何だ?」
「えっと、クエストボードの右上に書いてある数字です」
「ああ、これか。10って書いてあるな」
「あら、ちょうど足りてるわね。チトセは自分で何かクエストこなしたりした?」
「えっと、確かおばあさんのクエストで毒薬を2つ納品するやつをやったかな」
「最初のゴブリンと、毒薬のクエストじゃ名声値は5だから、となるとあと5は『打ち捨てられた墓所』の一層初踏破だね」
西の街への通行許可証を得るためのクエストを受けるには名声値が10必要らしい。名声値はクエストを達成したりダンジョンの各層を踏破したりといった、何かしらの活躍をすることで得られるという。
俺はあまりクエストをこなしていなかったので足りているか少し不安だったが、運よくぎりぎり足りていた。
これも毒薬をくれてクエストのことを教えてくれたシャルさんと、俺をダンジョンに誘ってくれたヒヨリのおかげだろう。
「まあ名声値が足りてなくても納品系のクエスト用素材は結構確保してるから問題なかったんだけどねー。というかついでだしお兄ちゃんも納品クエスト今のうちに終わらせておこうか」
そう言ったハルカから取引を申し込まれ、色々なアイテムを渡される。
「納品系クエストは指定されたアイテムなら他人から貰おうが買おうが入手方法は自由だから、おつかい系のクエストの中では一番楽なんだよ」
「ということは他のおつかい系のクエストは面倒なのか?」
「ものによるけどね。たとえばそこにいる若い女性NPCのクエストは恋人に手紙を届けて欲しいとしか言われないんだけど、最終的に街の反対側に住んでる恋人との間を5往復させられるんだよね」
「なるほど、それは確かに面倒くさそうだな」
少なくとも特別何か必要な報酬が得られるというのでなければ、あまり積極的に受けたいタイプのクエストではない。
とはいえこのゲームは膨大な数のクエストが用意されていて、どのクエストをこなすかは基本的にプレイヤーの自由だった。だから受けたくないクエスト依頼は受けなければいいという考えが成り立つ。
なんてことを考えていたら、そのクエストについてマコトが口を開いた。
「でもそのクエストは結構いい話なんですよ」
「そうなのか?」
「えー、私は二人とも同じ街に住んでるんだから、手紙じゃなくて最初から面と向かって話しておけば良かったのにって感想しか浮かばなかったけどなぁ」
「自分の気持ちを面と向かっては伝えられない繊細な乙女心は、やっぱりハルカには分からないんだよ」
「あ、言ったね?」
マコトに乙女心が分からないと言われたハルカは、怒った振りをしながらマコトの頬を両手で引っ張ったりしてじゃれ合っていた。本当に仲良いな、この二人。昔と変わらないというか、いつまでも子供っぽいというか。
「キリカ、この二人っていつもこんな感じなのか?」
「そうね。まあ私もハルカの女子力の低さとかマコトのロマンチストな面をからかったりしてるから完全に同類だけど」
「へぇ、そうなのか。俺はてっきり、キリカは頼りになるお姉さんキャラなんだとばかり思ってたけど」
「私が? まさか。むしろあの二人は年齢に見合わず大人びてるからね、私からしたら完全に同年代の友達感覚よ。確かに学年で4つ離れてるから単純に年上という立場でアドバイスをすることもあるけど、逆に私があの二人から学ばされることだってたくさんあるし。だから出来ることなら私は、今後もずっとあの二人との関係は継続していきたいと思っているの……ってごめん、そんな話じゃなかったわね」
「いや、貴重な話が聞けたから俺としてはラッキーだったよ。というかキリカが年上というのも実は初めて知ったし。まあ何となくそうだろうとは思ってたんだけど」
「あれ、言ってなかった……わね。そう、私は先月で20歳になった大学生二年生で、みんなより少しだけ年上なの。でもハルカからも聞いてなかったんだ?」
「ハルカとはこの三日間ほぼゲームの話しかしてないんだよな」
「あはは、でも確かにその方がハルカらしいわね」
キリカは笑いながらそう言った。
とりあえずハルカはいい友達に恵まれたことは間違いないようだ。
その後俺たちは一緒に街を一通り回って、納品クエストを7つほどこなす。
それで俺の名声値は25になっていた。今回の目的には元々の10あれば名声値は足りていたので別に必要はなかったが、後々のことを考えると暇なときにでも名声値は高めておいた方がいいらしい。
今後も名声値が高くないと受注できないクエストや発生しないイベントはいくつも出てくるとのことなので、名声値はとりあえず上げておいて損はないものという扱いなのだろう。
「さてと、一通り納品クエストも終わったし、それじゃあさっそく西の街への通行許可証を貰うためのクエストを開始しよっか!」
そう言ったハルカはそのクエストの開始地点である冒険者ギルドに向かって、俺たちを先導するように歩き出すのだった。




