表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/155

18 リザード狩り

 街から南に向かって道なりに進んでいき、森が見えてくる頃に西の方へと少し進んだ先に大きな岩があった。その周辺にリザードたちの姿がちらほらと見える。


 強くしたゴブリンみたいなモンスターという説明もあったが、確かに様々な武器を持った種類がおり、それらが3~4体ほどのリンクを形成している。


「確かマジックレザーを作るのに必要なリザードの皮は10個だよね?」

「そだね。お兄ちゃんは魔法石が3つあるから、30個取れば防具3つ分集まる感じ」

「たぶんそれくらい狩れば全員Lv.4になれるし、ちょうどいいわね」


 とりあえずはここでまずリザードを狩り、俺が求めているリザードの皮を集めながら全員のキャラクターレベルを上げる予定だった。

 南の森のエリアボスを倒すには、覚えるアビリティ的に最低限Lv.4は必要という目算らしい。


「じゃあまずはあのリザードのリンクから行くけど、ゴブリンと違って今回はヒーラー役のリザードシャーマンがいるから、お兄ちゃんとマコトはあれを最優先で狙って倒す感じで」

「敵の前衛は複数いても全部私が引き付けるから、チトセはゴブリンの時と違って敵の後衛を全部倒してから最後に前衛という順番が基本ね」

「ああ、分かった」


 ハルカとキリカから戦闘方針のレクチャーを受けて、俺はそう返事する。

 金属鎧と盾を装備して防御力が格段に上がったタンク役のキリカを囮にして、キリカが耐えている間にアタッカー役が柔らかい敵から倒していくというのが、どうやらこれからの基本戦術になるようだ。


「さて、それじゃあ……お兄ちゃん、石投げる? たぶんあまりダメージ通らないけど」

「まあ一応投げておくか」


 あまり意味はないようだけど、一応はダメージも入ることだし敵の堅さを知る意味でも投げてみることにする。

 こうして物を投げておけば【投擲】のスキルレベルも上がるかも知れないし、そうなればダメージが上がる可能性もある。


 今の敵の後衛までの距離は40mくらい。野球のベースの対角線より少しだけ長い感じだ。ちなみにこの距離だとマコトたちの魔法はまだ射程外らしい。そう考えると魔法の有効範囲は意外と短いような気もした。


 あと10mくらい近づけば魔法で先制攻撃も出来るようだが、それをすると敵からの反撃がマコトに集中してしまい、そのまま防御力の低いマコトが倒されてしまうのでやらないとのことだ。


 俺は石を拾ってゆっくりと狙いを定める。

 モンスターは戦闘中以外だと基本的にほぼ動かないようで狙いやすい。野球では動く的にボールを投げることは無いから、相手が止まっていないと当てる自信はあまりなかったりする。


 長年練習を重ねたフォームで石を投げる。石は吸い込まれるように、敵のヒーラーであるリザードシャーマンの顔面に直撃した。


「よし」


 俺はその場で小さくガッツポーズをする。狙ったところにドンピシャで投げられるというのは、それだけでやっぱり楽しくて嬉しいことだった。

 まあ現実世界では何度か「キャッチボールって何が楽しいの?」なんて言われた経験もあるから、もしかしたら普通の人にはあまり理解されない感覚かも知れないけど。

 ちなみにハルカは小さな頃から絶対にそういったことを言わない子だった。


 石がリザードシャーマンに与えたダメージは敵の体力の1割もないくらい。

 ゴブリンなら一撃だったことを考えると。実質的な耐久力はゴブリンの10倍くらいありそうだ。


 俺が攻撃したことで、敵の4体リンクが戦闘状態になる。敵の前衛は斧を持ったリザードレイダーと、手にナックルを装備したリザードグラップラー。後衛はヒーラーのリザードシャーマンと魔法使いのリザードメイジ。


 前衛もかなり攻撃力が高そうな雰囲気だったが、その二体をキリカが一人で引き付けるように動く。

 さすがに二体を相手にしては攻撃を全て避けることは不可能なようだったが、キリカは被弾を最小限にとどめ、攻撃を受けるときも盾で防ぐなど上手く捌いていた。

 包囲されて死角から攻撃されないように、戦いながらも位置取りをこまめに変えているのが分かる。

 理屈は分かるし言葉で言うのも簡単だが、実際にそれが出来るかというと別問題だ。


「凄いなあれ。一体どうやってるんだ?」

「キリカ本人は敵の位置関係をコントロールして、1対2じゃなくて1対1を二回に分けてるんだって言ってたよ。並みはずれた視野と判断力が必要だから、あれが出来るプレイヤーはほとんどいないと思うけど、お兄ちゃんならもしかしたら出来るようになるかもね」

「いや、どうだろうな」


 少なくとも今すぐには無理だろう。

 そんな会話をハルカとしながら、俺は魔法を詠唱中のシャーマンの元に走り、槍で攻撃する。

 手ごたえはあるが、そこまで深手を与えた感じでもない。ダメージにすると体力の1割と少しといったところ。やはり格上のモンスターだけあって堅い。


 俺が攻撃してもシャーマンの詠唱は止まらなかったようで、直後にヒールが発動してシャーマンの体力は石のダメージも含めて全回復してしまった。

 ……これは俺一人じゃどうしようもないな。


「チトセさん! 私の魔法の着弾に合わせて最大ダメージをお願いします!」

「ああ、了解」


 マコトからそう声がかかったので、俺はマコトの魔法を待つことにする。

 数秒後、マコトの【ファイアボール】の魔法が発動し、火の玉が二つシャーマンに向かって飛んでいく。その着弾の瞬間に合わせて俺は槍で通常攻撃した上で【二段突き】を発動させた。


 マコトのファイアボールがシャーマンの体力を7割以上削り、俺が残りを削ってトドメを刺す。


 装備のランクが違うとはいえ、少し切ないダメージ差を感じた。まあ気にしても仕方がないことだろう。


「さすがチトセさん、ナイスタイミングです!」


 そんなに難しい動きではなかったが、それでもマコトはそう言って俺の動きを褒めてくれた。

 それを聞いた俺は、野球でもこういうのあったなぁと少し懐かしい気持ちになる。平凡なゴロを処理しただけでもベンチ含めメンバー全員でナイスプレーと言ったりとか、そんな雰囲気にどこか似ていた。


 シャーマンを倒した直後、息をつく間もなくメイジの魔法が発動する。標的は俺だった。

 メイジの杖から雷が放たれ、俺はそれを避けきれずに被弾してしまう。


 さすがに雷魔法は弾速があって避けづらい。狙いは直線的なので発動直前に横に跳べば避けられそうではあったが、発動タイミングを掴むのに少し慣れが必要そうだった。


「おお、お兄ちゃんの初被弾だね!」

「何でハルカは少し嬉しそうなの?」


 どこか嬉しそうにそう言ったハルカは、マコトにツッコミを入れられながらも俺にヒールを飛ばしてくれる。

 そうして体力が全回復した俺はそのままメイジに近づいて攻撃した。

 与えるダメージは1割強でシャーマン相手と変わらないが、もう回復役が敵にはいないので、このまま続けていけば俺だけでも倒せるだろう。


 まあマコトがすぐに魔法でトドメを刺してくれたけど。


 あとはキリカが引き付けている前衛二体のところまで引き返して、挟み撃ちにする形で一体ずつ倒していくだけだった。

 そっちはハルカも【シャイン】の魔法で攻撃に参加してくれたので、残りの戦闘はあっという間に終わった。


「この調子ならどんどんいけそうだね」

「そうね、チトセの通常攻撃から【二段突き】の連携ももう完璧みたいだし」

「シャーマンを討ち漏らす心配もないので安心です」


 リザードたちは明確に格上のモンスターだったが、しっかりと考えられた戦術とそれを実行する能力が俺たちのパーティーにはあった。


 確かにこれならハルカの言う通りどんどんいけるだろう。


「次はあのリンクね。戦い方はさっきと同じで」


 そんなハルカの言葉を聞いて、俺はまた石を拾って構える。


 こうしてみんなで一つの目標に向かって協力していくことに、今の俺はどこか懐かしい感覚を思い出していた。


 ――もっとみんなに貢献したい。みんなのために活躍したい。


 それはいつか俺が野球をしていて感じたものと、とてもよく似た形をしているように思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ