23 レアドロップ
ビッグプラントのドロップアイテムを確認すると、大量のプラントのつる以外にもいくつかの種類の素材があり、そしてもう一つ、見るからにランクの高そうなアクセサリー装備があった。
「癒しのコサージュ?」
「あ、おめでとうハルカ!」
「レアドロップのヒーラー用腕アクセサリーね。結構いい性能だったと思うけど」
「そうだね、当分は腕アクセサリーのことを考えなくて良くなるくらいには」
ドロップした癒しのコサージュというのはヒーラー用の装備らしく、一応他の全員も装備自体は出来るが魔法によるヒール量に関係するステータス以外はほとんど上がらないため、ヒーラー以外には役に立たない装備だった。
そういうことなので全員の総意でハルカに渡すことが決定した。かなりレアなアイテムで性能もいいらしく、全身店売り装備に更新しただけの今のハルカと比べると、ヒール一回あたりの回復量が1.5倍くらいに増えるらしい。
メインの武器や防具と比べればステータスへの影響力は少ないとされるアクセサリーひとつでその効果は破格と言えるだろう。
「お兄ちゃんの防具更新のためのボス攻略だったけど、思いがけず私まで強化されちゃったね」
「昔からハルカはドロップ運とダイス運がいいよね」
「本当、少し分けて欲しいくらいのリアルラックだわ」
「日頃の行いが良いからねー」
そんな風に嘯きながら笑うハルカは何とも嬉しそうだ。というか現実のハルカがあんなに嬉しそうにしているところはたぶん見たことがなかった。まあ最近はもう一年以上会っていないので、今は少しハルカの様子も違うのかも知れないけど。
「さて、それじゃあとりあえず街に戻ろうか」
「そうだね。材料は集まったから、チトセさんの防具も作れるし」
「チトセの防具が更新出来たらパーティーの攻撃力もかなり上がるだろうし、楽しみね」
何故防具を更新したら攻撃力が上がるのか俺も最初は不思議に思ったのだが、このゲームの皮装備はアタッカー用の装備という扱いらしく、装備すると防御力やHPだけでなく素早さや攻撃力に関連するステータスも上昇するのだった。
一方でキリカみたいなタンク用の金属鎧は攻撃力や素早さはほぼ上昇しないかわりに、同じランクの装備でも防御力やHPの上昇量が際立って多いという形で特徴付けされている。
そして近接職は皮装備と金属鎧を付け替えるだけでアタッカーとタンクの役割を切り替えることが出来るので、そのうち余裕が出来たら両方揃えていくほうがいいという風にハルカたちは話していた。
まあ今のところは俺がタンク役をやる機会はあまりないだろうし、まずはアタッカー用の装備を揃えることに全力を注ぐべきに違いない。
ということで俺たちが街を目指して南の森と平原を歩きながら、ときどき戦闘をこなしたりしていると、キリカ以外の三人がLv.5になった。
「お、ついにLv.5だね」
「Lv.5って何か特別なことでもあるのか?」
「Lv.5で大抵の戦闘職は範囲対象のアビリティや魔法を覚えるんです。これを使えば複数の敵を同時に攻撃出来るようになるので、大量の雑魚モンスターをまとめて倒したりとかで狩りの効率が良くなります」
「へえ、そうなのか」
俺が覚えたのは【ペネトレイト】というアビリティだった。槍を突き出すと槍の先端から出た闘気が敵を貫きダメージを与えるというもの。威力は通常攻撃よりいくらか高く、射程距離も10mほどある。欠点はアビリティを使ったあとの隙がかなり大きいことと、10秒ほどは再使用が出来ないことだった。
まあ雑魚をまとめて攻撃出来るというなら、これから使い道も増えてくるだろう。
ちなみにマコトは【ファイアバースト】という範囲攻撃魔法を、ハルカは【ラインヒール】という範囲回復魔法をそれぞれ覚えていた。
キャラクターレベルが上がると徐々に出来ることが増えていくのもこのゲームの醍醐味らしい。
そうこうしているうちに街に着く。
「そういえば誰か革細工師の伝手ってある?」
「ああ、それなら私の知り合いを紹介しよう」
ハルカの問いかけにキリカがそう答える。
これは俺が集めた素材を使ってマジックレザー系の防具を作るために、生産職である革細工師の力を借りようという話だ。
一応生産系の装備を持ってさえいれば誰でもアイテムの製作は可能なので最悪自分で作るのもありだったが、このゲームの生産は失敗する可能性があり、失敗すると元となった素材が失われる場合もあるらしいので、極力専門の生産職の人に頼んだ方がリスクが少ないのだという。
「ちなみにそのキリカの知り合いってどんな人なんだ?」
「男の人で、とにかく交友関係が広い人ね。性格は、一言で表すと陽気、かな。テンションが高くて、結構グイグイと人との距離を詰めようとするタイプ。ちょっとクセはあるかも知れないけど、悪い人じゃないわ」
俺の質問に対して、キリカはそんな風に答えを返した。
どうやら革細工師は気さくでフレンドリーな男性らしい。
まあ実際に会ってみたらよく分かるだろう。
ということで俺たちはそのまま街の中を移動し始めるのだった。




