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34 デーモンエグゼクター戦3

 回避先で待ち構えていたデーモンエグゼクターの攻撃は回避不可能だった。俺は無駄かも知れないと思いつつも、諦め悪く腕でその攻撃をガードする。


 デーモンエグゼクターの攻撃がヒットすると強烈な衝撃と痺れを腕に感じ、同時に視界が真っ赤に染まる。


 やられた――。


 ――かと思ったが、体力が1%程度だけ残った状態でギリギリ生きていた。

 これは運が良かったとしか言いようがない。


 しかしマジックレザー装備に更新した状態の近接職の俺が、正面からの攻撃をガードしてこのダメージというのは、やはりとんでもない攻撃力だった。これが死角からの攻撃だったら確実に殺されていただろう。


「チトセさん、ポーションを!」

「いや、もう使うだけ無駄だ」


 俺はそう判断して返事をした。というのもこのゲームはポーションを一度使うと一定時間再使用が不可能になる。一応は薬物は連続服用しても効果が無いという設定らしいが、実際のところはポーションがぶ飲みによるパワープレイでの攻略を抑制することで、ゲームバランスとヒーラーの役割を守るというゲーム的な理由があるそうだ。


 まあ何にせよ瀕死状態の今の俺が体力を全回復するためにはポーションを三回使う必要があったが、ポーションを三回使い終える頃には勝つにせよ負けるにせよ、デーモンエグゼクターとの戦いは間違いなく終わっている。


 そしてポーションを一回使って多少体力を回復したところで、何か食らったら即死するという状況は変わらない。だったら体力が1%の状態で戦い続けても同じことだった。


 いや、むしろこのままの方が俺にとっては都合が良いまである。


 俺は自分の体がさっきまでよりも軽くなったように感じた。

 これは間違いなくスキル【逆境Lv.1】の効果が発動しているからだった。


「……何にせよ、もうミスは許されないな」

「そうっすね。でもここまで来たからには二人で倒してみたいっす」

「ああ、俺も同感だ」


 確かにデーモンエグゼクターは強敵だが、決して二人で倒せない敵ではない。というかどうせデーモンエグゼクターの攻撃に耐えられないのであれば、結局それらは全部避ける必要があるということで、それは言い換えればプレイヤースキルさえあれば低レベルでも攻略が可能なボスに違いないのだ。


 その後、生き残った俺に対して二体のデーモンエグゼクターが槍で攻撃を仕掛けてくる。俺はさっきと同じ要領で1対1を二回に分ける形を作り上げ、今回はさらにそれぞれに対してしっかりと反撃を入れていく。


 その動きはさっきまではギリギリ出来ないものだったが、今なら【逆境】でステータス全般が強化されているおかげでギリギリ出来るようになっていた。


「うわ。チトセさん、ほんとギリギリの動きしてるっすね」


 ヒヨリが俺の動きを見て、若干引いたような雰囲気で感嘆の声を上げるが、そのまま俺は二体のデーモンエグゼクターの波状攻撃を捌き、反撃を入れ、同時にヒヨリも攻撃を仕掛ける。


 俺は【逆境】で攻撃力も少し上がっているので、一気にデーモンエグゼクターの体力は削られていった。


 そしてまたデーモンエグゼクター二体が同時に姿を消す。

 残りの体力量的に、おそらくはこれを含めてあと二回だけこの行動が行われるはずだ。


 それさえ回避しきれば、俺たちの勝ち。どちらかを食らってしまえば、俺たちの負けだ。


 俺たちは集中してデーモンエグゼクターの出現位置を探る。


「チトセさん、上っす!」

「ヒヨリ、後ろだ!」


 俺たちはそれぞれが狙われていることを伝え、二人ともがしっかりと回避行動を取る。

 このパターンは最初の頃の対応と動き自体は変わらないので今さら失敗する要素もない。言ってしまえば当たりパターンだった。


 そしてヒヨリは自分を狙ったデーモンエグゼクターから即座に距離を取り、俺がターゲットを引き受けやすいように誘導する。


 やはりこうした細かいところの気遣いがヒヨリは凄く上手い。徹底的に脇役に徹しているとでもいうべきか。何にせよハルカたちとはまた違った意味で一緒に戦いやすいタイプの人だった。


 また俺は同じように回避と反撃を交互に繰り返してデーモンエグゼクターの体力を削っていく。

 そうしてついにデーモンエグゼクターの体力が二体とも残り2%を切ったところで再度姿を消した。


 おそらくこれが最後の奇襲攻撃だろう。

 ここさえしっかりと対処出来れば――。


 そう思いながら、俺たちは集中する。どこからデーモンエグゼクターが現れるのか。発見の遅れは、すなわち死だ。ここまで来てそれだけは何としても避けたい。


「横だ、ヒヨリ!」

「後ろじゃないんすか!」


 ここに来て初めてのパターンが飛び出し、若干反応が遅れてしまったヒヨリは慌ててバックステップでギリギリ槍を避ける。


 ――ダメだ!


 俺がそう思った通りに、二体目のデーモンエグゼクターはヒヨリの背後に出現した。


 そうして槍を構えたデーモンエグゼクターが攻撃を仕掛ける瞬間。


「【ウォークライ】!」


 俺はとっさにアビリティの【ウォークライ】を発動する。その気迫のこもった【大声】の雄叫びによって、デーモンエグゼクターは短時間のスタンを受けた。


 そうして無事に着地したヒヨリは、横に転がるようにして距離を取り、起き上がり様に片膝立ちで弓を構える。それと同時に俺もヒヨリが狙ったのとは別のデーモンエグゼクターに駆け寄った。


 そして――。


「【三連射】!」

「【二段突き】!」


 俺たちはそれぞれの対象にアビリティ攻撃を叩き込み、ついに二体のデーモンエグゼクターを同時に倒すことに成功した。


「……何とかやれたか」

「いやぁ、まさか本当に二人で倒せるとは……というかチトセさん、まさか今話題の【大声】まで取ってたんすね」

「ああ、どのスキルがいいのか知らなかったから適当に取ったのが、結果的に当たりだったらしい」

「なるほど、それなら確かにはぐれゴーレムが倒せたのも納得っす。……まあ今回の戦闘は最後で自分が死んでも、チトセさんが生きていれば二体同時撃破は可能だったと思うので、自分が狙われた時点で勝ちが確定していたんすけどね」

「まあそうだけどな。でもせっかくなら二人とも生きてる方が格好いいだろ?」

「確かにそうっすね」


 ヒヨリはそう笑いながら同意した。


 確かにゲーム的にはパーティーメンバーに被害が出ても、こちらが全滅するまえに敵を倒しさえすれば勝ちには違いなかった。

 だがこちらも被害を出さない形での、完全な勝利の方がより良いのは間違いないだろう。


 それにたとえゲームでも、やっぱり目の前で女の子が殺されるのを見るのは極力避けたかったというのもある。さすがにVRのリアルさでそんな状況を目の当たりにはしたいとは思わないし。


「さて、それじゃあさっそく宝箱開けてみるっすよ」


 ヒヨリはそう言うと、いつの間にかこの部屋の中央に出現していた宝箱に向かって近づいていくのだった。


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