16 強敵
「さてと、装備はこんな感じかな?」
「うん、やっぱりキリカは鎧を着てる方が似合うよね。さっきまでは町娘がただ剣持ってるだけみたいな感じだったけど」
「初期装備も見た目は悪くないけど、どう見たって普通の服だもんね……別の大陸からやってきた冒険者というなら、もう少しそれらしい格好をしていても良さそうなものだけど」
ハルカとキリカがそんな風に装備の見た目に関する話で盛り上がっていた。
金属鎧と盾を装備したキリカは、確かに格好いい女騎士といった感じで良く似合っていた。
「資金的に片手剣は更新できなかったけど、問題ないよね?」
「うん、ウィザードスタッフ持ったマコトがいるからね。たぶん今のマコトはこのサーバーで一番攻撃力が高い魔法使いだろうし、それにお兄ちゃんもゴブリンランス持ちだから」
「店売りの片手剣は性能が初期装備と大差なくて、極力買いたくないから助かるわ」
ウィザードスタッフというのはマコトが魔法石を使って作った杖で、初期装備より4ランクくらい上の武器らしい。
このゲームはキャラクターレベルよりも装備の強さの方がステータスに大きな影響を与えるようで、通常は強くなるためにワンランクずつ装備を更新していくものだが、レアな素材を手に入れたり装備自体がドロップしたりするとマコトのように一気に強くなることも可能だという。
まあある程度の強さの装備になると最低装備レベルといったものが設定されていたりするので、強い装備を譲ってもらって一気に強くなるみたいなことにも限度はあるらしいけど、詳細なところまでは今の俺には分からない。またそのうち機会があればハルカに訊くかwikiで調べることにしよう。
とりあえずこのゲームでは基本的に「装備を整える=強くなる」という図式になるようで、効率よく素材を集めたりモンスターからの装備ドロップを狙ったりと、プレイヤーたちはそれぞれの考えに基づいた戦略で強くなる競争をしているのだとか。
つまり何も考えずがむしゃらにモンスターを倒してキャラクターレベルを上げているだけでは、なかなか強くなれず周囲に置いて行かれてしまうということだ。
ただがむしゃらに野球をやっていただけの俺としては、その辺りは少し耳が痛い話だったりもする。
「あ、そうだキリカ。俺とフレンドになってくれ」
「ああ、そうね。昨日は完全に忘れていたわ」
そうしてフレンド申請を送ったらすぐに承諾された。
と、ちょうどそのときマコトがログインしたと通知が出る。
「訊かれる前に噴水前ってメッセージ送ってやろっと。優しいね、私」
ハルカが通知を見て即座にメッセージを送ったようで、ほどなくしてマコトが姿を現す。
「ごめんね、ちょっと夕食が長引いちゃって」
「別に大丈夫よ。ちょうど私の装備更新が終わったところだし」
「さて、それじゃあ四人揃ったし、何しようか? 何か提案ある人ー」
「私は今日は魔法石取れて満足なのでパスで」
「私も金策とかクエストとかやりたいことはいくつかあるけど、明日から一人で出来ることがほとんどだからパスね」
「じゃあお兄ちゃんは?」
「俺? えっと、それじゃあ今から言う素材が欲しいんだけど、取りにいけそうなのあるか?」
そう言って俺はさっきログインする前にwikiで調べた槍術士の魔法石を使った防具装備の素材を言う。
ちなみにその素材というのは「リザードの皮」と「プラントのつる」というものだ。それらがどれくらいの手に入りやすさなのかは知らないので、三人の判断を仰いでみる。
「あーマジックレザー系の素材かぁ……もしかしたら、行けなくはないのかな?」
「うーん……ダメージに関しては私の魔法があるから余裕はあるけど……」
「ん、やっぱり素材を落とす敵が厄介だったりするのか?」
「まあね。リザード系は行動パターンが増えて強くなったゴブリンみたいな敵で、そこまででもないんだけど、プラント系がちょっとね」
「西の未開拓エリアがまだ解放されてない現状だと、プラント系の敵は南の森の奥にいるエリアボスだけなんです」
「四人で挑むなら適正レベルは7以上、もちろん全員がそれなりの装備が整っている前提での話ね」
「あー、じゃあやっぱり現状だと厳しいか」
俺たちはまだLv.3、キリカにいたってはLv.2だ。それにハルカとキリカはまだ店売りの装備に更新しただけで、装備が整っているとは言い難い。
キャラクターレベル自体はリザードを倒しているうちに全員Lv.4程度まで上がるとしても、装備ばかりはすぐにはどうしようもない。装備を強くするためには装備が必要というジレンマだった。
まあだからこそワンランクずつ装備を更新していくのがこのゲームの基本という話になるのだけど。
何にせよ現状では厳しいということなので、じゃあ今回は見送りで、と俺は言おうとする。しかし、それを俺が言う前にハルカが口を開いていた。
「まあ面白そうだし、行ってみようか?」
「そうだね。一応は私たちのプレイングスキル次第で何とかなる範囲だろうし」
「それに安全に狩れる敵をたくさん倒すより、頑張って一体の強敵を倒す方が達成感もあるからね」
気付くと何故か三人ともノリノリになっている。
「三人ともそれでいいのか?」
「何言ってるのさ、お兄ちゃん。それでいいも何も、ゲームは本来自由なものだよ」
「遊び方は人それぞれですからね」
「無茶な敵にとりあえず挑んでみて全滅するのだって、よくある遊び方の一つよ」
やっぱり無茶なんじゃないか!
なんてことを思いながらも、そもそも最初に言い出したのは俺なこともあり、三人がノリノリである以上、それを今さらやっぱり止めようなんて言えるはずもなく。
結局俺たちは無茶と知りながら、強敵とされる南の森のエリアボスに挑むことになったのだった。