26 三人娘会談その2
「そういえばハルカ、夏休みの課題って終わった?」
「あーうん、今日の昼でなんとかね。本当ならLLOの正式サービス開始前に終わらせるつもりだったんだけど」
「うちの高校進学校だからか、異様に課題多かったもんね」
「そういえば二人は今年から高校生だっけ。確かに中学時代と比べると忙しくなるよね」
「本当にね。みんな好き好んで進学校に入るくらいなんだから、課題なんてなくても自主的に勉強すると私は思うんだけど」
「自主的に勉強しない筆頭のハルカがそれを言っても説得力がないよ」
「あはは。そんでキリカは大学の試験が今日で終わりだっけ?」
「そうね。明日からはLLO三昧……といってもさすがにバイトとかはあるけど」
「じゃあさっそく明日は朝から三人で狩りでもしようか」
「ああ、チトセは午前中はログインできないって言ってたっけ」
「うん。お兄ちゃん午前中は毎日五時間くらい勉強するからこれからもログインは昼以降しか無理だってさ」
「さすがチトセさん、相変わらず自分に厳しいね」
「あら、マコトはチトセのそういうところに惚れたの?」
「だから惚れてないって! 憧れてるだけ!」
「まあマコトが惚れてるかは別としても、お兄ちゃんの魅力の一つではあるよね。昔からあのストイックさは変わらないし」
「へぇ……私はチトセが怪我で野球が出来なくなったってことくらいしか聞いてないんだけど、そもそもチトセってどんな人なの?」
「ん、キリカもお兄ちゃんに惚れた?」
「違うわよ。ただ今日のプレイを見ていてもまだ初心者なのに判断に迷いがないし、私たちが長い経験を元にやってることをもの凄い速度で吸収してるように見えるから。今まで見たことないタイプのプレイヤーだし気になったのよ」
「チトセさんは、一言で言うならヒーローかな」
「ヒーロー?」
「うん。誰か助けてって、そう願ったら、いつも助けてくれる人」
「マコトはロマンチックに言ってるけど、野球の試合で負けてるときとかにヒット打つ人ってだけだからね」
「ああ、【逆境】ね」
「お兄ちゃん自身は、自分が打たれたんだから自分で取り返しただけだ、ってよく言ってたよ」
「確かに野球だとそうだけど、チトセさんはそれだけじゃなくて……」
「ん? お兄ちゃんとマコトの間に、私が知らないエピソードがあったりする系?」
「そうだよ。ハルカには教えないけど」
「……まあ、大体想像つくからいいけどね」
「んー、マコトにとってのチトセの立ち位置はよく分かったけど、チトセ本人のことはまだ謎ね。そうだ、妹のハルカはチトセをどんな風に思ってるの?」
「どんな風……うーん、とりあえずぱっと思いつくのは凝り性、かな」
「凝り性?」
「お兄ちゃんは昔から、一つのことを徹底的に極めようとするんだよね。たとえば100回に1回だけ成功することがあるとして、普通の人だったら大抵まぐれとか運で済ませるよね?」
「そうね」
「でもお兄ちゃんは1回でも成功するなら、それは100回連続で成功できるはずだって考えるんだよ。そうして実際にやっていくと100回連続はさすがに無理でも、そのうち10回に1回とかは出来るようになってて、それが2回、3回と少しずつ増えていく。普通の人なら99回の失敗に嫌気がさすところを、お兄ちゃんは1回の成功に目を向けて小さいことをコツコツと積み上げていける。それで気付いたときにはもう手の届かないところに行っちゃってたりしてさ」
「ハルカ、もしかしてそれって……」
「ん? ああ、少し恨み節っぽく聞こえちゃったかな。別にそういうつもりはないんだけどね」
「え、それってどういう意味?」
「別に大したことじゃないよ。お兄ちゃんが野球のために家を出て行って、私が寂しがってるくらいにキリカは思ってくれればいいし。まあ何にせよお兄ちゃんはそういう人間だから、ゲームをやると決めたからには、私たちの想像を超えることなんてこれからいくつも出てくると思うよ」
「というかすでに驚かされてばかりだけどね。今日だって【シードショット】を毎回楽しそうに打ち返してたけど、あんなの普通の人には無理だから」
「一応お兄ちゃんは【シードショット】の場合、毎回絶対に同じ速度で同じコースに飛んでくるから、現実の野球と違って余裕だって言ってたけど」
「チトセさんの余裕は参考にならないから」
「同感だわ」
「まあお兄ちゃんはそういう人間だからさ、そのうち雷魔法とかも普通に避けたりするかも知れないね」
「えー、それはさすがにチトセさんでも無理なんじゃ……」
「でもさっき初被弾の感想を訊いたら、頑張れば避けられそうって言ってたよ?」
「……それはさすがにちょっと引くわね」