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20 ビッグプラント戦1

 南の森のモンスターを可能な限り無視しながら全力で駆け抜ける。

 この森の道中は道が狭くて視界も良くないのであまりパーティーで戦闘するのに向いていなかった。どうしても避けられない戦闘は俺とキリカが先手を取って処理する。


 さっきまで戦っていたリザードと比べると数段弱いモンスターしか襲ってこないおかげで、俺たちは何とか特に被害もないままビッグプラントの住処までたどり着くことが出来た。


 開けた場所の真ん中に、ビッグプラントが一体ぽつんと立っている。


「さてお兄ちゃん、戦い方はさっき説明した通りだけど、何か確認したいことはある?」

「いや大丈夫だ」


 俺はハルカにそう返事する。

 戦い方といっても俺がやることは敵の攻撃を極力避けながら、頑張ってダメージを出すだけだったりする。


 一つだけ注意しなければならないのは【捕獲】はビッグプラントに一番近くにいるプレイヤーが対象になるので、【捕獲】の前兆が見えたらキリカより離れた場所に位置取りをするということだ。


 それ以外は特にやることは普通の戦闘と変わらないという。


「あ、そうだハルカ、毒薬ってビッグプラントに効果あるか?」

「ん、あるけど、お兄ちゃん毒薬なんてどうしたの? まだ市場にも出回ってなかったと思うけど……ああ、もしかして」

「シャルさんに貰った」

「やっぱり」

「え、シャルさんってもしかしてシャルローネ? チトセさんいつの間に知り合いに?」

「確かシャルローネって誰とも仲良くしないって話だったけど……」

「よく分からないけど、お兄ちゃんはシャルローネに気に入られたみたいだよ。まあその話は後でじっくり聞くとして、今はビッグプラントに集中しよっか」


 そう言いながらハルカはパーティーのひとりひとり順番に【ガードコート】という魔法をかけていく。これは名前のとおり防御力を向上させる補助魔法だ。

 これがあると運悪く後衛にビッグプラントの攻撃が集中しても、何とか耐えられるらしい。ハルカのヒールが間に合えば、の話だけど。


「よしじゃあお兄ちゃん、今回は石の代わりに毒薬投げようか」

「了解」


 このゲームでアイテムを敵に使うときは投げつけるだけでいいらしい。

 俺が毒薬を構えるとキリカが前に走り、マコトとハルカは魔法の詠唱を開始する。


 俺はちょうどいいタイミングを見計らって毒薬を投げると、そのままキリカの後を追いかける。


「はっ! 【ファストスラッシュ】」


 毒薬がビッグプラントに当たって毒の状態異常にすると同時に、キリカがビッグプラントに斬りかかる。そのまま流れるようにアビリティを発動して追撃を入れていた。


 それでもビッグプラントの体力は1%も減っていない。さすが格上のボスモンスターだけあって、今まで戦ったどのモンスターと比べても段違いの耐久力を誇っていた。


 直後に俺も槍で攻撃し、【二段突き】を叩きこむ。それでようやく合計1%程度のダメージに達したようだ。


「……これは長い戦いになりそうだな」

「ボス戦はどれだけ集中力を切らさないように戦えるかの勝負だからね」


 キリカは俺の言葉にそう答えた。

 なるほど。そう言われてみるとこれは自分との戦いでもあるわけか。


 しかしそういうことなら俺も自信がある。ピッチャーは一球たりとも気の抜けた球を投げるわけにはいかなかったから。


 その後ハルカとマコトの魔法がビッグプラントに着弾し、ビッグプラントの体力は合計で4%ほど削れていた。

 やはりマコトの魔法がよく効いている。武器の性能もあるが、ビッグプラントは火属性の魔法に弱いというのも大きいようだ。


 戦闘状態になったビッグプラントはその体から複数の触手を伸ばし、俺たちにそれぞれ鞭打ち攻撃を仕掛けてくる。ちなみに触手は後衛の二人のところまで伸びていた。どうやらこの戦場に安全地帯はないらしい。


 ハルカとマコトは鞭打ちを回避してすぐに魔法の詠唱を行うが、その後もう一度マコトに鞭打ちが襲い掛かる。マコトはためらわず即座に詠唱をキャンセルして回避行動を取った。その間に狙われなかったハルカが【シャイン】の魔法で攻撃を行う。


 鞭打ちは攻撃の直前に大きく振り上げるモーションがあるので、ちゃんと回避に専念していれば素早さの低い後衛でも避けられるようだ。


 しかし何というか、マコトもハルカも動きに全く迷いがない。特にマコトなんかは一番ダメージを出せる立場だから、より多く魔法で攻撃したくなりそうなものだけど、そうした欲を全く出さないで触手に狙われた時には回避を徹底していた。


 後衛がそうしている間、俺とキリカも触手の鞭打ちを回避しながら合間に攻撃を続けていく。


「キリカ、そろそろ一回目の【捕獲】が来るよ」

「分かってる……来た、【ソーンメイル】!」


 俺は捕獲を食らわないように一旦後ろに下がり、キリカは前に出る。するとビッグプラントは明確にキリカを狙い、複数の触手をキリカを取り囲むように伸ばす。


 ちなみにこの【捕獲】という攻撃はゲームシステム的に回避不可能な攻撃らしい。頑張って避けようとしても、触手が強引に追尾して対象を捕まえてくるという。


 なのでキリカは防御アビリティの【ソーンメイル】を発動させた後は大人しく触手に捕まるのを待っていた。そうして触手はキリカを捕まえるとビッグプラントの目前まで一気に引き寄せて、そのままキリカに締め付ける攻撃を開始する


 締め付けは継続的にダメージを与える攻撃で、放っておくと数回のダメージでキリカは倒されてしまう。なのでハルカが定期的にキリカをヒールすることで助ける必要があった。


 ただここで問題になるのは、その間にも別の触手が鞭打ち攻撃を続けているということだ。つまりハルカが狙われたらハルカは回避をしなければならないので、キリカへのヒールを詠唱することが出来ない。


 このビッグプラントがヒーラー泣かせのボスと言われる理由の一つがこれだった。

 そしてもう一つが――。


「【シードショット】が来るよ。回避は出来なくてもいいから、急所への直撃だけは極力避けてね」


 【シードショット】は基本的に避けられないものと思われているらしく、ハルカとしても当たるのは仕方ないという扱いだった。それでも無防備にクリーンヒットを食らうと大ダメージになるので、それだけは避けた方がいいとのことだ。


「ああ、了解」

「私はチトセさんほど自信はないけど、頑張るよ」


 ここから鞭打ちと【シードショット】が合わさってくる。【シードショット】のダメージとキリカへの継続的なダメージの両方をヒールしなければならないハルカへの負担がとにかく大きそうだ。


 俺はハルカに負担をかけないためにも、可能な限り【シードショット】も回避するつもりで動くとしよう。


 俺が鞭打ちを回避している間に、【捕獲】されているキリカへの締め付けのダメージが入る。すると少しだがビッグプラントがダメージを受けていた。


「ああなるほど、【ソーンメイル】の反射ダメージか」

「そのとおり。【捕獲】からの締め付けは威力が低い攻撃を連続で何回もしてくるから、【ソーンメイル】の合計ダメージが馬鹿にならないのよね」


 【捕獲】された状態のキリカが落ち着いた様子で説明してくれる。

 普通に考えるともっと慌てたり切羽詰まったりしていそうなシチュエーションだけど、ゲームシステム的にキリカは行動不能状態なので何も出来ない。

 それは言い換えれば「暇」なのだった。


 とはいえ触手に締め付けられている状態で苦しんだりもせず平然としているキリカは、どことなくシュールだ。


 その後、二回目の締め付けのダメージが入ると同時にハルカのヒールがキリカに飛ぶ。

 俺も余裕があったのでビッグプラントに攻撃を行い、再使用が可能になっていたので【二段突き】も叩き込んだ。


「あ、お兄ちゃん危ない!」


 直後にハルカがそう叫ぶ。理由は俺にもすぐ分かった。

 ビッグプラントの本体が俺の方を向いていたからだ。


 そうして俺と2mくらいしか離れていないこの距離で、ビッグプラントは種の発射体勢に入る。


 ――最初の【シードショット】の標的は、俺だった。


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