45 三人娘会談その3
「いつの間にか寝る前恒例になっちゃったよね、このチャット」
「そうだね。そういえば、今日ってもうキリカは戻ってこないんだっけ?」
「友達に呼び出されてオール、ってキリカちゃんは言ってたから戻ってこないと思う。一応後でログは見るって言ってたけど」
「キリカ友達多そうだもんねー。私は友達がマコトだけなおかげでゲームに専念出来るから良かったよ」
「え? ハルカって友達多い方だよね?」
「え? 私のリアルの友達はマコトだけだよ」
「じゃあ学校でよく話してる橋本さんとか里崎さんとか田村さんは?」
「ただの知り合いだけど」
「いつもあんなに仲良さそうに話してるのに?」
「そりゃクラスメイトと円滑なコミュニケーションくらい取るよね。猫被ってるんだから」
「……あまり他人には聞かせられない話だね」
「まあそんなことより、あの後お兄ちゃんと合流してちょっと話を聞いてみたら私たちがレベルを追い越された理由も分かったんだけど、色々ヤバい」
「チトセさんがヤバいって言われてもだんだん驚きが無くなってきたけど、ハルカがそこまで言うのは珍しいよね。チトセさんのこと一番理解してるのに」
「いやーそのつもりだったから、大抵のことは驚きはしても『まあお兄ちゃんだし』で片付けてたんだけどさ。……お兄ちゃんやっぱり雷魔法の回避が安定するようになったらしいんだよね」
「あー……昨日そんな話してたけど、一日で現実になっちゃったんだ」
「それがしかも一体だけじゃなくて、グラップラーの近接攻撃を避けながらメイジ四体から狙われても避けられるとか言ってた」
「……? ごめん、ハルカが何を言っているのかよく分からなかった」
「だよね。雷魔法って弾速がずば抜けて速いから、見てからの回避は無理っていうのが通説だし」
「人間の反応速度の限界超えてるもんね。だから発動前の予兆を見てガードだけ出来れば充分って話だし」
「それなんだけど、たぶんお兄ちゃんは雷魔法の予兆を見て、狙いが確定してから魔法が発動するまでの一瞬の間に、先に回避行動を取ってるんだと思うんだよね」
「じゃあその狙いの確定と発動のタイミングをチトセさんは掴んだってこと?」
「何か野球でも昔、ピッチャーの手からボールが離れる前にモーションを見て投げる球を予想するとか言ってたから、たぶんそうだと思う」
「……チトセさんって反射神経とかも凄いけど、本当に凄いのはそういう観察眼だよね」
「間違いないね。……それでちょっと聞いて欲しいんだけど、お兄ちゃん女の人に誘われて『打ち捨てられた墓所』に二人で行ったらしいよ」
「え、何その逆ナンパでお化け屋敷デート」
「あはは、絶対言うと思った。まあ聞いてみた感じかなりガチ周回したみたいだから、デートって感じではなさそうだったけどね。あと何かフロアボスが雑魚ラッシュから変わったみたいで、超強い槍をドロップするようになったらしいよ。で、今のお兄ちゃんはそれを装備していると」
「そういえばそこのボスの話は掲示板でちょっと見たかも。でもなんか即死して攻略はしばらく諦めるって話ばかりだったような……?」
「つまり普通の人なら即死するレベルのボスを、お兄ちゃんは安定して周回してたってことだよね。あとお兄ちゃんを誘った人もそれについていけてるってことは、かなりの実力者っぽい」
「実力のある攻略組って大抵クランとかに所属しててこの時期はほぼパーティー単位で活動してると思ってたけど、そういう人もいるんだね」
「珍しいよね。そういえば名前は聞きそびれちゃったんだけど、お兄ちゃんのフレンドだったら近いうちに一緒にプレイすることもありそうだから、それはちょっと楽しみだったり」
「そうだね、私もどんな人か色々な意味で気になるかな。……でもその周回だけじゃチトセさんもあそこまでレベル上げるのは無理だよね? 結局私たちがチトセさんにレベルを追い抜かれた理由って何だったの?」
「その周回で手に入れたデモンズスピアっていう槍の性能と付いてたウエポンスキルが強すぎて、お兄ちゃん北の山のトロールを一撃で狩れるようになったんだって」
「トロールが一撃って……というかチトセさん、狩る対象がよりによってトロールなんだね。でも確かに狩るのに時間がかかり過ぎるから経験値効率最悪とは言われるけど、経験値量自体は多いから一撃で狩れるなら効率は逆にいいのかな、レベル差ボーナスもあるし」
「私たちだとトロールは不味いっていう先入観があるから、良い武器が手に入っても選択肢に入ってこないよね」
「そうかも。先入観のない初心者のチトセさんだからこそって感じだね」