41 トロール狩り
「せいっ!」
槍を脳天に突き刺されたトロールは、その一撃で体力を全て失った。しかしそれを見た他のトロールからは仲間を倒されたことに関する感情らしいものを感じない。
あくまでもターゲット範囲にいる敵の俺を倒そうという、最初から見せているシンプルな敵意だけで俺に対して向かってきているようだ。
感情に波がなく、調子にムラがない。それはメンタル的には理想的な状況かも知れない。
まあゲームのモンスターに対してメンタルなんて言葉を使うのもきっとおかしいのだけれど。
ただ一つ確実に言えるのは、トロールは動きが安定していて常に一定の脅威をこちらに与えてくるが、一方で一度完成させたこちらの攻略法は俺が集中してそれを実践している限りにおいて通用し続けるということだ。
俺は倒したトロールが崩れ落ちる前に、その体の上から再度跳ぶ。ターゲットは最も近いトロール。倒したトロールを踏み台にしたことで高度を稼ぎ、そのまま次のトロールの頭上の死角に入った。
他のトロールは5メートル近い高さにいる俺に対して有効な攻撃手段を持っていないようで、ただじっと俺が地面に着地するのを待ち構えていた。これだけ敵に周囲を囲まれた状態で着地すれば即座にミンチになるだろうけど、しかし俺が地面に着地することはない。
ぐさりと、トロールの頭を槍が貫通する。俺は岩のようにゴツゴツと肥大化したトロールの肩に立ったままその槍を抜き、すぐにまた次のトロールに狙いを定めて跳んだ。
こうしてトロールの頭上から頭上を飛び移るようにしてデモンズスピアでの【奇襲】を狙うというのが、俺なりに考えた一人で複数のトロールと安全に戦う方法だった。
・レベルアップ Lv.10 → Lv.11
「ふぅ……10体リンクも何とかなったな」
見える範囲にいたトロールの中で最大の集団だった10体リンクも問題なく倒しきった俺はレベルアップしたことを確認しながら一息つく。
ちなみにこの戦い方のヒントになったのはキリカのタンクとしての動きだった。このゲームの敵同士は同士討ちでダメージを受けることはないが、それでもお互いの体は当然ながら通り抜けたり出来ない。そうした仕様だからこそ、キリカは敵一体を壁にすることで二体目を迂回させることで攻撃されるタイミングをずらしていた。
そんなモンスター同士の体が通り抜けられない仕様もあって、巨体のトロール同士が密集してしまうとお互いが邪魔で棍棒が振れなくなるため、トロールたちはお互いに一定の距離を置いていた。
するとトロールの腕のリーチを持ってしても、比較的短い武器の棍棒では隣のトロールの頭上には攻撃が届かなくなる。
身長2メートル以上のトロールを足場にして、【跳躍】でさらに高く跳んでいる俺に唯一届くとすれば真下にいるトロールの棍棒だが、そこが死角だからか単純に真上に攻撃できる手段が用意されていないからか、さすがに理由までは分からないけど何にせよ反撃を受けることはなかった。
とりあえず10体リンクでさえこの方法で倒せるということが分かったので、あとはひたすら狩り続けるだけだ。
そうして俺は黙々とトロールの頭上を跳び続け、一体一体を確実に倒していく。最初の一体だけは少しタイミングを計る必要はあるが、それ以降は流れ作業のように効率よく倒していける。
それにしてもさすがにLv.20の敵だけあって、得られる経験値の効率が凄く良い。このまま30体も狩ればLv.12になってハルカたちに追いつけそうな勢いだった。
跳んで刺す。また跳んで、刺す。
俺はそれをひたすらリズミカルに繰り返していく。
・レベルアップ Lv.11 → Lv.12
とりあえず目標だったハルカたちのレベルまでは追いついた。
一応フレンドリストを確認してみるがハルカたちはLv.12のままだった。というかキリカはログアウトしているし、ハルカとマコトもずっと街にいるようだ。もしかしたら街で何か装備を製作しているのだろうか?
……まあいいや。とりあえず今は目の前のことに集中しよう。
これからも俺は午前中はログイン出来ないし、そこのプレイ時間の差でハルカたちとレベル差を離されないように、今のような余裕があるうちに稼げるだけ稼いでおいた方がいいだろう。
そう考えた俺は、無限に湧き続けるトロールたちを淡々と狩り続ける。
そうしていくうちに、倒せば倒しただけ増えていく経験値や素材の数を見るのが、少しずつ楽しくなってきた。行動の成果がすぐにこうして数字で表されるのは、現実にはないゲームならではの感覚で、不思議ともっと頑張ろうという気になっていく。
それは何というか、今やっていることにはちゃんと価値があるんだと、そう言われているような感じがした。
まあゲームに興味がない人からしたらきっとそんな数字だって無価値でしかないのだろうけど。それは現実世界で140km/hを超えるボールを投げられたからって、野球以外では大して役に立たないのと同じで、野球に興味がない人からしたらどうでもいいことだった。
――でも、それでいい。
自分がそこに価値を見出せるなら、それ以上はきっと何も望む必要なんてないのだから。