24 革細工師ギョク
市場の一角には生産街と呼ばれる場所がある。といっても公式の名称ではなく、あくまでもプレイヤーがそう呼んでいるだけらしいが。
ベータテスト時代から生産職のプレイヤーたちが自然とそこに集まり、他のプレイヤーからの生産依頼を受ける場所としていつしか広く浸透したという背景があるという。
「現在地は街の中になっているから、たぶんいると思うんだけど……あ、いた」
「ん? おーキリカちゃーん! 今日忙しいって言ってたけど、順調にレベル上がってるんじゃないか?」
「そうね。というかいつも言ってるけどちゃん付けは止めて。あとレベルはギョクがサボりすぎなだけよ。何でまだLv.2なの?」
キリカは生産街でギョクという革細工師を見つけると、さっそく親しげに会話を始めた。
ギョクと呼ばれた男性はひょろっとした感じの長身で、黒髪のツーブロックという髪型をしている。
喋り方は軟派というよりもひょうきんなお調子者という雰囲気で、ぱっと見ただけでも男女問わず人気がありそうな人物だった。
「いやーちょっと色んなプレイヤーと交流してたら楽しくなっちゃって。あ、でもそのおかげでもうすぐ友達100人出来るんだって。凄くない?」
「それは確かに凄いけどね。……ギョクに相談したいことがあったけど、でもLv2じゃまだダメそうね」
「んー何? というか後ろの人たちはキリカのパーティーメンバー? 良かったら紹介してよ」
「ああそうね。まずこっちの濃紺の髪の治癒術士がハルカ」
「ハルカです、よろしくー」
「よろしくー、というかハルカって名前なら知ってるよ。ベータテスト時代だけど掲示板見てたら上手いヒーラーランクみたいなので五本の指に入るプレイヤーってよく名前上がってたし」
「あはは、私自身はそんな凄いものでもないんだけどね」
そんな風に笑って謙遜するハルカ。
やはりハルカの実力はゲーム内でも屈指のようで、掲示板でも名前が挙がる程度には有名だったらしい。
「あ、フレンド申請していい?」
「キリカの友達なら大丈夫だよ」
そうして流れるようにフレンドになるギョクとハルカ。
「次に、そっちの緑髪の魔法使いがマコト……って何でチトセの影に隠れてるの?」
「私、人見知りなので!」
「そんな自己主張する人見知りいないわよ」
「んー、マコトって名前はさっき聞いたな……そうだ、木工師のレンちゃんがウィザードスタッフ作ったって言ってた子だ」
「え、レンちゃんと知り合いなんですか!?」
「ベータテスト時代からのフレンドだよ。あの子は喋り方とか、面白いロールしてるよね」
「そうなんです、かわいいですよね」
マコトとギョクは共通の知り合いの話題で盛り上がっていた。
「ロールって?」
「ロールプレイの略で、この場合はなりきりと言った方が分かりやすいかな。たとえば私たちだとゲームのキャラクターは現実のプレイヤーの分身だけど、ロールをしている人の場合はそうじゃなくて、自分で設定を作ったキャラクターになりきってゲームをプレイしているんだよ」
俺の質問にハルカが答えてくれる。
なるほど、ゲームの世界にはそういう文化もあるのか。
そうして俺がハルカからもう少し詳しくロールプレイについて説明を受けている間に、マコトとギョクもフレンドになっていた。
何というか人の懐に入るのが上手い人だ。警戒心を解く術を心得ているというか。
「それで最後になったけど、そっちの明るい茶髪の槍術士がチトセ。チトセはゲーム自体ほとんど経験がない完全な初心者なの」
「へぇ、それはまた珍しい……チトセちゃんね。俺は革細工師をしてるギョク、よろしくー」
「チトセです、よろしく……というか何でちゃん付け?」
「いやー親しみを込めてみたんだけど、ダメかね?」
「まあ、別に構わないけど」
「チトセ、嫌ならはっきりそう言っていいからね?」
キリカがそんな風に言ってくれるが、まあ悪意があるわけでもなさそうなので、ギョクの呼びたいように呼んでもらうことにした。
というかたぶん冗談だろうし。
「俺のこともギョクちゃんでも何でも好きに呼んでくれていいから」
「じゃあギョクちゃん」
「ははは! ノリがいいのは良い事だよな。見た感じアタッカーみたいだし、材料さえあれば皮装備の防具を作ったり出来るから、今後機会があれば気軽に声をかけてくれ。あ、フレンドいい?」
「ああ」
そうして俺とギョクもフレンドになった。ちなみにギョクは「チトセがちょうど100人目のフレンドだ」と喜んでいた。
「実は今日は生産の話でチトセをギョクに紹介しようと思っていたの」
「なるほどね。でも俺のレベルが足りなさそうな生産レシピだと」
「マジックレザー系なんだけど」
「ああ、そりゃ確かにきついなぁ。今の状態だと大して成功率が上がらないし、せめてLv.4……いやLv.5はないと……チトセは今すぐ必要な感じかな?」
「いや、今日はもうログアウトするつもりだけど」
夕食後からパーティーでリザード狩りをしたりビッグプラントを倒したりして、もう夜も結構いい時間になっていた。
「だったら明日の昼以降にまたここに来てくれ。それならたぶん問題なく作れるから」
「ああ、分かった」
どうやら明日の昼までにレベル上げをするようだ。そんなにすぐにレベルが上がるものなのかとも思ったが、よく考えたらシャルさんは一瞬で俺のレベルを追い越していたし、同じ生産職のギョクならやり方次第ではそこまで難しくないのかも知れない。
とりあえず昼以降だったら俺が明日ログインするときには間に合っているので、明日のプレイは最初から装備を更新した状態で挑めるだろう。
「というかウィザードスタッフの話といい、キリカのパーティーはだいぶ順調みたいだね」
「そうね、みんな腕がいいから」
「それは初心者のチトセも?」
「もちろん。というか純粋なプレイヤースキルならたぶん一番よ。知識がつけばすぐに化けるわね」
「へぇ、キリカがそこまで褒めるって珍しいなぁ――」
その後もそんな風にしばらくギョクと会話をしていたが、時間も時間だったのでキリの良い所で切り上げて俺はログアウトすることにした。




