表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/155

21 ビッグプラント戦2

 ビッグプラントの種の発射口が痙攣するように震えると、直後に俺に向かって【シードショット】が発射される。

 二段突きを放った直後ということもあって、さすがに避けられない。いやまあ仮に万全の状態であっても、この距離だとたぶんどうしようもないだろうけど。


 俺は回避したいという欲を捨てて、瞬時に防御の体勢を取る。

 そして左腕に衝撃。痛みはほとんどないが、少し痺れたような感覚が妙にリアルだ。


 しかし今の【シードショット】一発で体力の4割近くを持っていかれたのは驚きだった。

 皮装備とはいえ近接職の俺でこれということは、ハルカやマコトがクリーンヒットを食らったらそれだけで瀕死に追い込まれる気がする。


「お兄ちゃん、ナイスガードだよ」


 被弾した直後にハルカからヒールが飛んできて俺の体力が回復した。その向こうではマコトが【ファイアボール】の魔法でビッグプラントに攻撃していてなかなかにいいダメージを出している。


 どうやら俺が【シードショット】の標的となったことで、後衛の二人には若干の余裕が生まれていたようだ。


「なあハルカ、これってもしかして俺が狙われ続けるパターンが一番良かったりするのか?」

「お、よく気付いたね」


 まあ普通に考えたらそうだよな。

 【捕獲】されているキリカには【シードショット】は飛んでいかないようなので、となると残りの三人で一番防御力が高いのは俺だ。当然ながら防御力の高い人間が攻撃を受けた方が被害は少なくて済む。


 さらに言えばパーティーで今一番ダメージを出せるのはマコトだ。しかし鞭打ちを回避しながら隙を見てギリギリのところで魔法を詠唱しているマコトが、その上に【シードショット】の防御まですることになったら攻撃出来る機会はさらに減ってしまう。


 つまり攻撃面でも防御面でも、俺が狙われる状況こそがパーティーにとっては一番良い状況になるのだ。


 まあ【シードショット】の対象はランダムだから結局は運なのだけど。


 そんなことを考えながら【シードショット】を十発以上処理したところで、ようやくキリカが放り投げられる形で【捕獲】から解放される。綺麗に着地したキリカは流れるような動きでそのままビッグプラントに近づいてすぐに攻撃を再開した。


 ここからはいかに被ダメージを抑えつつダメージを与えられるかという戦闘になってくる。


 キリカが解放されてからも【シードショット】は定期的に飛んできた。狙われる対象が一人増えたことで後衛は少し余裕が増えたようだったが、それでも発射のタイミングにはターゲットが誰かを確認する必要があるし、常に複数の触手が鞭打ちを狙っていることにも警戒が必要とあって、あまり手数は増えていない様子だ。


 ちなみにキリカが【シードショット】で狙われたときは、確実に盾で受けていた。このゲームだと盾での防御はブロッキングとなって被ダメージがいくらか軽減されるらしい。元々の防御力が高いタンク役のキリカがブロッキングを成功させると、【シードショット】を被弾しても体力の1割程度しかダメージを食らっていない。


 俺だと3発で倒される攻撃をキリカは10発耐えられる。なのでキリカが狙われるとハルカは「ラッキー」と言いながらダメージが蓄積している他の誰かをヒールしたり魔法で攻撃したりと、戦況に応じて臨機応変に動きを変えていた。


 ハルカがやっているヒーラーという役割は敵だけでなく味方全員を見なくてはいけない。下手なヒーラーだと敵の攻撃への対処が甘くなったり、適切にヒールを飛ばせなかったりといったミスが起きて、徐々にパーティーのダメージが蓄積していきいずれ戦線が崩壊するのだという。


 しかしハルカはそういったミスが一切ないどころか、隙があれば攻撃にも参加していたりする。マコトが言うにはそれが出来るプレイヤーは本当に一部のトッププレイヤーだけらしい。


 そうした実力のあるハルカだからか、厳しい戦いをしているはずなのにその表情は実に生き生きとしていた。何というか、ゲームを楽しんでいるってこういうことを言うんだろうなという感じ。


「二回目の【捕獲】、来るよ!」

「【ソーンメイル】!」


 キリカがソーンメイルを発動したタイミングで俺は少し後ろに下がり、キリカが【捕獲】されると同時に前に出てビッグプラントに攻撃する。

 あとはさっきまでと同じように戦っていけば、特に問題は起こらない……はずだった。


 しかし今回はやけに運が悪いようで、【シードショット】が後衛に集中してしまっている。というか俺には一発も飛んでこない。とりあえず黙々と槍で攻撃を続けるが、しばらくすると雲行きが怪しくなってくる。


 徐々にキリカへの継続的なヒールが遅れがちになり、マコトやハルカにもダメージが蓄積し始める。特に集中砲火を浴びているマコトの状況は深刻なようで、さっきから一度も魔法攻撃が飛んでいない。


 ……どうする?

 俺はこのまま攻撃を続けていても大丈夫か?


 ハルカからは何の指示もない。というか俺に指示を出す余裕すらないように見えた。

 俺は近接アタッカーだからここを離れると攻撃が出来なくなる。だから俺の仕事はここで攻撃を続けながら、鞭打ちを避けて【シードショット】は防御することだった。

 その仕事を俺の独断で放り出してもいいものかどうか。


 ハルカとマコトはこの状況を耐えられると考えているのか?

 【捕獲】されていて余裕のありそうなキリカを見るが、キリカも判断に困っているようだ。


 そこに次の【シードショット】の対象が選択される。対象はハルカだった。

 しかしハルカはヒールの詠唱を止めない。何故ならハルカがここでヒールをしないと締め付け攻撃を受け続けているキリカが倒されてしまうからだ。


 ハルカなりに考え抜いた苦肉の策、リスクを取ったギャンブルプレーだった。


 ただ俺が長年磨き続けてきた勝負勘が、そのギャンブルは失敗すると告げている。

 これは理屈じゃない。だから理由が説明できるようなものでもなかった。

 ただこうした精神的に追い込まれたシチュエーションでのハイリスクなプレーは、ほぼ確実に良くない結果をもたらす。


 そう思ったときには俺は行動を起こしていた。


 もし俺がこの行動を起こしたせいでギリギリダメージが足りずにビッグプラントが倒せなかったとしたら、それは全部独断で仕事を放棄した俺の責任だ。だからそのときは三人にちゃんと頭を下げて謝ろう。


 そう腹をくくった俺はアイテムボックスから回復ポーションを取り出すと、それをまずハルカに向かって投げる。

 毒薬を敵に使うときと同様、アイテムを味方に使う場合も投げつければ効果を発揮する。


 といっても普通だとそんなに遠くにいる味方にポーションをぶつけることは出来ないので、あまり活用されることはない仕様だという。


 その後俺はハルカの場所まで走る。

 ハルカに蓄積していたダメージは多少回復出来たが、それでもまだ危険には違いなかった。


 ビッグプラントの種の発射口が痙攣するように震える。発射の前兆だ。

 俺はその場で足を止めると、ビッグプラントを凝視する。


 直後、【シードショット】がハルカに向かって発射された。

 その瞬間を待ち構えていた俺は、発射された種に向かって両手で握った槍を強く振りぬく。


 しかし【シードショット】の弾速は想像以上に速かった。

 しかも槍は野球で使っていたバットより長くて細いため、スイングするのも数段難しい。

 だからそれはある意味で必然だったのかも知れない。


 ――まずい、振り遅れた!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ