29 魅力的な提案
いきなり女の子に何者かと尋ねられたが、別に俺は何者でもない。ただのプレイヤーの一人だ。
「何者って言われても、ただ普通のプレイヤーとしか答えようがないけど」
「まあそうっすよね、こっちの訊き方が悪かったっす……というかよく見たらマジックレザー装備! え、現時点でそんなの手に入るんすか?」
「えっと、北の方ではぐれゴーレムを倒して魔法石、ここでリザードを狩ってリザードの皮、南の森のビッグプラントを倒してプラントのつる、で材料は全部手に入るよ」
質問されたので素材の入手場所を答えてみる。まあマジックレザー装備を知っているくらいだからたぶんそれは知っているだろうけど。
「いやぁ、場所は分かってても普通は倒せないっすよ? まだサービス開始から丸二日も経ってないのに。普通のライトプレイヤーならまだLv.4になってゴブリン討伐が終わるかどうかって時期っすから」
普通は倒せないというのははぐれゴーレムとビッグプラントの両方について言っているのだろう。そしてその認識はおそらく正しい。
ハルカによると俺たちより効率的なプレイをしていてキャラクターレベルが高いプレイヤーは数多く存在するらしい。そしてハルカたちは確かに腕の良いプレイヤーだったが、同じくらいの実力を持つプレイヤーというのも決して少なくないという。
ただそうしたプレイヤーでも現時点でその二体を倒すことは困難を極めるのだとハルカは言っていた。
まずはぐれゴーレムを倒すにはスタン効果のあるアビリティがほぼ必須だが、現時点のキャラクターレベルではどの職業もスタン効果のあるアビリティを習得できない。
そしてビッグプラントは、はぐれゴーレムを倒すことで手に入る魔法石から作れる魔法使い用の武器であるウィザードスタッフによって得られる高い攻撃力があったから何とか倒せた感じだ。
「それでお兄さん……えっと、呼び方はチトセさんでいいっすかね?」
「それでいいよ。じゃあ俺もヒヨリさんかな?」
「あー自分はヒヨリさんってタイプじゃないんで、ヒヨリでお願いするっす」
「わかった、ヒヨリ」
そんな風にお互いに表示を見て知った名前の呼び方を決定する。
「それでチトセさんって今これから暇だったりします?」
「ああ、暇だけど」
「良かったら一緒にこの先のダンジョンいきません? チトセさんの運が良かったら今より強い槍がドロップするかも知れないんで、メリットはあると思うんすけど」
確かに今より強い槍というのはメリットとして魅力的な提案だった。
ただそれ以前にまず一つ。
「ダンジョンって?」
「え、知らないんすか?」
「ああ。俺実はゲーム初心者なんだよ」
そんなに装備整ってるのに? というような驚きの目でヒヨリに見られる。
「だから知らない事だらけで迷惑かけるかも知れないんだけど、そんな俺で大丈夫か?」
「でもその装備やさっきの動きを見る限り、戦闘は得意なんすよね?」
「まあ戦闘に限れば、ある程度は出来ると思う」
「じゃあ大丈夫っす。知識面は自分がフォローするんで」
そんな感じで話がまとまり、パーティー申請が飛んできたので承諾する。
「あ、もし良かったらフレンドもお願いしたいっす」
と言いながら俺の返事を待たずにヒヨリからフレンド申請も飛んでくる。
まあ断る理由も特に見当たらないのでこれも承諾。ヒヨリがフレンドリストに追加された。
「それでドロップアイテムの分配どうします? 一応Lv.7で私の方がレベルは上っすけど、装備的にはチトセさんの方が数段強いので、戦闘の貢献度に大差がつくはずなんで」
「槍がドロップしたときだけ譲ってくれれば他は平等でいいよ。あとマジックレザー装備以下の防具がドロップしたらヒヨリに譲る感じで、アクセとかの場合は普通にダイス勝負で」
ハルカたちに移動中の雑談で教えてもらったパーティーを組む時の基礎知識を駆使して、俺はヒヨリの問いかけに答えを返す。
「え、いいんすか?」
「うん」
自分としては現状あまりガツガツしてゲームをプレイするつもりもないし、しばらくはまったりと適当に楽しんでいくつもりだ。
一応そう俺のスタンスを説明したら、ヒヨリは「ガチの攻略勢かと思って声をかけたんすけど、意外な大物が釣れたみたいっすね」と言って笑っていた。
「さて、それじゃあさっそくダンジョンに行きましょうか!」
「いや、だからそもそもダンジョンって何って話をしてたんだけど」
「ああ、そうでしたそうでした。いや、忘れてたわけじゃないっすよ?」
そうしてまず俺は、明らかに説明を忘れていた風のヒヨリからダンジョンについてのレクチャーを受けることになった。