33 デーモンエグゼクター戦2
その後もデーモンエグゼクターとの戦いを続けていくが、戦闘が続いていくにつれてデーモンエグゼクターが姿を消して俺たちの死角から奇襲を仕掛ける頻度が増えていった。
回数が増えれば当然ながら事故が起きる確率は上がる。
しかし問題はそれだけではなく、デーモンエグゼクターが姿を消している間は俺たちが攻撃をすることも出来ない。
この緊張状態はいつまで続くのだろうか。早く倒して楽になりたい。そんな気持ちがないと言えば嘘になる。
だから攻撃が出来ず思うようにダメージを与えられない現状に、少しずつ苛立ちが募っていった。
デーモンエグゼクターの通常攻撃を回避して、反撃。そこに追加で【二段突き】を叩きこもうとするが、デーモンエグゼクターはちょうどそのタイミングで姿を消してしまい、【二段突き】は空を切る。
「ちっ……」
苛立ちからミスが出始める。これは良くない流れだった。冷静になってしっかりと修正しないと、やがて大きな失敗につながってしまうだろう。
失敗したものは仕方ない。反省も後悔も今すぐは必要ない。大切なのは次に何をするかだ。俺はそう考えを切り替えながら、頭の芯の部分を冷やしていく。
そうして姿を消したデーモンエグゼクターの出現位置をヒヨリと二人でしっかりと探る。
狙われたのは俺だった。
真上から降ってくるデーモンエグゼクターをバックステップで回避し、相手の着地の瞬間に槍で攻撃した。攻撃できる時間が減っている以上、こうした反撃のチャンスは確実に掴んでいく必要がある。
同時にヒヨリもしっかりと通常攻撃と【ヘヴィアロー】を叩き込み、デバフの効果時間を更新していた。そう言った細かい仕事を着々とこなしていくあたり、ヒヨリもかなり場数を踏んでいるプレイヤーなのだろう。高い実力を持っていることはもはや疑う余地もない。
そうしてデーモンエグゼクターにしっかりとダメージを与えていき、その体力が50%を切ったところで異変が起きる。
デーモンエグゼクターが二体に分身したのだ。
「そんなのありかよ!?」
「体力が減ると動きが変わるボスは多いっすけど、よりによってこのパターンっすか……」
二体に増えたデーモンエグゼクターは、それぞれ残り体力は25%ずつで残りの体力量は変わっていないようだったが、それでも攻撃頻度は倍に増えるので事故が起きる確率は一気に上がる。
「これ攻撃力も半減してたりはしないのかな」
「いやぁ、さすがにそれは無いと思うっすよ」
「まあやっぱりそうだよな」
即死の脅威がなくなった雑魚が二体になったのだとしたら、単に難易度が下がっただけでプレイヤーが得をするだけだ。ゲーム的にプレイヤーを助けたいのでもなければ、わざわざそんなことをする理由はないだろう。
まあ何にせよ俺たちはもうこのまま戦うしかない。
とりあえず二体とものターゲットを俺が引き付けて、ヒヨリにはフリーな状態で攻撃をしてもらう。どちらを狙うかはヒヨリの判断任せだ。
俺はというと、長い槍を持ったデーモンエグゼクターの二体に挟まれる形で攻撃されるとさすがに回避し続けるのは困難だと思ったので、キリカがやっていたのと同じように位置取りを工夫して1対1を二回に分ける形で回避を行う。
波状攻撃を受ける形にはなるが、槍の直線的な攻撃を正面から交互に放たれるだけなら回避するのはそう難しくない。
ただ反撃を入れる余裕はほとんどなくなってしまったので、攻撃はほぼヒヨリ頼りになってしまうが、それはもう仕方ないと割り切ることにした。
とにかくどちらか一体を集中的に狙って体力を削り、片方だけでも倒してくれれば一気に楽になるので、それまでの辛抱だ。
と、そう思っていたのだが。
「ヒヨリ、何で二体を均等に削っているんだ?」
「いや、これたぶん同時に倒さないといけないタイプのボスなんっすよ。ベータテスト時代にもこういうタイプのボスっていたんすけど、片方だけ倒すともう片方が急激に強くなって手が付けられなくなって全滅したりとかもあったんで」
「あー、そういうパターンもあるのか」
それはゲーム初心者の俺にはなかなか気付けない可能性だった。
ヒヨリはどうやらベータテスト時代にかなりの数のボスと戦闘をこなしてきたようで、その経験から攻略のための最適解を導き出していた。
となると、やはりこのまま俺は回避に専念し続けてタイミングを待つしかないようだ。
そしてある程度ヒヨリがダメージを与えた頃、ようやくそのタイミングがやってくる。
二体のデーモンエグゼクターが同時に黒い霧を発して姿を消した。
さて、二体になったデーモンエグゼクターはどんなパターンで攻撃を仕掛けてくる?
狙いは俺か、ヒヨリか、それとも両方か。
両方だったら動き自体はさっきまでの対処と同じでいいが、一人に二体のデーモンエグゼクターが襲い掛かってきたとしたら、果たしてしっかりと回避しきることは出来るだろうか?
そしてそんな俺の不安は、見事に的中してしまう。
「チトセさん! 後ろ!」
その声を聞いて俺は左に跳んで避ける。
しかしそうして回避した先に、もう一体のデーモンエグゼクターが少し遅れて姿を現した。
「やばっ――」
俺は思わず声を上げる。すでに回避は不可能な状況だ。
そうして俺の目の前に現れたデーモンエグゼクターは槍を構えると、それをまっすぐに突き刺した――。