38 今後の方針
「いやぁ、二層は一気に難易度上がってたっすね」
「確かにあれはしばらく無理そうだな。前か後ろか、どちらかに全員の攻撃を集中して突破するにしても、現状だと全然威力不足だし」
「雑魚であれなら、フロアボスはもう異次元っぽいっすよね。4人攻略でもLv.20以上は必要かも」
死んだことで街に戻された俺とヒヨリは、しばらくそんな風に『打ち捨てられた墓所』の二層について雑談していた。
ちなみにこのゲームは基本的に4人パーティーを基準とした難易度でゲームが作られているらしい。
一応システム上パーティー自体は8人まで組めるが、5人目以降は人数が増えるたびに経験値やアイテムドロップに大きなマイナス補正がかかるため、効率を考える場合はあまり5人以上でパーティーを組むことはないという。
ちなみに3人以下の場合も小さなプラス補正はかかるが、人数が減って敵の殲滅速度が落ちることを考えると、結果的に効率は落ちることの方が多いのだとか。
「さて、それじゃあ今日のところはそろそろ解散しますか」
「ああ、そうだな」
ずっとダンジョンに潜っていたせいであまり時間の感覚はなかったが、現実の時間ではちょうど夕飯時だった。デスペナもかかっているし、このタイミングで一旦ログアウトするのもいいだろう。
「チトセさんのおかげで思いがけず楽しい時間が過ごせたっす。本当にありがとうございました」
「それはこちらこそだな。まだ装備出来ないけどデモンズスピアも手に入ったし、そして何より大切な友達も出来たことだし」
「うっ……それ本当に恥ずかしいので、あまりからかわないで欲しいっす……」
「ははは、悪い悪い。ヒヨリが良い反応してくれるから、つい」
友達が欲しいというヒヨリの願いはどこまでも青臭くて、照れ臭くて。だからきっとそれを口に出すのは凄く勇気が必要だったのだと思う。
そしてヒヨリが勇気を出してその思いを伝えてくれたからこそ、今こうして俺はヒヨリと友達になれたのだ。
……ヒヨリには感謝しないといけないよな、本当に。
まあ恥ずかしいから俺がそれを口に出すことはおそらくないのだけど。
「それじゃあ、お疲れ様でしたっす」
「ああ、お疲れ様」
そう言ってヒヨリはパーティーを解散するとそのままログアウトしていった。たぶん夕飯を食べに行ったのだろう。
そうして一人になったので、とりあえず俺はみんなの状況を確認するためにフレンドリストを開いてみる。するとどうやらヒヨリ以外はみんなログインしているようだった。
ハルカたちも範囲狩りを終えて今は街に戻ってきている。そして三人娘はみんなLv.12まで育っていた。俺はまだLv.9なので、ずいぶんと差をつけられてしまった形だ。まあそれは覚悟の上で別行動を選んだのだから仕方ないのだけど。
ちなみにギョクはLv.6で、昼とほとんど変わっていない。
そしてシャルさんはLv.14。圧倒的すぎる。
このゲームはLv.10まではかなりすんなりとレベルが上がるけど、それ以降は一気に上がりづらくなる仕様らしい。そう考えるとハルカたちのLv.12というのはかなり頑張った結果なのだろう。
ハルカたちと大きなレベル差がついて足を引っ張るような状況は避けたいが、ログイン出来る時間自体も差があるので、このままだとレベル差は広がっていく一方だろう。
うーん、どうにかしてレベル差を縮められないだろうか。
こういうときにものを言うのがゲームの知識なのだが、残念ながら初心者の俺にはそれがない。
夕飯ついでにwikiでも読んでみるか。まあたぶんそこに書いてあることはハルカたちだったらとっくに知っていることだろうし、読んだからってハルカたちより効率よくレベルを上げられるようになるとは全く思わないけれども。
何にせよ今の俺はあまりにも知らないことが多すぎる。経験値を稼ぐことを目的にするとして、次はどこのどんなモンスターを狩るべきなのかさえ分からないのだから。
まあそれだって素直にハルカたちに訊いてしまえばいいのだけど、せっかくなので自分で調べてみるとしよう。
そんな風にこのあとの予定を決めた俺は、まずログアウトして飯を食べることにする。この時間だと練習が終わっている部活動もあるだろうし、食堂が混雑し始める頃だった。
そうしてたどり着いた食堂は案の定混雑していた。あまり長居していられる状況でもなかったし長居するつもりも最初からなかったので、注文した食事をさっさと平らげる。
部屋に帰ると、前回同様に俺はネットでLLOのwikiページを開いた。
相変わらずの情報量だが、今回は経験値や狩りについての情報に絞って基本的な知識を仕入れていくことにする。
そこの記述によると、このゲームは自分よりレベルの低いモンスターを倒してもほとんど経験値が得られないらしい。
一方で自分よりレベルの高いモンスターを倒すと経験値にボーナスが入り、これはレベル差が大きいほど大きくなる。
つまり自分より圧倒的にレベルの高い敵を倒せば、一気に経験値を得ることが可能とのことだった。ただ実際はそうしたレベルの高い敵は一体倒すのに時間がかかってしまいがちで、結果的に適性レベルの敵を大量に倒した方が時間当たりの得られる経験値量は多くなることも多いのだとか。
「となるとやっぱりハルカたちのやってた範囲狩りというのが一番効率が良いのか」
ただこのゲームは前にハルカからも言われたように、装備によるステータスの影響が大きく、レベルによって得られるステータス量はそこまで大きくない。
なので適正レベル以上の装備品を複数所持している場合はその限りではないようで、大きくレベルの離れたモンスターをさくさく狩っていった方が多くの経験値を得られるとも書いてある。
それはつまりマジックレザー装備を持っている俺の今の状況を指していた。そしてあとレベルが1上がればデモンズスピアだって装備出来る。もしかしなくても大きくレベルの離れたモンスターをさくさくと狩ることは充分に可能に違いなかった。
「ただこの感じを見るに、このゲームだとレベルはあまり重要じゃない感じなんだな」
装備による影響が大きいので、レベル自体は新しいアビリティを覚えたり、最低装備レベルのある装備のために上げるものという側面が強いようだ。
つまりレベルを無理に上げなくてもハルカたちの足を引っ張る可能性はそんなにないのかも知れない。今日ハルカが範囲狩りに俺を無理に誘うことをしなかったのも、きっとそうした理由なのだろう。
ただまあ、だからってキャラクターのレベルが低いままというのは何だか格好が悪い気もするし、せっかくなのでレベル上げをやってみることにしよう。
一通り装備が整ったこともあって、俺は今後の方針をそう定める。
そうしてwikiでレベルの高いモンスターがどこに生息しているのかを調べてから、俺は再度LLOの世界にログインしたのだった。




