28 練習
何となく思いついたままに歩いて俺がたどり着いたのは、昨日ハルカたちと狩りをしたリザードの住処だった。まだこの辺りで狩りをしようというプレイヤーはいないようで、周囲には誰もいない。
ちなみにリザードはLv.6くらいのモンスターで、実はまだ格上だったりする。
あのときはLv.3で狩りをしていたけど、あれはマコトの武器による攻撃力や、パーティーメンバーの実力があって初めて可能になることだった。
まあ今の俺はLv.5まで育っているし、防具をマジックレザー装備に更新もしたので、攻撃力もあのときのマコト以上になっている。
今ならおそらくは一人でリザードの四体リンクに挑んでも充分に戦えるだろう。
ということでさっそく一人で戦いを挑んでみることにする。
リザードレイダー、リザードグラップラー、リザードシャーマン、リザードメイジという基本構成の四体リンク。
敵の補足範囲に入ると、レイダーとグラップラーがまっすぐに駆け寄ってきた。シャーマンとメイジはその場で魔法の詠唱を開始している。
せっかくなので、少しキリカがやっていたことを練習してみよう。まず殴りかかってきたグラップラーの攻撃を左に避ける。直後にレイダーの斧が振りぬかれたので、それもさらに左側に回りこむように避けた。
これで俺とグラップラーの間にレイダーがいる形になる。こうするとレイダーが邪魔になって、グラップラーは俺に攻撃しようとする場合にワンテンポ遅れることになる。
キリカはこの状況を作りながら、間にいるレイダーに攻撃しつつ、被弾を最小限にとどめて敵の攻撃を捌いていた。
「理屈はたぶんこういう感じだよな」
こうすれば確かに1対2ではなく実質的に1対1を二回に分けた形で対処することが出来るので挟撃されて攻撃をクリーンヒットされる危険性は下がる。
ただ波状攻撃を受ける形にはなるので、必ずしもこの状況が良いという話でもなさそうだ。
「その辺りは状況判断、ってことだな」
俺はレイダーとグラップラーの攻撃を交互に回避しながら、そんなことを思う。
何となく感覚は掴めたが、これ以上は実際にタンク役をやってみないことには判断基準は分からないだろう。ということで、もうこの二体には用事が無くなってしまった。
そうだ、せっかくなので覚えたアビリティを使ってみよう。
「【ペネトレイト】!」
位置関係を調整してレイダーとグラップラーが直線に並んだところで俺は【ペネトレイト】を放つ。
一瞬の溜めがあり、直後にまっすぐ槍が突き出される。すると槍の先端から青白い闘気が発生し、それが敵を二体とも貫いた。
そうして貫かれたレイダーとグラップラーの二体は、そのままHPを全て失って倒れる。
ああ、今の攻撃力ならリザードを一撃で倒せるのか。
そんなことを俺が思った瞬間に、メイジが放った雷魔法が俺に直撃する。
「っ!」
少し痺れた感覚を受けるが、直撃した割にダメージはほとんどない。魔法防御力が高いマジックレザー装備のおかげだろうか。
「なるほど。【ペネトレイト】は打った後の隙が大きいとは聞いていたけど、思っていた以上に動けない時間が長いな」
便利ではあるがリスクも相応にあり、使い方に注意が必要なアビリティだった。
そう確認した俺はとりあえずメイジを無視してシャーマンに駆け寄る。シャーマンはヒーラー役ということで攻撃手段が乏しいのか、特に攻撃されることなく俺は槍を振って一撃でシャーマンを倒した。
そうして俺は残るメイジと対峙して魔法の発動を待つ。せっかくなので雷魔法の回避の練習をしようと思ったのだ。
メイジが詠唱を終えて、魔法が発動する。杖から発生した雷魔法は俺を狙って直線上に飛んできた。
俺はそれを横に跳んで避けようとするが、少し遅かったようで肩に被弾してしまう。
「……おーけー、大体タイミングは分かった」
そうして俺はその後も同じことをしばらく続けていき、ほどなくして十回連続でメイジの雷魔法を回避することに成功した。
とりあえず回避に専念していれば毎回避けられるくらいの感じにはなっただろう。
よし、それなら次の段階に進むとしよう。
俺はそのメイジを倒さずに、そのまま別のリザードのリンクに石を投げて攻撃をしかけ、そこでもメイジだけを残していく。そうして生き残ったメイジ4体を一か所に集めて、4体を相手にまた同じように回避の練習を開始した。
さすがに一気に見るべき対象が増えたことで最初は結構被弾してしまったが、次第に俺の目も慣れてきたようで、何とか雷魔法を四十発連続で回避することが出来た。
「だいぶいい感じになってきたな。じゃあ最後に実戦形式でやってみるか」
そう考えた俺はまた別のリザードのリンクを見つける。さすがにメイジ四体から狙われている状況では石を狙って投げる余裕はなかったので駆け寄って攻撃をしかけ、今度はグラップラーだけを残す。
そうして俺は手数の多いグラップラーの殴り攻撃を回避しながら、四体のメイジから放たれる雷魔法も避けるという実戦を想定した形での練習を行うことにした。
「ああ、やっぱりこれはきついな……」
想像はしていたが、常にグラップラー相手に動き回りながら、メイジ四体をそれぞれ確認して魔法を避けるというのは、ただ魔法の回避に専念しているときとはやはり難易度が段違いだった。
これは上手く出来るようになるまでかなり時間がかかったが、それでも回復ポーションを飲みながら二時間くらいぶっ続けでやった結果、何とかグラップラーの攻撃を避けながら雷魔法を回避できるようになった。
そういえばこれをやっている間に気付いたけど、メイジはグラップラーが俺との射線上にいてもお構いなしに魔法を撃ってくる。どうやらこのゲームに同士討ちという概念はないらしい。
なのでメイジの魔法はグラップラーに当たらず、貫通する形で俺に到達する。そうなるとグラップラーが邪魔で魔法の発動が見えなくて、それがとにかく厄介で苦戦したのだった。
とりあえずそんな形で俺は目的だった戦闘の練習を終える。
一応格上のリザードを何体も倒したこともあって、俺は気付かないうちにLv.6に上がっていたようだ。
今日はまだまだ時間がある。さて、次は何をしようか――。
と、そんな風に考えていると不意に後ろから声を掛けられた。
「いやぁ、凄いっすねー。雷魔法を避けるだけでも相当なのに、それを四体分とか人間技じゃないっすよ。お兄さん、一体何者っすか?」
軽い感じの口調に振り返ってみると、そこには明るい水色の髪をした女の子が立っていた。