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17 準備

 俺たちは前回同様ハルカをリーダーとした四人パーティーを結成する。


「強敵に挑むなら少しアイテムとか準備したいのだけど、いい?」

「あ、そだね。じゃあ10分後くらいを目途でここに再集合する感じで」


 そんなキリカの問いかけに、ハルカはそう答えた。

 キリカとマコトはすぐさまその場を立ち去り、回復アイテムなどを調達しに行く。何というか行動が早い。


「なあハルカ、俺は何を準備すればいい?」

「んー、HP回復のためのポーションと、あとは毒消し何個かくらいかな。といっても基本は私が魔法で治療するから、あくまでもお守りの意味が強いけどね。それ以外は特にないよ」


 と言いながら、ハルカはハルカで必要なものがあるからと言って市場の方に歩いていく。

 こうして俺は一人になってしまった。さて、どうしようか。


 というのも、実を言えばポーションも毒消しも、最初にハルカに付き添われて装備更新をしたとき、アイテムの効果や使い方の説明ついでにいくつか買ったものがまだ手元にそのまま残っていたりする。


 ハルカについて行ってアイテムの勉強とかをしても良かったかなとも思うが、少し思いつくのが遅くて完全にタイミングを逃していた。


「うーん……ん?」


 そんな風にして少し悩んでいると視界の片隅に、俺の数少ないフレンドの一人であるシャルさんの姿を見つける。


「あ、シャルさん」

「ああ、チトセさん。さっきはありがとうございました」


 丁寧にお辞儀をするシャルさん。

 俺は一回ログアウトを挟んでいるので、さっきという感じはあまりしなかったが、確かに言われてみれば俺たちが出会ったのはわずか数時間前の話だった。


「チトセさんは……パーティーを組まれているということは、これからお仲間の方と狩りですか?」

「そうだね。リザードとかを狩った後、ちょっと強敵に挑もうかなという感じで。それで仲間はみんな今アイテムとかの準備中」

「なるほど、そうですか。……そうだ、これはお礼とは別ですが、余り物なので差し上げます」


 そうしてシャルさんから取引を申し込まれる。取引は初めてだから少し戸惑うが、とりあえず承諾する。

 するとすぐにシャルさんからアイテムが提示された。


「そのままOKを押してください」

「ああ、分かった」


 シャルさんの指示に従うと取引が成立する。

 貰ったアイテムは毒薬が三つ。


「……毒薬?」

「ええ。チトセさんに倒していただいたワーカーアントがドロップした蟻酸から作れるアイテムで、ちょうどそこにいるおばあさんの納品クエストで二つ必要になるんです。まあ貰えるのは少しのお金と生産職用の装備だけなので、今のチトセさんにはあまり必要ないかも知れませんが」

「いや助かるよ、ありがとう。さっそく納品してみる」


 そう言って俺はすぐそこに立っていたおばあさんのNPCに話かけてクエストを受注し、その場で完了報告まで済ませる。

 するとシャルさんの言うとおり確かに少しのお金と、ワンランク上っぽいすり鉢とごますり棒のセットが貰えた。まあおそらく今すぐは使わないだろう。生産をする人なら重要そうな装備ではあった。


 しかしこのおばあさん、隣人トラブルを解決するためとか言いながら毒薬なんか手に入れて何をするつもりなのか。いやまあ、きっとろくでもないことだと想像はつくけど。


 シャルさん曰く、生産素材の加工の精度が少しだけ良くなるので、もし今後生産をするつもりがあるなら倉庫に預けておくといずれ役に立つかも知れないとのことだ。


 まあ近いうちにそういう機会もあるかも知れないので、シャルさんの言うことに従ってあとで倉庫に預けておこう。


「そういえば毒薬が一つ余ったんだけど」

「それは戦闘にも使えますので、チトセさんが使ってください。敵に使えば毒による一定時間の継続ダメージを与えられます。雑魚相手ならさっさと攻撃した方が早いとは思いますが、強敵に挑むそうなので長期戦なら少しは役に立つかと」

「なるほど、そう言われてみると確かに役に立ちそうだ」


 俺の役割はアタッカーなので、少しでも与えるダメージが増えるならそれに越したことはないだろう。まあ実際どのくらいダメージが増えるのかはよく分からないけど、無いよりはあった方が良いはずだ。


「それでは私はまた素材集めに戻ろうかと思います」

「ああ……というかシャルさん、もうLv4なんだな」


 気付けばキャラクターレベルを追い抜かれていた。


「ええ、このゲームは生産すると経験値も入るんです。売れるものを生産して、それを売ったお金で素材を買ってまた生産、というサイクルに入るとある程度まではすぐに育ちます。まあゲームも始まったばかりであまり素材自体が市場に出回ってなかったり相場が安定してなかったりで結局は自分で集めることも多いんですけどね」

「へぇ……でもやっぱり生産って覚えることが多くて大変そうだな」


 生産レシピに素材の入手法や相場などの知識がないと、たぶんシャルさんのように上手くはいかないだろう。


「ふふっ、だからこそ上手く回せると楽しいんですよ。……それでは、失礼します」


 そう言って丁寧にお辞儀をすると、シャルさんは西門の方へと歩いていった。そういえば西にはどんなモンスターが出るのかまだ知らないな。今度行ってみるか。


 それからほどなくして、ハルカたちが戻ってくる。


「三人とも、おかえり」

「お待たせしました、チトセさん。すみません、ちょっと時間かかっちゃって」

「いやぁ、シャルローネ印の良質なマジックポーションが安く大量に市場に並んでたから、思わずマコトと二人で買い占めちゃったよ」

「まだゲームが始まって一日なのにもう市場を支配しつつあるあたり、さすがはシャルローネという感じだったわね」


 プレイヤーが売りたいものを並べている「市場」はまだゲームが始まったばかりでそこまで品揃えは良くないので、しばらくは店売りのアイテムを買うことになるだろうと、昨日の買い物のときに俺はそんな話をハルカにされていた。


 しかしどうやらシャルさんはすでに市場での売買を回しているようだ。

 ベータテスト時代から有名な生産職のプレイヤーとは聞いていたけど、もしかしたら想像していた以上に凄い人なのかも知れない。


「――さてと、準備も出来たことだし、それじゃあまずはリザード狩りからだね」


 そんな風に市場の話がひと段落したところでハルカがそう言ったので、街の南を目指して俺たちは移動を開始するのだった。


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